第182回 毎朝里山散歩

2023.10.31
いしだのおじさんの田園都市生活

朝、5時少し前に目が覚める。
外はまだ暗い。
2階の自室からリビングに降りていく。
少し寒い。
ラジオ体操で身体をほぐす。
特に、深呼吸を意識する。
体内も目覚めていく感覚がある。

愛犬ハニーも降りてくる。
「行くか」と声をかけると、尻尾を振る。
リードを見せると、お座りをして、首を伸ばす。
ジャンバーを羽織るが、足元はビーチサンダル。
ドアを数センチ開けると、再びお座りという約束。
外は、なおさら寒い。
Tシャツ短パンで汗をかいていたのが、ついこの間のように思うのだが、、、

稲刈り後に気をもんだ脱穀も終わり、

なぜだらう 稲が米になる さみしさは

という季節、、、

日没が早くなり、サードプレイス=畑の愉しみ、も減り、
寒くなってくる季節には、メランコリー。
毎年のパターン。

早朝1時間の愛犬との散歩は、
そのなかで、気持ちの良い時間。
貴重な生活リズム。

コースは、基本、ハニーの行きたい方向。
だが、いろいろ、駆け引き、やりとりもある。
意外とワガママだったりもするので、、、
暑かったころはグズグズ歩いていたが、
今は、いいペースになってきた。

基本のイケイケコースは、もえぎ野池とひょうたん池。
ひょうたん池=藤が丘公園には犬の運動場(未公認)がある。
ハニーと同じ犬種のお友達が走り回っている。
そのあまりの元気さにハニーは気後れしてしまう。
が、それなりに遊んで、家が近いので一緒に帰る。
抜きつ、抜かれつ、で、並んで歩く。
「犬の社会性ですね」なんて話しながら、、、

池のある公園はもう一つ、桜台公園。
もえぎ野池は溜め池だった。
桜台の池は低いところにあるからチガウかな。
と、国土地理院のサイトで1960年代の航空写真などを見てみるが、
やはり、チガウようだ。
今の桜台公園は、住宅街に残されたわずかな名残りの里山。
雑木林の奥に湧水があり、池へと流れている。
だが、俺が子どものころは、周囲にたくさんの里山があり、
逆に、ここだけが人工的な場所だったような印象すらあった。
今、ハニーは雑木林を楽しそうに歩く。走る。
桜台団地は建て替え工事中。
ちょっと物議あり。

もえぎ野公園は、子どものころ、さんざん遊んだ池だ。
青葉台団地から、うっそうとした里山を下って遊びに行った。
団地の金網を越えるとワンダーランドがあったのだ。
50数年前には、公園ではなかった。
俺たちは、「ヤモトノイケ」と呼んでいた。
「沼」と呼ばれることもあったようだ。
ウシガエルがウルサイほど鳴いていたし、ザリガニをとったり、亀を釣ったり、
びんどうでクチボソをたくさん捕ったこともあった。
さんざん遊んで家に帰るときは、もう、全身泥だらけ。
そして、独特のあの沼の匂いが、、、

今、サイトで60年代の写真を見ると、ハッキリと溜め池だ。
周囲には雑木林。
冬には厚い氷が張って、スケートをしている人がいた。
今でも冬には氷が張るが、でも、スケートはちょっと想像できない。
ここから谷本川に向かう1㎞ほどの低地は田んぼが多くあったが、今は住宅街。
柿の木台。
地形は谷戸の名残りがあるが、それを意識する人も少ないだろう。
それでも谷本川沿いは農用地で、田んぼと田んぼを埋めた畑が帯状に残る。
そこに俺のサードプレイスがある。

もえぎ野公園の手前には、もえぎ野ふれあいの樹林がある。
まさに、小学生時代にカブトムシやクワガタを捕った雑木林だ。
ほとんどの雑木林が造成で消えたなかで、唯一残っている5haほどの森。
父が愛護会活動に参加した場でもある。
父のサードプレイス、いや、定年退職後の晩年の地域参加の場だったか。
俺は廃棄予定の木をストーヴ用に玉切りして持ち出したりしている。
ここをハニーと歩くのは、不思議な感覚だ。

ハニーと歩くコースのほとんどは住宅街であり、
ハニーの足と俺のビーチサンダルが触れるのは、基本アスファルトだ。
しかし、そこは、かつて雑木林や田畑だった。
里山だった。
俺は、それを憶えている。
毎朝、里山を散歩しているのかもしれない。

(石田周一:体重回復中)