第149回 自称「都市農業活動家」

2021.1.31
いしだのおじさんの田園都市生活

12月と1月に恵泉女学園大の授業「社会園芸特講」に特別講師として参加した。
これも、大江さんからのつながりだ。
コモンズの忘年会などで何度か顔を合わせていた澤登先生からお話をいただいた。
グリーンで仕事をしていたときにCSLの実習を受けていたこともあった。
先生は山梨県牧丘町でぶどうとキウイフルーツの栽培をされている農家でもある。
日本有機農業学会の会長さんも務めておられる。

何をどのようにしゃべろうかと、思案した。
依頼のメールには、
「農業と福祉など、石田さんがこれまで行ってこられたこと、そしてそれを通じて感じていることを」とあった。
シラバスには、
「園芸を中継ぎとした豊かな人間関係の再構築、コミュニティの再生の事例」から学び、
「地域の課題解決のために園芸を活用する具体的な方法の提案」
「地域コミュニティ再生のために何らかのアクションを起こす」
とある。
そんな授業を受けてきている学生さんたちは、どんなことを学びたいのか?
実際に会えることを楽しみしていたが、授業はリモートになってしまった。
12月は学校に伺い、ゼミ生7名ほどと先生は教室にいてくれて直接話ができた。
しかし、緊急事態宣言下の1月は、30名以上の学生さんはZoom画面の向こう。
しかも向こうはビデオオフなので、リアクションが分からず、ちょっと残念でした。

しゃべるときは、当然だが、聴いてくれる相手がどういう人たちなのかを知りたい。
特に私の場合、講演や授業と言っても情報収集や研究による知見を伝えるのでなく、
自分の実践いわば自分自身のことを語るから、なおのことだ。
他の講演などでは、テーマと集まる(であろう)人から想像をする。
会の趣旨、参加者(名簿)のプロフィール、そして会場で実際に顔を見て言葉を選ぶ。
「農×障害者」「青葉区の自然」、「自閉症児者を育てる」、「農福連携」、「里山で稼ぐ」、、、
思えば、いろんなところでしゃべる機会があった。
どのテーマもスペシャリストというほどではないので、ハンパな話?
でも実践をしているから活きた話?
自分のやっていること、やってきたこと、やろうとしていること、
を、なるべく楽しく、たまに笑える話をはさんで話そうと思って現場に立つ。

今回、最初に送った資料の骨組みは次のような内容だった。

都市農業の場でさまざまな活動

1、 田園都市生活シェアハウス 代表(オーナー)
農的自給的暮らしのシェアハウス

2、幸陽園農耕班 支援員
職業として、社会福祉法人同愛会の障害福祉サービス事業所の農耕班職員(支援員)

3、特定非営利活動法人よこはま里山研究所NORA 理事
「里山とかかわる暮らしを」 読み物(コラム)毎月締め切りを守って147回!

4、な~に谷っ戸ん田(2007年4月~2013年10月/275回) 代表
「農と食」 市民が田んぼ、里山を楽しみながらそれを守るこころみ

5、グリーン 設立準備から20年(1993~2011)所長
石田周一『耕して育つ 挑戦する障害者の農園』(コモンズ/1995)
障害児と出会い、農と出会って、取り組んできたこと

6、個人史
1961年生まれ、田園都市生活50年、高度経済成長から脱成長へ

これは、時系列的には遡るカタチだが、順番にはあまりこだわらない。

まずは、動画とスライドを見てもう。
幸陽園農耕班の知的障害の仲間たちと自主保育森っ子の子どもたちの姿。
サツマイモ掘りの動画では仲間と子どもが自然に笑顔で会話をしている。
焼き芋を食べた後に嬉しくて合唱?
稲刈りでは共同作業。
田んぼで泥んこになったり、堆肥の山を登ったり、野菜収穫で笑顔の子どもたち。

学生全員が必修で生活園芸の実習(有機野菜を育てる実践を通じた教養教育)を履修、
「生産を目的としないで、園芸を手段としてあつか」い、
その中で、自然と人間の関係を見つめ直し、人間として成長を、というコンセプト。
その体験から、子どもたちや仲間の姿をより深く感じてくれたようだ。
自然が農が人を解放し、関係を取り持ってくれる。
農には生産だけでない多面的な深さがある。

「障害者福祉」のことも語らねばならない、ので、
『こんな夜更けにバナナかよ』『人と人はなぜ支え合うか』を紹介しながら、
そもそも「障害者」という人はいない、「女子大生」という人もいない、でしょう
と、語ったのは響いたようだ。
その人の代表的な特性の一つを言い表したとしても、それでその人が分かるわけではない。
むしろ、「障害者」と言って「健常者」と分けることで見えなくなるものも多い、から、
できるだけ個々の具体的な姿に「あなた自身」が出会えるといいね。
また、違った世界が見えてくるよ、と。
2回目では、「ノーマライゼーションは理念ではなく、原則」ということも伝えた。

グリーンで工夫を重ねて実践していた田植えの方法。
セルトレーに種をまき育て、田んぼには格子の印をつけて、3列植えて1列をあけて手植え、
それにより疎植1本植えで立派な稲に育ち「昔の稲のようだ」と農家さんに褒められた話。
でも、種まきのときに根と芽を異物と思い込み取ってしまう自閉さんのエピソード、、、
そんな田植えをしていると、前年とは違う成長した仲間の姿を見られること。
堆肥の運搬という「重度」あるいは「強度行動障害」のためのちょっと風変わりな農作業。
空の下土の上で身体を動かすことで心身が整っていくこと。
そんな作業に、自ら語ることはないけど、誇りとやりがいを見出す仲間たち。
吊り上がっていた目が垂れてくることを「アースされる」と文学的に表現していること。
もしも、室内作業しか用意できなかったなら、、、様々な困難が予想されること。
支援は掛け算であること、、、
ああ懐かしい、と、思いながら語った。

幸陽園農耕班でも、
工場勤務などで鬱になってしまった仲間が、野菜といっしょに育って明るくなったこと。
ヤンチャで周囲を困らせていた仲間が、子どもたちを気遣って工夫して関わっていること。
逆に甘やかされて育った仲間は、ときに必死に力仕事をして一皮むけたこと。
直売でお客さんと野菜の話をすることを楽しみにしている仲間。
「自閉症」の「視覚優位」「コダワリ」が作業での力として発揮されていること。
子どもたちは、心身で畑を楽しみ、野菜を食べ、まさに「身土不二」であること。
野菜嫌いの子どもが「ここの野菜で好きになった」、と、言ってもらえるシアワセ。
などなど、エピソードにはことかなない。

な~に谷っ戸ん田では、
「蛍が舞い、ホトケドジョウが泳ぐ」谷戸田が、都市の一角に残されていること。
田んぼの作業を一通り経験することで、「こんなに美味しいお米は初めて」という感動。
それは、まさに、物語と共に全身でお米を味わえるという田んぼの豊かさ。
農家さんが、農地や庭先を解放してくれると、本当に豊かな世界に笑顔がたくさん。
石田は、そんな感動を共有したくて、横浜市の「栽培収穫体験ファーム」制度を使った。
そういえば「農のある地域づくり協定」も使わせてもらったっけ。
今は、横浜市の「認定市民菜園」制度をシェアハウスで活用している。
都市でも、いや都市だからこそ、農の豊かさに出会える。
方法はいろいろとある。
知ってもらい、体験してもらう場を創り、みどりを守っていく。
石田にとっての、楽しい「ライフワーク」

そして、シェアハウス。
「緑豊かな里山や田園と利便性の高い都市が融合する横浜市青葉区
農に根差した自給的な食のある暮らし、誰もが支え合う広い意味での福祉
真の豊かさを目指すまちづくり」
久々にひつじ不動産のページにアクセスして、こんなことを書いたっけ、は、ともかく。
「耕す暮らし、つながる暮らし」の楽しさ。
いつも食卓に自分たちの(一人20坪の)菜園からの野菜があることの豊かさ。
明峯さんが語っていた「都市生活者の個人の自給率」。
でも、いっしょに暮らすには、難しさもいろいろとある。
人間だから、、、
それを乗り越えていくことで、さらに豊かなところに行けるのではないかと期待。

そして、個人史。
文学部史学科卒、ですから、、、
60年安保で「民衆」が敗北し、国民所得倍増計画・高度経済成長期の子ども時代。
削られ埋められていく「ザリガニやカブトムシのいた場所=里山」
自由を楽しんだ青葉台中学時代から学んだ「教育・共育」。
お受験、環境破壊、政治腐敗、バブル崩壊、自然災害、メルトダウン、、、
学生のみなさんは、どういう時代のどこに生きているのか?
脱成長?SDGs?コロナ?地方の時代?有機農業のチカラ、、、
石田は、GNH(Gross Local Happiness)の時代だと勝手に思っている。

依頼をいただき最初に考えたタイトルは「自称都市農業活動家石田周一」だった。
が、すぐに自分で却下した。
恥ずかし過ぎるし、面白半分の表現で学生さんたちの前に立つのも、、、
だが、澤登先生からも、「文系の石田なぜ農に関心を持ったのかを話すと面白い」と、
学生さんからも、「石田はどうして勇気を出してそのような取り組みができたのか」とか、
「このような取り組みをおこなう石田さんの原動力を教えてください」とか、
石田自身のことを語ることも期待していただいたわけで、、、

先にも書いたが、私は研究者などではなく実践者であると自覚している。
それを「活動家」と勝手に表しているわけだ。
「いろいろな活動をされている方だったことに驚きました」という感想もあった、が、
自分でも並べてみて縦横無尽にとっ散らかっているなと思った。
大江さんには、「もう1冊、本が書けるよ」と励ましてもらっていた。
今となってはその真意を直接聞けないが、考えながら、ライフワークしていきたい。

(石田周一)
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