石田のおじさんの田園都市生活

第68回 ある谷戸で、耕す日々

2014.5.1
いしだのおじさんの田園都市生活

またまた、美味しい筍。
・横浜の筍。
子どもたちも喜んでいたね。
・横浜の家の蕗も美味しかった。
でも、あれは子どもはあまり歓迎しない。
・俺は子どもの頃はどっちも苦手だった。食べてはいたけど、美味いと思わなかった。
いつから好きになった?
・日本の醗酵文化を愛好するようになってからかな?
味噌?醤油?納豆?糠漬け???
・お米を醸すも良いし、地中の旬を掘り起すも良いし。筍って、スゴイ。
三鷹の筍も。
・駅の近くの竹林のある家で直売していたよ。
そう。でも、あれはYさんにもらったの。Yさんは野川の近くで掘ったみたい。
・横浜もあちこちあるけど、三鷹もけっこうあるね。
武蔵野の田舎が少しは残っている。
・うん。これからも残っていってほしいよね。
うん。
・ただ、そう言うだけでなく、何かできることがあればしたいよ。
筍、買えばいいんじゃないの?
・そんな単純なもんじゃないだろ。
そうねぇ。お屋敷を見れば、お金はたくさんありそうだし、、、
・なんでも金の問題にしないほうがいいと思うけど、、、
、、、
・、、、
去年は谷っ戸ん田の筍だったよね。
・もう、いいよ。谷っ戸ん田の話は。
へぇ、そうなの?
・いや、いつかは総括するけど、今は、、、
そうやって先延ばしするんだぁ。
・期限があるわけでもないからね。
なんか、さえない話。ま、いっか。
・今ごろ、谷っ戸ん田でもたくさん出ているだろうね。
今回のは?
・緑区N町。この春からお世話になっている畑の地主さんのところ。
ほんと、あちこちあるんだね。
・「好きなだけ掘って行って」って言ってくれてね。
スゴイね。
・たくさんありすぎて掘る手間がないというか、しんどいんだって。
堀りに行こうかな。
・思うほど、簡単でもないんだよ。
へぇ。手間がかかるんだ?
・手間と、技術も必要でね。我々もモタモタしていて、結局、手伝ってもらっちゃった。
あらら。情けない。
・おばさんはね。「これが美味しいよ」とか、向きを見て「こっちから掘って」とか。
見る目があるんだ。
・そりゃ、10年20年じゃない経験の蓄積でしょ。ご実家でも掘っていたって。
うん。
・それが、筍の向きなんて目の前で言われてもわからない。ほんと、情けなかった。
修行だね。
・それに、キレイに掘り上げられない。
せっかくいただくんだから、ちゃんと掘らなきゃ。
・いや、おばさんも「根切りができてないから、掘るのがタイヘンで」って言っていた。
根切り?
・俺も竹の伐採は何度もやったけど、根切りはしたことがない。
うん。
・竹は地上部だけでなく、地下でもはびこっているんだって。
そうなんだ。
・ノコギリで少しは切ったけど、とてもとても。冬場にでもできたらやるかな?
タイヘンそう。
・ま、若い衆の修業になるでしょ。俺は監督。
ズルくない?
・なはは。根切り用のチェーンソーってあるんだよ。高いんだよ。30万くらい。
楽することばかり考えるな。ごまかすなぁ。
・おばさん、ちゃんと糠もくれて、ね。トウガラシがなくてゴメンサイだって。
臭みを消すんでしょ。
・そういえば、まだ、お礼を言えていない。
ダメじゃん。
・掘ったときにはもちろんお礼言ったんだけど。食べてからは会えていない。
今度、忘れずに言うんだよ。
・そのつもりだけど、けっこう忘れちゃうんだよね。
忘れない、忘れない。
・昨日は、お礼というわけでもないけど、草刈りしておいたよ。
それがお礼?
・自分たちが使わせてもらっている畑とおばさんの畑と両方刈っておいた。
そう。
・当然と言えば当然だけど、こういうことが大事。
ふうん。
・借りた畑では、作物の周りの草が気になっても、先ずは畑の周囲をキレイに、だよ。
へぇ。
・ちゃんと利用者さんが刈ったんだよ。機械を使って。
そうなんだ。草刈り機?
・クボタのカルマックスっていう自走式の法面草刈り機。楽チンだし、危なくないし。
いろいろあるんだね。機械にも。
・近所の農家さんのおばさんにもそう言われた。
よく見ているんでしょ。
・贅沢している、って思われているかも。
なんで?
・前の畝立て機のときも「いろんな機械があるのね」って。
まぁ、贅沢だよね。まだ、売り上げは無いのに。
・そう、初期投資だよ。
投資って回収するものでしょ。
・ま、ね。でも必ずしも売り上げで回収しなくても、、、
そういう弱気というか、それがよくない。というか、意味不明。
・いや、そうかもしれないけど、これは我々には永遠のジレンマだよ。
どういうこと?
・福祉と農業というか、利用者支援と生産というか、稼ぎを優先させると問題も起きる。

・もともと生産性の低い人が福祉の場に来ているんだから、そこで生産優先は矛盾でしょ。
なるほど。
・でも、工夫次第で稼ぎも上がるし、利用者さんの笑顔も増える、そこを目指したい。
ふんふん。
・でもでも、次に、力をつけた人を社会に出すでしょ、するとまた現場の生産力はダウン。
そうか。
・ま、そんなこんなもあるけど、とにかく耕す日々があることが大事。
あとは、石ちゃんの力量でしょ、努力でしょ。何にしても。
・そうだね。努力はしないと、ね。
具体的には?
・うん。ガツガツしないでノンビリやる。
それは、努力とは言いません。
・いや、今はね、週に2~3日の作業日と少ない人数でとにかく生産を形にする。
形って?
・周りから見て、畑をやっているとわかるというか、認められる形。
そりゃ、当たり前でしょ。
・でもね、面積もあるし、そもそも他にやれる人がいなかったから借りられた畑だし、、、
ふぅん。
・だから、そのための機械をそろえて、作物も無難なものを選んだ。
ブナン?
・トラクターかけて、畝も機械で作って、失敗の少ない作物を選んで。
ふうん。
・失敗が少ないだけでなく、畑に行く日が少なくても何とかなる作物。
そういうのがあるんだ?
・例えば、トマトやキュウリなら、時季には毎日確実に収穫をしないといけない。
そうか。
・キュウリなんか、農家さんは朝晩2回収穫しているんだよ。
へぇ。じゃ、3日も空けたら?
・バナナになる。
ええっ?
・『トットの欠落帖』って書物に出てくる。
あはは。で、実際、何を植えたの?
・ジャガイモ、サトイモ、カボチャ。これからサツマイモ、ネギ、ダイズ。
それだけ?
・いや、ちょこちょこと他のものも作るけど、まずはね、無難に、だよ。
で、無難に育っているの?
・まだわからないよ。急いで耕して畝作って植え付けはしたけど。
そうかぁ。いい畑になるといいね。
・肥料もね、無難に化成肥料を使えばよかったんだけどね。

・農協にはね、サトイモならサトイモ専用、ネギならネギ専用の肥料が売っている。
へぇ。
・科学的に化学的に調整調合されているから、それをパラパラまけばほぼ間違いない。
でも、そうしなかった。
・うん、なぜか、できなかった。
なんでだろう。
・農薬は(前回のコラムで語った)「使えない無農薬」でいいわけだけど、肥料はね。
無にはできない?
・今のところ無化学肥料だけど、、、
「無」が好き?
・まぁ、人生は無だし、意味が無いし、、、カントもパスカルも言っているでしょ。
チガウチガウ。
・なんとなくケミカルには抵抗があってね。心理的に。

・ガソリンで機械を動かして畑を作っていながら、うん、「自然がいいな」みたいな、、、
矛盾しながら、おセンチになっているわけ?
・確かに一貫してはいないな。
あれこれ考えずに教科書通りに進めればいいんじゃない?
・それはそうだけど、、、教科書もどれを選ぶか、っていうのがある。
えっ?
・本屋さんで野菜作りの本が並んでいるところを見ても、いろいろだよ。
どんないろいろ?
・とりあえず、今机の上に置いているのは、慣行農法、有機農法、自然栽培の3冊。
うん。
・農薬や化学肥料を使う普通のやつから、耕さず草と共生まで、、、
多様性でいいですね。
・そう、多様な事例を参考にする。
ドッチツカズとも言うんじゃない。
・そうかも。でも、俺は自然栽培派だから慣行農法には反対とか、セクト化したくない。
なるほど。
・例えば、イモの植え付けを見ても、芽を上に向けるもあれば、下に向けるもある。
で、石ちゃんはどうする?
・横に向ける。
あらら~
・ウソ! っていうか、どっちをむけてもいいか、ということで、コダワラナイ。
テイゲイ、ってこと?
・うん、ナンクルナイサー、だよ。ホントは実験すべきかも、だけどね。
実験?
・だから、どっち向きがよく育つかの探求だよ。
でも、その他の条件もあるでしょ?肥料とか天候とか、、、
・そう、だから結局ヨクワカラナイ、ってことで、そこは気にしない。
気にすることを減らしている。
・そういうこと。他にいろいろと気にしなきゃならないことがある。
いい野菜ができて、美味しく食べる日が、楽しみ!

(石田周一)