石田のおじさんの田園都市生活

第64回 ある谷戸で その1

2013.12.27
いしだのおじさんの田園都市生活

「一軒だけ」っていう約束だったはずでしょ。
・ゴメン。飲み直した。
何を?
・ワイン、かな?
一軒目は?何飲んだの?
・ワイン、だよ。
同じじゃない。赤ワインでしょ。
・それが、ちょっとチガウんだよ。
そのチガイが判る舌?
・舌はだめだね。つまり、気の合う仲間と呑みたかったんだよ。MAARU
一軒目は?
・うん。知り合ったのは古いんだけど、初めて呑む人。
なんだかよくわからない理屈、いつもながら・・・
・相談を受けたんだよ。
へぇ。どんな?
・田んぼをやりたいっていう話。
どこで?
・青葉区のある谷戸、と、言っておこうか?
もったいぶって・・・青葉区にそんなにたくさん谷戸があるの?
・うん。けっこうあるよ。
で、田んぼをするのに石ちゃんに相談なんだ?
・う、うん。いや、農家さんや、役所とか、他に相談したほうが・・・
そのほうがいいでしょ。単なる呑むための口実なんじゃないのぉ?
・かもね。
どういう話だった?
・まぁ、田んぼをやるにあたってのアレヤコレヤだよ。
わかるように話してよ。
・技術ならば俺より農家さん、法的なことなら役所。
なのに、石ちゃんに聞くということは?
・農家さんや役所には聞けない話、だよ。
聞けない話はイケナイ話なんじゃないの?
・だぁぁ。ダジャレは俺の役目だろ。
蛇の道は・・・
・ま、俺だから相談できることがあるんだよ。
ちゃんと力になれたの?
・いや、まだ、これからでしょ。
で、また呑むことになる?
・米作りもだけど、その谷戸を守りたいということがあるんだよ。
どこかでも聞いた話。
・そうだね。うん、単に田んぼがやりたければ谷戸でなくてもいい。
でも、谷戸に魅力がある。
・そう。むしろ谷戸だからこその魅力。米だけでないタカラモノがいっぱい。
ん?
・宝ものだよ。目に見えない田んぼからの贈り物。
なるほど。
・彼らは米よりもむしろ谷戸の生き物たちに大きな関心があるようだよ。
生き物のために田んぼをやる?
・そうかも。そういう発想というか志向があってもいいと思うよ。
石ちゃんは?
・カエルやヘビも好きだし、ヤゴやトンボやオタマジャクシ。好き好き、大好きだよ。
ヘビも?
・うん、ヘビが現れるとコーフンする。捕まえてみんなに見せる。
悪趣味。
・しかし、田んぼの本来の目的はやっぱり生き物ではなくお米だと思うよ。
生き物好きの人はそこが違う。
・生物多様性がキーワード。俺は人間の多様性を大事にしたい。
それは、別の話じゃない。
・うん。でも、田んぼをやるときのコンセプトは必要だよ。特に農家じゃない市民は。
それで?
・俺の場合、いろんな人に出会う場所としての田んぼ。
へぇ。
・または、自分自身をとらえなおす場としての田んぼ。
自分で言っていて恥ずかしくならない。
・う~ん。・・・ま、話を戻すか?
いろんな人に出会うことはできているんでしょ?
・ん、でも、それも、考えると、それを目的にしていたわけでもないかもね。
よく、わかんないけど。
・活動していると自然とそうなるんだよ。いろんな出会いがある。
良くも悪くも?
・いや、良し悪しを判断はしないようにしている?
ホント?
・まぁ、良し悪しを判断することを良くないと思っている。
???また、意味不明。
・つまり、自分が良しと思う人とだけ付き合うという選択をしないことだね。
そんなの、イヤですけど。
・少なくとも田んぼに集まる人とはなんらかの折り合いをつけてやっていきたい。
そうなんだ?無理していない?
・う~ん。上手くはいっていないかもしれないけど、そう思ってはいるはず、俺。
ならばいいけど。
・いや、心配になってきたな。折り合いをつけていないのは俺か?
かもよ~。
・でも、タカラモノは大勢で分けたほうが大きくなるんだよ。
お米やご馳走は少人数で分けたほうがワケマエは増えるでしょ。
・うわ~、リアル。でも、そうだよなぁ。見えるものと見えないもののバランスかなぁ。
で、相談の結果は?話戻すけど。
・結果の出るような相談でもなかった。田んぼをやることは決めているんだし・・・
そ。
・それにやり方ももう決めている。
へぇ。どんなやり方?
・不耕起自然栽培で、岩澤信夫さんの著書を参考にするらしい。
ちょっと変わったやり方?もしかして?
・かなり変わったやり方だと思うよ。でも、流行りつつある。
そうなんだ。
・先日La 毛利で初めてお会いした女性も「フコーキフコーキ」って言っていたよ。
どんな人?
・フツーの主婦。フルタイムの仕事はしているようだけど。
それで田んぼを?
・相模川の中流域だって。最近そういう人増えているようだよ。
私の周りにはいないけど・・・石ちゃんの周りだからなんじゃないの?
・いや、田んぼは少ないけど、畑も含めると。都内でも市民耕作者は増えている。
三鷹も少しだけど市民菜園はあるみたい。
・練馬なんかすごく盛んだよ。横浜のほうが先進だって横浜では言っているけど。
農地の広さがゼンゼンチガウでしょ。
・そうだね。青葉区だけでも練馬の数倍あるだろうね。練馬は田んぼはないし・・・
だから谷戸で田んぼをする市民グループがあちこちにある。
・そうだね。
お互い何か連携したらオモシロいかもね?
・うん。でも、お互いはそれぞれの文化かもよ。
張り合いになるかな?それもまたオモシロイ。
・そう、文化の違いがあるからこそ交流したら楽しいかも。
多様性でしょ。
・そうだね。違いの尊重。
谷戸ごとのチガイ。
・谷戸の中でも、メンバー間の微妙なチガイ。
チガイがハーモニーを創ればいいけど・・・
・「不協和音」っていうやつもあるね。「美は乱調にあり」とも言うし・・・
いずれにしろ、その人たちは新しいワクワクする春なんだね。
・課題も多いようだけど・・・
それは、新しいことを始めるんだから、簡単ではないでしょ。
・俺も新しいこと始めるよ。
そうだったね。そっちのほうが大事じゃん。
・どっちが、って、比べることでもないよ。
そっか。多様性だからね。多様性・・・うん。でもカダイサンセキでしょ、そっちも。
・そうだよ。でも、ボチボチやるよ。
いい春にしてください。
・は~い。

(石田周一)