石田のおじさんの田園都市生活

第74回 直売的農法

2014.10.31
いしだのおじさんの田園都市生活

枝豆、美味しかった。
・うん。あちこちで評判いいんだよ。ヒデも喜んでいたね。「甘~い」って。
でも、虫がいる、って、
・あいつ、やたらと警戒するよね。
ビビリだからね。
・俺もさすがに虫は喰わないけど、いてもよけてちゃんと食べるよ。
うん。
・あいつ虫がいそうなのは莢ごとよけているよ。
それを石ちゃんが食べている。
・ハハハ。
まぁ、美味しかったから、良かった。
・と、いうか、豆ができて良かった。
うん?
・莢ができても豆が膨らまないこともある。
そうなんだ?
・だから、ずっと心配していたけど、しっかり膨らんでくれて、ホッとした。
良かったね。
・虫に食われたりして莢自体があまりつかないこともある。
いろいろ大変ですね。
・だから、今年は出来が良くて、すごいウレシイ。
はい。
・食べてもらえて、「美味しい」って言ってもらえると、さらにウレシイ。
おめでとうございます。
・ありがとう。
その膨らんだり膨らまなかったりのチガイはどうして?
・それがよくわからないんだ。土の状態と夏の気候だと思うんだけど、、、
しっかり解明したほうがいいんじゃないの?
・そりゃそうなんだけど。プロの農家さんでも「今年は全然ダメ」ってこともある。
そうなんだ。
・それを聞くと、
聞くと?
・ちょっとホッとする。
ナニ、ソレ?ダメじゃん。
・ま、ね。ダメだね。
しっかり、しなさい。
・うん。ところで、ね、この間、こんなことがあった。
ん?
・畑で、枝豆を抜いて、直売用に利用者さん達が莢を外して袋詰めしていたら、ハイキングのおばさんたちが通りかかってね、歩きながら「あれ、枝豆かしら?」「今ごろ?」なんてしゃべっている。
へぇ。
・われらが畑の周辺はハイキングコースなんだよ。
新治市民の森、でしょ。
・そう、60ヘクタール。
へぇ、想像できない。
・東京ドーム12個分。
よけい、わからない。
・ハハハ。で、ね、俺、そのおばさまたちに「枝豆、販売しますよ。いかがですか?」って、声をかけた。そしたら、「やっぱり、枝豆ですか?」「今ごろなんですか?」って言うから、「講釈垂れていいですか?」って、言ったら、「お願いします」と、来た。うん。
エラそう。
・たまにはカッコつけさせてよ。
おばさん相手に?
・ナハハ、、、で、「枝豆っていうのは、秋の季語ですよ。中秋の名月を『豆名月』って言うこともあるんですよ」って、ね。
よっ、文学部!
・「そして、これは大豆の若取りで、これこそ本当の枝豆なんです。初夏に食べる枝豆は品種改良したものです」って、すると「知りませんでした」って、ね。
よかったね。お互い。
・そして、「早く帰って食べたいな」って言うから、「もう一つ講釈垂れます」って言ってね、「『枝豆は湯を沸かしてから畑に行け』って言うんですよ」と、「早いほど美味しいんですか。散歩中止して、もう帰ろうかな」だって、さ。
楽しそうですね。
・まぁ、ね。畑の作業も楽しいけど、そこで人に会えることは、また楽しい。
若い女の子だったら、もっと、よかったね。
・若い女の子はあまりハイキングしていない、、、
それは、残念。
・しかし、この話には続きがある。
若い女の子?
・いや、おじさんだよ。おばさんたちの後におじさんも来てね、「その豆は買えるのか」って、ちょっとエラそうな口ぶり。「ええ、1袋100円です」って、言ったらさ、「高いよ。株ごとならいくらだ?俺も百姓だから自分で取らせろ」って。「1株100円です」って、ね。いい株をとれば3袋分くらいあるんだよ。そしたらさ、「高いよ。冗談じゃねぇ」って。
あらら。
・「ならば売れません」って、、、
ケンカになった?
・いや、100円でケンカしてもしょうがない。
金額の問題じゃないでしょ。
・ま、そうだけど、、、
やな、オヤジね。
・ケンカ、させたいわけ?
そじゃ、ないけど。おばさんたちは100円でいい買い物したって喜んでいたんでしょ。
・そうだよ。「今日はラッキーだった」ってね。
つくづく、や~なオヤジ。
・ま、しょうがないよ。
平和主義だもんね、石ちゃんは。
・ケンカして仮に勝っても、いや、負けても豆はちゃんと美味しいよ。
、、、
・で、ね、あとから思ったんだけど。買う人にとっては、ましてやハイキングのおばさんには100円はそう高くないはずだけど、もしもこの豆を市場に持ち込んだらどうなるかってことだよね。
え?
・市場なら1株100円にはならない。たぶん、50円も難しい。虫がいたら、そもそも売れないよ。
そうなんだぁ。
・だから、あのおっさんは、もしかして市場出しをしている農家さんで、そういう立場から見たら、1株100円でも「冗談じゃねぇ」って見えるのかもよ。
そこまで考える?
・うん、考えちゃった、よ。
じゃあ、直売でよかったね。
・ま、そう気づかされたデキゴトだね。
100円でも安いのにね。
・直売って言えばね、「直売的栽培、」ってこのあいだFBに書いた。
どういうこと?
・大根を1穴で2本取り。
は?
・普通は30センチ間隔に穴の開いたビニールマルチで1穴で1本の大根を作る。
うん。
・それを2本にしてしまう。
どういうこと?
・もともとは種は4粒まいて、伸びてきたら間引いて、普通は1本にする。
ふうん?
・そこを2本残すわけ。
どうなるの?
・細長くなったり、不恰好になることはあるけど、ちゃんと大根になる。
へぇ。
・つまり同じ面積で倍作れる。
倍の稼ぎ。
・ま、そういうことだね。直売のお客さんは恰好はさほど気にしないから、、、
新鮮さで勝負?
・うん、あとは顔の見える関係。信用だよね。
たいした顔じゃないでしょ。
・そういう話をしているわけじゃない。
はいはい。
・ここで、われわれが作っている、と、表明している。
畑で買えればなおはっきりするよね。
・そうだよ。
そういえば、信用と言えば、、、
・何?
ケミカルはどうなった?
・うっ、そうだった。
ねぇ。
・忘れているかと思っていたけど、、、
そうはいきません。
・うん、ハクサイ、ブロコリ、キャベツもそれなりに育ってきている。
それで?
・ケミカルエリアとノンケミカルエリアの大きな違いは無いように見える。
小さな違いは?
・責めるね。
そういうわけでもないけど、、、もともとはこだわっていないけど、気になりだした。石ちゃんが告白するから。
・今はね、そんなに違わないようだからもうケミカルはやめようかなって思っている。
ケミカルをやめたいから違わないように見えるんじゃないですか?
・いやぁ、まさに、そうかもしれない。
でも、それならそれでいいと思う。ちょっと浮気したけど、ちゃんと戻るということ。
・ヘンなたとえだなぁ。
そう?
・ま、土づくりを頑張ります。

(石田周一)