第65回 ある谷戸で その2
2014.1.31いしだのおじさんの田園都市生活
なんで阿佐ヶ谷なんかで呑んだの?
・「なんか」とは失礼だろ。俺にとっては親せきがいて親しみのある街だよ。
いいお店だった?
・バッツグンだよ。中央線おそるべし、を知ったよ。
へぇ、どんな?どんな?
・あんまりいいと、、、怒るだろ?
どっちにしても怒られるでしょ。
・だね。
教えなさい。
・コース料理の居酒屋でね。魚も肉も山形県産のもので創作和風。
へぇ。やっぱぁ、ズルいねぇ。石ちゃん。
・お酒もね。山形の十四代とか、出羽桜とか、、、
お酒はどーでもいいんだけど。
・それが、勝手にどんどん飲んでいいような、、、
どーいうお店よ。
・ははは、マスター一人で切り盛りしていてね、、、もっと詳しく話そうか?
いや、このコラム、呑み歩記じゃないし。
・いっそ、居酒屋レポートにしたら読者が増えるかも。
バカじゃん。
・バカで結構。俺、昔、居酒屋レポートで文章力を鍛えたんだ。
どういうこと?
・10年位前、毎週、その週に呑んだくれた店のアレコレを文章化していた。
なんだかなぁ?
・(コモンズの)大江さんにもいつもウケていた。
うそぉ。
・本の原稿は後回しにして、まず読むんだとか、、、
単なる酒好きでしょ。ダイイチィ、毎週ってなんなのよ。
・そのころは週に平均3軒は呑み歩いていた。それ以上かも、、、
まぁ、オキラク。
・やっぱ、怒られた。
ところで、誰と呑んだんだったっけ?その山形料理は。
・農水省のお役人2名とはやし農園の園主、俺は平社員。
カタガキ、気にするの?
・まぁ、人並みには、、、でも役人の一人は俺の「ドレイ」。
はっ?
・学生ボランティアでよくグリーンに来ていてね、「ドレイ」って呼んでいた。
ひど~い。
・ボランティアも「やらせてやる」なんてエバったりしてね。
ひどすぎない?
・そうだね。田植えや稲刈りを手伝ってもらってたんだよ。実際は、、、
手伝ってもらってたんでしょ。もらってたんでしょ。
・そう、奴らがいないと成立しない。大切な助っ人。
なのに、奴隷?
・ある作家のパクリだよ。それに、打ち上げではたっぷりオ・モ・テ・ナ・シだったし、、、
それは、あんたが呑みたいからでしょ。
・またまた、怒られました!でも、楽しい思い出だよ。
そうですか。
・で、話を谷戸のことに移すんだけど、、、
急に、強引ですね。
・田植えの打ち上げ第2部でホタルツアーもしていたからね。
へぇ。
・しばらくご無沙汰していたんだけど、春からその谷戸の畑に通うんだ。
そうなんだぁ。どんな谷戸?
・走るのにちょうどいい。ジョギングパラダイス!
えーっ?どういうこと?
・20代の頃、俺は毎朝その谷戸を走っていた。10km近く。
ああ、あのトライなんとかね?ホント、ヘンな人。
・トライアスロン。
いまいち興味ないなぁ。
・そうですか。ほかではケッコウ受けるんだけどね。「スゴイ!」とか、、、
ふううん。
・「健康のためなら死んでもいい」、ってね。練習の中毒になる。
アホくさ。で、田んぼの周りとか雑木林をジョギング?
・そうだよ。気持ちいいよぉ。谷戸の活用法として流行らせようかな?
まぁ、皇居よりはいいかも。
・でしょ。
でも、ここではそういう話でも無いでしょ。田園都市生活でしょ。
・そうだなぁ。ホタルの話をすべきか。
たくさん、いるの?
・いや、ここ数年は行っていないから、よくわからないけど、、、
行かなきゃ。
・そうだね。夏にはぜひ行こう。あのころはうんとたくさんいた。ほんと乱舞。
ああ、また昔話。昭和の話。
・その後、田んぼが埋められてしまって、、、でも畑になって農地ではあるんだけどね。
あらら。ホタルもいっしょに埋まっちゃった?
・そうだね。残念ながら、、、残ってはいるけど、、、
ホタルは田園都市のバロメーターかもね。
・でもね、後で知ったんだけど谷戸まるごとを埋める話もあったんだってよ。
なんだか怖い話。でも、残ったことはよかった?
・もちろん俺はそう思うし、訪れる人はみんなそう思うだろうね。けどね。
よくない人もいるわけ?
・うん。地元では取り残されちゃったと思っている人もいるようだよ。
街になったほうがよかったの?
・開発がいいのか緑が残る方がいいのかは人によってもチガウだろ。
そうだけど、、、でも、その土地の持ち主が決めることなんじゃないの?
・街であっても自然であっても所有者だけのものでもないよ。
そうなんだ?そこが都会人と感覚がチガウ。
・また、今の時代の人だけのものでもない。未来への資産。
う~ん。そう言われるとそうかもしれないけど、、、
・あと、谷戸を街にすることはできても街を谷戸に戻すことはできない。
そーですねぇ。
・さらに言えば、人間だけのものでもない。
生き物たち、ですか?
・人間の利益を優先させないことをディープエコロジーって言うそうだ。
でも、農業は人間の為でしょ。
・そうだよ。俺が仲間と通うのは農業の為だ。
でしょ。
・でも、その農業も作物による収益を優先させはしない。
できないんでしょ。儲けようと思っても技術がない。
・そんなにはっきり言うなよ。でも、環境保全型農業ってことばもあるんだよ。
一方に環境破壊農業もあるわけ?
・またまた揚げ足、、、でも、実際、目先の利益優先で農薬じゃんじゃん使ったりとか?
だから、一方に有機農業を支持する人たちがいる。
・でも、それも最近は変わってきているよ。
どういう風に?
・有機のユーザーは自分が安全なものを食べたいだけの身勝手な人になってきた。
安全第一が身勝手?
・う~ん。そう反論されると、、、でも、つまり、環境や状況をみんなの財産と考えない。
でも、有機農業を支持するのはエコでしょ。
・エゴ、だったりして、、、。有機農業をしたいという人も変わってきた。
あなたたちもそうなんじゃない?
・有機農業を目的とするか手段とするかじゃないかな?
自己満足の手段にしてもいいじゃない。
・う~ん。なんて言えばいいのか、、、
ほらほら。
・有機農業の元々は自分の自給の向こうにお客さんを作った。
で?
・生産者と消費者が有機的につながる人と人の結びつきを大事にした。
今は?
・野菜ばかりを見ている生産者といい食べ物への関心ばかりの消費者。
いいじゃない、それでも。
・自給を捨てて数種類だけ大量生産をする有機農家もできてきた。
効率的でしょ。
・うん。だけど効率を追い求めるなら農業をしなくてもいい。
それもまた極端な言い方。
・そーだね。多様性を認めるべきといつも言っているからね、俺は。
石ちゃんの場合は?
・俺は俺も楽しみたいけど、仲間たちのためにやっている。
「福祉」を錦の御旗にしている?
・仲間たちを利用しているとも言われている。
ははは。
・地域の課題、時代の課題に挑戦していきたい、、、
大きいこと言っている。
・ホラ吹きは大事だよ。
そ?
・ついでに妄想も大事だよ。
ホラと妄想?
・そ、ホラと妄想で仲間と頑張るよ。谷戸で。
なんかもう少し具体的なこと言えないのかなぁ?
・農業の多面的機能に社会問題というか地域課題の解決もあると思っている。
難しく言っているだけで、具体的ではない。
・それは、また、現場の動きを伝えながらやるよ。
歯切れ悪いね。
・今はいろいろ制約もあって、、、
何の制約?
・地域の方や地主さんや役所や、、、俺が大言壮語したらメイワクがかかる。
なんだかそういうの気にしているってカッコ悪い。
・ズバリ、ハッキリ男らしいほうがいいかもね、確かに、、、
うん。「俺が俺が」でもいいんじゃないの?
・でもね、俺のリスクは俺だけのものではない。
イイワケー。
・きのう。役所の立会いで書類にハンコついて、地主さんは「ホッとした」って。
そう言ってくれるんだ。
・そういう事情がある。それで地域に入っていくわけだから、そこは大事だよ。
ふうん。
・ご先祖様からの畑を荒らすわけにはいかないって気持ちなんだぜ。
埋めるのはいいの?
・まぁ、それはイタシカタない。埋める前に俺に話があれば田んぼとしてやったけどね。
今後、そういう話があるかもしれない。
・そうだよ。
なるほど。
・そうして使わせていただく畑を自分たちだけで楽しんだらモッタイナイ。
で、いろんな人に来てもらう。
・でも、何でもかんでも誰でも彼でもと言うわけにもいかない。
なんだか遊んでいるように見えるのも困る。
・そうだよ。集まる人たちには一定の規律が必要だよ。
でも、いろいろと関係性を広げたい。
・コミュニティガーデンって言うんだよ。
大塚(敦子)さんがよく言われているやつね。
・そう、いっしょに耕すことで見えてくるものがある。
例えば?
・NORAのSさんは引きこもりの子たちを青空の下に連れ出した。
石ちゃんもそんなことするの?
・それは、出たとこ勝負じゃないけど、流れのなかで考える。
畑やらないでジョギングしたり、、、
・それ、いいかも。里山探訪のウォーキングもあるよ。
でも、畑を進めないと気になっちゃうんじゃないの?
・そうかも。貧乏性だから、、、
あんまり規律だ何だって言ってこき使うと嫌われるかもよ。
・「ドレイ」?
さすがに今はそう言わないだろうけど、人工として活用するんでしょ。どーなの?
・・・
・・・
・とにかく春からその谷戸で頑張るよ。楽しみだよ。
石ちゃんらしくやってください。
・俺らしさにも変化をつけながらやるよ。そこに出会いの意味があるんだから。
メディアで具体的に見せたら、、、
・そうだね。だけど、そこにも制約があるんだよ。
えー、また。
・障害者の活動の広報は難しい。したがらない場合もある。
石ちゃんの職場もそうなの?
・いや、うちにもいろんな意見がある。
多様性?よくわかんないけど、、、
・とにかく人と人の結びつきを大事にしながらもがいてみるよ。
ガンバってね。
・楽しむよ。
(頑張れと楽しむなんてオリンピックみたいだな、、、)
(本名:石田周一)