第67回 ある谷戸で その4
2014.4.1いしだのおじさんの田園都市生活
横浜の家の庭をほじくりかえしていたの?
・うん。セミの子が出てきたよ。
そういう目的で掘っていたわけじゃないでしょ。
・セミの子をアナゼミっていう地方もあるとか?その他、いろんな呼び名がある。
だから、そんなこと聞いていないから。
・トンボの子はヤゴっていうのに、セミの子は、、、
だから、セミの子はもういいって。
・俺、小学5年生の自由研究で羽化の様子を写真撮って模造紙に、、、
なんで庭をほじくりかえしていたのか、教えなさい。
・あのときは団地の公園でセミの子をみつけて、親父も協力してくれて、、、
、、、(怒)
・庭ね。ははは。庭はね、荒れていて、数年かけて整備してきて、やっと、、、
手伝わずにスミマセンね。
・ずいぶんとチェーンソーで切って、シュレッダーもかけて、、、
そんな広い庭じゃないでしょ。
・いや、でも、親父が雑木林を意識していたから、木が多いんだよ。
シイタケ栽培もしているしね。
・もうチョボチョボだけど、最盛期はけっこうとれた。とるのがイヤになるくらい。
うん。
・そうこうするうちに木が伸び過ぎて、荒れちゃってね。鬱蒼、ウッソーっ、みたいな。
だはっ。自分の家の庭よりも他所の雑木林をかまっていたしね。
・それでも時間を作ってやってきたんだよ。
へぇ。
・独りで。ほぼ。
だから、謝っているじゃない。
・そういう意味じゃないよ。独りの時間を楽しんでいるんだよ。
え?
・谷っ戸ん田も職場の畑もいつも誰かといっしょの作業じゃん。
それが楽しくてやっているんでしょ。
・そうだけど、ときには独りになりたいときもある。けっこう。
そうなんだ。
・そう。でも、このあいだはシジュウカラが巣箱にいて、、、
贅沢だね。仲間と楽しんだり、独りを楽しんだり。
・バランスとりながら、やっているつもりだよ。公と私と。
で?ほじくりかえしてどうするの?
・果樹を植えたよ。とりあえず5本。
何を?
・ベリー3本と、柑橘とクワ科だよ。
楽しみですね。
・でも、俺が庭でベリーかよ、とも思うけどね。
どういう意味?
・個人で農を楽しんでいる場合か?私か?やっぱり公でしょ、って。
よくわからない。自意識過剰、じゃない。
・ま、笑ってくれ。
新しい公の畑も始まるんでしょ。
・うん。もう始まっているよ。
どんな?
・新しい機械を利用者さんに使ってもらった。
前回話題になったやつ?
・そう、アグリカ、べジマスター、カルマックス。
うん。
・乗用耕耘機、畝立て管理機、法面草刈り機。機械は楽しいよ。
農作業でしょ。土と生き物に親しんでいるんでしょ。
・でも、機械好きの農家さんって、たくさんいるよ、実際。俺も好き。
へぇ。
・畝立てとか土木作業的なことが好き。
利用者さんの反応は?
・機械は楽しい!って、よろこんでいるよ。ネライ通りだよ。
みんな?
・そりゃあ、苦手な人もいるよ。オソルオソル手を出す人や、逃げちゃう人もいる。
へぇ、そうなんだぁ。
・個性的で多様だって、いつも言っているジャン。
そうだった。
・一人すごくセンスのいい子がいて、もうアグリカを一人で運転できる。
へぇ。
・新しい広い畑でさっそく使ってもらった。
他の子もやりたがるでしょ。
・そうなんだよ。バス好き、電車好きの仲間たち。何人かで交替でやるんだけど、、、
他の人はそんなに上手ではない?
・うん。俺が横についていっしょにやることになるから、効率悪い。
効率優先じゃないでしょ。
・そうだけど、そうも言っていられないときもある。
言い訳ぇ。
・2月、3月にやっておきたかったことを今やっているから。今年はね。
何で?
・新しい畑に入れるのは本来4月からで、少しだけフライングしたけど。
そうかぁ。で、フライングで何をしているの?
・だから、耕すところから始まっている。
耕耘、ですか。
・4月にはいろんな植え付けがある。まずジャガイモだろ。これは本来3月。
うん、うん。
・それに、里芋、葱、南瓜、までが4月で、5月には薩摩芋。そして6月末が大豆。
うん。
・これらは、それぞれたくさん植え付ける予定だよ。
たくさん、って?
・それぞれ3アール以上。
って言われても、、、
・3アールは300㎡、まぁ、およそ100坪。
へぇ、この家の○倍じゃん。
・そうそう、家は狭くても畑はひ~ろびろで気分は解放される。
けっこうですね。
・いや、これが仕事。植え付けや管理は大変なんだよ。
でも、楽しそう。
・うん。楽しんでいるよ。
で、やっぱり無農薬とか有機とかで作る?
・うん。どうしようかなぁ。考え中というか、こだわらずにやりたい。
でも、農薬はねぇ。使わないほうがいいでしょ。
・農薬は「使わない」じゃなくて、「使えない」だよ。我々の場合。
えっ?どういうこと?
・使える技術がないから「使えない」だよ。
でも、危険だから使わないんでしょ。
・「農薬=危険」じゃないよ。それに危険が一番及ぶのは使う人自身だよ。
そうか。
・だから我々が「使えない」のも野菜を食べる人より自分たちのことを考えてだよ。
なんだか、ややこしい。
・それにね、単に「使わない」というと、使っている人を非難しているようにも聞こえる。
それは、そうかも。
・ちゃんと基準を守り、作物を良く見て最低限でピタリと使うのはかなり高い技術だよ。
そうなんだぁ。
・もちろん、安易にバンバン撒いちゃう人もいるらしいけど。
野菜を見ただけじゃ見分けがつかないでしょ。
・いや、だから農家さんと顔の見える関係のなかで野菜を食べることがいいんだよ。
なるほどぉ。でも、「使えない」でも、無農薬なら食べる人は安心。
・そうだね。「使えない無農薬」でいきますか?
そうしましょう。
・「無農薬」か「農薬使用」かの二項対立でものを見ないようにしたいよね。
キライなんでしょ。白黒つけるのが。
・まあね。有機だ慣行だ、ってこだわるのも好きじゃない。
そう。でも、どうなの肥料は?
・とりあえず有機肥料を使っているよ。
「とりあえず」ですか?
・農協でも有機肥料を売っていたんで買ってきた。
農協でも、って?
・農協は基本化成肥料ばかりで、有機は堆肥や鶏糞・牛糞と油粕くらい。
そうなんだ。
・今回初めて有機ペレットがあったんで買ってみた。でも、高い。
うん。
・そうこうしていたらもっと安い有機肥料があった。
何々?
・産業廃棄物屋さんが作っている食物残渣の特殊発酵肥料。
へぇ。
・こういうのを嫌う人もいるようだけれど、お付き合いしている産廃屋さんだしね。
どんなお付き合い?
・畳の藁をもらう付き合い。
くれるの?
・うん。持ってきてくれる。
へぇ。いいね。
・中国産のイグサとかかもしれないけどね。今のところこだわらないでやっている。
こだわったらきりないしね。
・有機栽培でもさらに肥料にこだわる人もいるし、最近は無肥料栽培も流行りつつある。
肥料も無ですか・
・肥料を買わなくても済むなら、そりゃあいい農法だな。
そういうことじゃないでしょ。
・冗談はともかく、最近、農薬も肥料も使わない自然農法がブーム。
ブームって、どこでぇ?聞いたことないよ。
・そりゃあ、普通の都会人は知らないだろうけど。
農業界ではブーム?
・いや、農業界でも自然農法はかなりマイナーだよ。
じゃ?どこでブーム?
・関心のある人たちの間でブームなんだよ。
意味不明ぃ。
・俺もやってみたいな、自然農法、、、
ブームに乗るわけ?
・いやいや、、、俺たちは俺たちの農法だ。
利用者さんにあったやり方でいいんじゃない。
・そうだよ、利用者にとっていいことにこだわってやるんだ。
(本名:石田周一)