石田のおじさんの田園都市生活

第58回 ホタルのころ、田の草のころ

2013.7.1
いしだのおじさんの田園都市生活

ホタル、よかったあ。
・うん、あれだけたくさん見られるのは珍しいよ。最近では。
人もたくさんいた。
・自分もワンノブゼムなんだから、文句言えないよ。
わかっているけど、声の大きいおじさんとか、懐中電灯とか、
・文句言いたくなるよね。
そう。
・でも、ここはまだいいほうらしいよ。
えっ?
・○○の森公園では、ホタル1頭に人が20人以上だったりするそうで・・・
えー、そうなんだ。ホタルが可哀そう。
・でも、携帯で写真撮ろうとする人もどうかと思うぜ。
あはは、この壺カルビって頼んでみる?
・オマカセします。
あの、静寂と可憐な光・・・
・そして今はホルモン焼きの喧騒。
人間は勝手なものです。
・ホタルを見ると、それを思うよね。
ホタルはあそこで光るしかない。何処にも行けない。
・しかも、環境が悪化するとあそこにもいられなくなる。居場所を失う。
だから、守ってあげなきゃ。
・守ってあげる、なんて、どこかエラソウ。
まぁ、言い方としては、エラソウだけど。でも、守ってあげなきゃ。
・この季節にホタルを見ると、「また逢えて良かったね」って声をかけたくなる。
去年のホタルとは別でしょ。
・そういうロマンの無い言い方はしないんだよ。
はははー、このギャラって、どう?
・胃袋だよね、確か。出演報酬じゃないよ。
ホタルにギャラ払わなきゃ。
・うまい。あれだけ出演してくれたからね。海鮮系も食べたいな。
とりあえずチャンジャ?カエルの声もすごかったね。
・いや、あんなもんじゃないよ。田んぼの多いところでは。
あそこは多くないの?
・まぁ、面積的には川沿いのほうが多いでしょ。
そうかぁ。
・昔はすごかったんだよ。
昔って?
・俺が学生の頃とか。
大昔じゃん。
・電話しているとカエルの声が聞こえるみたいで、よく不思議がられた。
田舎みたいだねぇ。
・田舎だよ。もう30年前のことだけどね。電車の中からホタルが見えた。
ええーっ、どこよ。
・江田とあざみ野の間なんだけどね。
ホントに見えたの?走っている電車から。
・見る眼があれば見えるんだよ。一瞬だけど。
ホントかなぁ・・・
・赤田谷戸っていうところでね、今は跡形も無い。
ふうん。ここのキムチ、イマイチだね。
・漬かり過ぎかもね。フレッシュ感がないね。
ずいぶん、舌が肥えちゃったね。
・自分が言い始めたんだろ。この店の個性だと思って味わおうよ。
でも、電車からホタルが見えたなんて・・・
・いや、たぶん俺にしか見えて無かったよ。
なに、それ?変でしょ。
・変だよ。変だから見えるんだよ。

・見えない人がほとんどだから、あえなく開発されちゃった。
(後日、ネットで「消えた赤田谷戸」というサイトを見つけた)
切ないね。
・切ないよ。ああ、赤田・・・。ナカミ、おかわり。
まだ、呑むのぉ・・・
・(イカン、不機嫌モードになりつつある。)美味いね、ハラミ。
いいかげんにしたらぁ。
・きょうはヒデが喜んでくれてよかったね。
「捕まえたい」なんて言っていたね。
・でも、遠慮してあまり手を出さなかった。
そうっと、手に乗せるんだよ、って、上手だったね、石ちゃん。
・さすがだろ。でも、昔は遠慮しないで捕まえていたよ。家に持ち帰ったり。
えーっ。持ち帰ってどうするの?
・部屋を暗くして放すんだよ。
えーっ、ビックリ。なのに、ヒデには捕まえちゃダメだって。
・あのころはたくさんいたから、ゾンザイに扱っていた。ゴメン、って、今思うよ。
でも、いなくなっちゃったのは、ゾンザイに扱ったからじゃない。
・個人の振る舞いと開発とは比較にならない。
でも、開発も個人の行動の集積なんじゃない。
・そうだね・・・そういうこと言うんだ。チャプチェも食べたいなぁ。
もう、いいから。打ち止め。
・今日の疲れを吹きとばさなきゃ。2往復もしたんだから。
ゴクロウサマでした。でも、ホタルを見るのに車で往復50㎞以上・・・
・エコじゃないよね。そして、昼間は田の草取りのために片道1時間の運転。
それも、エコじゃないよね。
・ま、しかたないよ。美味しいお米を食べるための・・・
腰も痛くなるし・・・
・今日は「テデトール」を減らして「アシデウメール」を使ったよ、ずいぶん。
何?それ?
・だから、「テデトール」「アシデウメール」という農薬だよ。
ええっ?農薬は使わない方針でしょ。
・だから、「手で取る」と「足で埋める」、なんだよ。
そっか、手で取るは分かるけど、足で埋める草取りって、そんなのあるの?
・全国的にあるかどうかは分からないけど、ね。
また、居直る。
・マッコリは?
だから、もう呑みはお仕舞い。
・ええっ!じぇじぇ!
イイカゲンニシテネ。
・足で草を埋めるのはね、主に二つの理由がある。
はいはい。
・テデトールはなかなか進まない。丁寧に取れば、そこはキレイになるけど。
進まない・・・
・田んぼの3割がキレイになっても、あとの7割が手付かずだったら・・・
それはヤバいんじゃない?
・でしょう。
ま、ね、
・だったら、かなりオオザッパでも、田んぼ全体の草を退治したい。
うん。
・で、足で踏んづけて埋めながら進むのが、「アシデウメール」なんだよ。
なるほど。
・例えば、掃除だって、広い部屋に大小様々のゴミがあったとき、どうするか?
え?
・大小あるのに小さいゴミだけ取る人はいない。
うん。
・そして、部屋が広いのにその3割だけ掃除する人もいない。
まあ。
・時間や労力が限られていたら、まずは部屋全体の大きなゴミを拾うでしょ。
そうね。あんまりいい喩えになっていない気がするけど・・・
・とにかく、それで、「アシデウメール」になるわけ。全体をやるには。
いろいろあるんですね。
・四つん這いにならない分、足腰も楽。
それが最大の理由。
・ま、そうだね。で、とにかく田んぼの全体を網羅はできたはず。だから、マッコリ。
いやいや。
・けれども、草の3割取れたかわからんし、期待としては5割くらいかとも思うけど・・・
5割ならいいじゃん。
・でも、もうひとつ。1週間後の復活がどうなるか、も、問題なんだよ。
なるほど。
・部屋のゴミと違うのは、残したものがやがて大きくなる。
そこが大きく違う。
・そうなんだよ。
そんなに育つ?
・1週間経ったら、「あれれ、先週草取りしたはずじゃん」ってなることもある。
ははは、では、もうオアイソしましょ
・えー

・・・・・

そして、1週間後、作業前日に私は園主に電話をした・・・
「草、ぜんぜん取れてないじゃん。なにやってたの?ははは。」
・(がーん#)えっ、いやいや、田車もやったし・・・
「肝心の株元がぜんぜん取れてないじゃん」
・いや、株間は・・・(少し沈黙)明日、頑張ります!
「ま、ガンバってください」
・はい。

・Tさんに「ぜんぜんだめって、言われちゃったよ」
きついね。
・まぁ、プロの目から見たらね。
プロじゃないし、仕事でもないでしょ。
・そうだけど、田んぼで米を作っていることにはかわらないよ。
でもさぁ・・・
・とにかく、明日、頑張るよ。

どうだったの。
・また、ホルモン焼き行こうか?
きょうは、いいよ。
・林くんの野菜で呑むか?
そうしよ。
・昨日は8時間くらい田んぼに這いつくばっていたよ。
何なの?それって?
・なんで、怒るの?楽しかったんだよ。
ヘンでしょ。
・ヘンかもしれないけど、あそこに長く居られることが楽しいんだよ。
わかりません。
・今回はね、一株一株稲株の周りの泥に手を突っ込んで田の草取りしたよ。
ぜんぜん、楽しそうじゃないけど。
・これは、やってみなけりゃわからん楽しさなんだよ。
(呆れている)
・ずいぶんキレイになったと思うんだけど、来週が楽しみなような怖いような・・・
先週の「アシデウメール」の効果は分かった?
・あったように見えたよ
ほんとぅ?
・先々週の田車の効果だってあったと思うよ。
ならば、よかったね。
・やっぱ、呑みに行こうか?
林さんの野菜がイチバンでしょ。
・そーだね。

(本名:石田周一)

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