第147回 田園ふれあいランド 販売しない販売

2020.11.29
いしだのおじさんの田園都市生活

「コンニチワー! お手伝いすることありまっすかーっ! 」
と、Sくんが元気よく走って畑にやってくる。
「おーっ!コンチワ!何やりたい?」
「う~ん」
「一輪車で芋のつる運べるか?」(6歳にはちょっとムズカシイか?)
「うん、やってみる」
お母さんも、ニコニコ、あとをついてきて、
「こんにちは。野菜、収穫させてください」
「どうぞ、どうぞ。ブロッコリー、いいのありますよ。ジャンボなやつ」
(実際、ハンドボールくらいありそうなジャンボサイズ!)
「S、ここのブロッコリーが大好きで、一人で全部食べちゃう勢いなんです」
「あははは、たくさん食べてくれるのはウレシイなぁ」
「レタスとキャベツもいいですか」
「どうぞ、どうぞ。カブとナバナもできてきているよ」
「わーっ、ウレシイです」
「喜んでもらえて、なにより」
などと、話していると、Sくんは後から来たSちゃんと土を掘って遊んでいる。
「S、お手伝いするんじゃなかったの?」
と、お母さんがたしなめるが、
「いいの、いいの。好きなこと、すればいいんだよ」
と、私。(なんだか孫を見守るジイサンみたい。)
実際、Sくんは、お手伝いがそのときの好きなことになれば、すごい勢いでやってくれる。
堆肥運びなど、普通に歩いて運ぶ利用者さんの周りを走って運んだりする。
ま、持続力は、やっぱり6歳の子という感じで、あちこちに気持ちが移ることもある。
でも、それだけ、畑にやりたいことがいろいろあることが、見ていて楽しい。

前後して、ほかの親子も来てくれる。
「ネギ、ください」
「はいはい、いいやつ探して抜いてね」
「うん」
1万本近く植えたわれらの畑のネギ、不揃いで、太かったり、細かったり。
出荷のときも太いものを探しながら収穫している。(プロ農家は端から順に収穫する)
しばらくして、ネギを抜いた子は、ネコジャラシを私に手渡してくれた。

「私ねぇ、サトイモが大好きなの。お母さん、お弁当に入れて」
とサトイモをおねだりしてくれるSちゃんには、ストックしているものから選んでもらう。
先日は、白菜も買ってくれたね。(今年は白菜が例年になく好調!)

また、別の男の子。
「おー!いい大根抜けたね。立派立派」
葉まで合わせると自分の背丈ほどもあるかという太い大根をよく抜いたなぁ、と、感心する。
「こんな立派な大根も意外と数日でぺろりと食べちゃうんです」
「そうなんだぁ。料理上手なんじゃないですか」
「いあや、ここの大根だからですよ」
この子たちと種まきをした大根だ。

「小松菜、いいですか?どうやってとるんですか?」
「虫の出ているところもあるから。いいのを見つけてね。こうして地際を切る」
と、慣れない人にはレクチャーも。

利用者さんがレクチャーをすることもある。
日々ネギの収穫出荷を任されているFさんは、子どもがいいネギを見つけるのを手伝う。
Aさんは、大根を抜くのに苦労している子どもをさりげなく手伝う。
Aさんが抜いてしまうのでなく、ちょっとアシストして子どもが抜けるようにさりげなく。
実はAさん、若いころはかなりヤンチャをして、周囲をかなり困らせていた男。
だが、困ったヤツは、実は困っているヤツ。
そんな歴史があるから、困っている子どもに優しくなれるのかもしれない。

Tさんは、(実はさんづけで呼ばれることの少ない男)子どもたちが来ると、、、
もう、舞い上がっちゃう。
自分のことを「お兄さん」と言い始め、「さぁ、みんなみんな!」とかなんとか。
あー、あー、あー。
けど、まぁ、いいか。
子どもたちも楽しそうだから。

そんな場面とは関係ないかのように自分の仕事を続けているのはYさんやMさん。
周囲が賑やかでも、黙々と堆肥を運んだり、草取りをしたり。
任された仕事は、こなそうというココロ?
任せていられるから、私も接客(?)や他の作業をしている。
けれど、リスク管理は気を抜けない。

という感じで、畑ではお母さんたちに収穫作業をお任せして野菜を買ってもらっている。
子どもたちも楽しんで収穫してくれる。
その場で食べ始める子もいる。
なにより子どもたちが喜んで食べてくれることがウレシイ。

秘かに「販売しない販売」と呼んでいる。
正確には「収穫、選別、袋詰めをしない販売」であり、
「いろいろお任せしながら買ってもらっちゃう販売」なのだが、、、

もちろん、この畑直売以外でもお店への納品や委託直売もしている。
お店は、後輩がやっているワインと料理の「maaru」と自然食品店「百屋」など。
委託直売は、法人内の人気のパン屋「ブナの森」とアンテナショップ「まんまる食堂」。
出荷にあたっては、収穫し選別し、枯葉を落としたり洗ったりして袋詰め荷作り。
特に委託後は売れ行きが心配になる。
お客さんに直接お会いできることも少なく、ちょっと淋しい。
野菜は作ることにも難しさがあるが、売ることはそれ以上に難しいと感じたりもする。

そんななかで、畑直売が成り立つことがありがたい。
これは、農を生業としているのだから、ちゃんと売れることのありがたさもある。
しかし、子どもたちと付き合っていると、売れることは二の次三の次とも感じる。
畑にいること。
種をまくこと。
育ちを見守ること。
そして、
収穫を喜ぶ。
食べることを喜ぶ。
喜んでもらい、シェアする。
これは、農の本来の姿、なのかもしれない。。。

(美味しい野菜で日々晩酌! 石田周一)
森ノオトさんの取材を受けました。

横浜の農福連携のパイオニア・石田周一さんと語り合う。 緑区・新治町にある幸陽園農耕班の畑で。

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