第148回 大江さん、ありがとう

2020.12.29
いしだのおじさんの田園都市生活

94年ごろ、「市民が耕す農研究会」に参加し、明峯哲夫さんと出会った。
私、若かった。
学生も多い集まりだった。林さんもその一人。
明峯さんが「本を出そう」と言い始めたが、学生たちは「無茶だ」と尻込みした記憶がある。
私も、「簡単ではないな」と思ったが、オモシロソウとも感じていた。
そのときに出会ったのが大江さんだった。
学陽書房に勤めていた大江さんは、自分らしい仕事ができなくなった、と、退社。
コモンズを立ち上げた。
私は仕事もバタバタしていた時期でく、詳しい経緯を覚えていないのだが、本の準備は進んだ。
10人以上の書き手をまとめあげて、本はできた。
そして、我々の本『街人たちの楽農宣言』はコモンズの最初の出版となった。
1996年のことだ。
本は、当初、秋山豊寛氏の名を借りて出される案で進んでいた。
しかし、大江さんが秋山氏と喧嘩して?いや、氏が何かでキレて?ご破算となった。
で、明峯哲夫・石田周一の共編著書となった。
私は、嬉しいような、恥ずかしいような、、、
書店に平積みされている本に自分の名があるのを見たときの何とも言えない胸騒ぎ、、、
それでも、「文壇デビュー」などとふざける私を大江さんは穏やかに笑っていた。

明峯さん大江さんとの付き合いから、私は多くを学ばせてもらった。
明峯さんの「都市にこそ農が大切」「耕せ!市民」というメッセージを今実践している。
「第32回 故郷を耕す」「第79回 時代を駆け抜ける」「第94回 STARTMEUP」
明峯さんが『いのち育む有機農業』に書いた「鳥インフルエンザといのちの循環」。
パンデミックの状況でウィルスとどう付き合っていくか、今に通じる論考だ。
大江さんには「石田さんは単著が書ける」と励まされ、『耕して育つ』(2005)
グリーンのことを障害福祉の現場のことを楽しみながら紹介するつもりで書いたのだが、
その実践として私自身の「生きざま」も書かねばならないことは、ときに辛かった。
大江さんの存在、大江さんとの付き合いなしにはあり得なかった。
百姓になりたい、物書きになりたい、という二つの夢がかなった?と、また、笑った。
この本が出せたことで、私の仕事は大きな広がりを得た。
グリーンがNHKの番組になったことも、今では遠い思い出だけど、、、

最近では、『有機農業大全』(有機農業学会・2019)にコラムを書かせてもらった。
「石田さんらしくて、学会らしくない、いい文章」と褒めてもらった。
お酒もよく呑んだ。
私が横浜を離れ三鷹に移ったときには、明峯さん、大江さんと3人で呑んだ。
明峯さんのご長男のお店「のらぼう」(西荻窪)に誘ってくれたのだった。
明峯さんは震災と原発事故の状況で「それでも種をまこう」と主張されていた。
年末は練馬の白石農園に隣接するLa毛利の忘年会。
La毛利がまだ保谷の駅の近くにあったころにも何度か伺った。
『地域の力』が2万部を超えたときのパーティにも声をかけてもらった。
このベストセラーのなかに、グリーンな~に谷っ戸ん田が数行だが紹介されている。
こういう場で、また多くの多様な人たちと出会えた。

そして、2020年1月、我がシェアハウスでのNORAサロン。
第137回 田園ふれあいランドを実現する会 は、つい昨日のことのようだ。
少し、引用したい。
  「このコラムの愛読者」と言ってもらい嬉しかった。
  横浜で市民が農にかかわること、
  「23区には水田が残っていない」なか横浜にはまだまだ残っていること、
  横浜市の行政が1960年代から政策的に農業に力を入れていること、
  野菜の自給率も19%もあること、
  日本各地で地域おこしや田園回帰が進んでいること、
  一方で、日本の稲作はピンチであること、
  本当の「積極的平和主義」とは何であるか、
  などなど、、、

  また、私が書いてきた、
  「田んぼは命をはぐくむ場であり、効率追求が似合わない」
  「利益追求も必要になる福祉農園のジレンマ」など、
  みんなで考えたいテーマも取り上げてくれた。

練馬から本とお酒をトランクに詰めて来てくれ、多くを語り合い、楽しく呑んで食べて、
「この会は毎年恒例にしよう」「ノーギャラでも、また来るよ」と言ってもらった。
駅まで送って別れた手を挙げた後ろ姿。

大江さんには、「石田さん、もう1冊本を創ろう」と、言ってもらっていた。
しかし、ここ10年の私にはそれができなかった。
スタートを切ることもできていない。
大江さんがずっと待っていてくれると甘えていた。

そんななかでの、お別れ。大きな喪失。
仕事で新しいチャレンジをしたい。
新しい場を創っていこうと考えている。
田園ふれあいランド「コモンズ新治」。
大江さんへの感謝をカタチにしたい。
誤解無いように加えておくが、この仕事は、利用者たちのため、地域のために進めていく。

大江さんについてのステキな文章、
いくつか紹介しておく。
辻信一さん
「グローバルからローカルへ 大江正章のことば」
中野佳裕さん
追悼文──大江正章さん、ありがとう。
開発教育協会
「考える素材」を提供する編集者として・大江正章さん(コモンズ代表)

辻さんが紹介しているが、
コモンズとは、「みんなのもの」「人と人を結ぶ場」「地域の共同の力」だ。

『地域に希望あり』(2015・岩波新書)のあとがきには次のようにある。
政権が、時代遅れのGNP至上主義に陥っている、が、
たとえば次のような(豊かさの)指標はどうだろうか。あえて試論を提示して、批判をあおぎたい。
① NGO ・ NPOの数の多さ−私益ではなく共益の追求
② エネルギー消費量の少なさと自然エネルギー比率の高さ
③ 女性の経済活動参加率の高さ
④ 職種の多さ(特定企業に雇用される人々の比率の低さ)
⑤ 頼りにできる知人や制度の多さ−依存し合わない自立は単なる孤立
⑥ 移動における公共交通・自転車利用率の高さ
⑦ 人口におけるIターン・ Uターン者率の高さ−同質な社会ほどもろい
⑧ 資源の地域内循環率の高さ
⑨ 全国展開のスーパーやコンビニでの購買金額の少なさと地域金融機関(信用金庫・信用組合・NPOバンク)への預金率の高さ−資金の地域循環
⑩ 施設ではなく地域で暮らす障がい者や高齢者の比率の高さ
⑪ 家庭菜園・市民農園などで食べものを作る人々の多さ−自給の喜びと脱市場経済

(石田周一・2021年還暦)

いしだのおじさんの田園都市生活