第57回 横浜から山梨へ、「経験」を活かす
2013.6.1いしだのおじさんの田園都市生活
・乾杯!
いきなりお銚子ですか?
・ビールは、もう家で飲んだ。けっこう。
じゃあ、ほどほどにね。
・いいじゃん。明日休みなんだし・・・
ほどほど・・・
・どぼどぼ・・・
もう・・・田植え、ゴクロウサマでした。
・はいはい。
例年通りにできましたか?
・いや、こういうことって、「例年通り」って、ないよ、なかなか・・・
そーですか?
・むしろ、今年は例年とは大きく違っていたよ。
え、どんな?
・参加者が少なかった。
それは、残念。
・と、思うでしょ、でも、そーでもないんだな、これが。
ええっ?
・参加者が少ない分、一人一人の仕事が充実していたよ。
そういうこと?
・いや、大勢いたほうが楽しいことは楽しいんだけどね。でも・・・
でも?
・そもそもは農家さんなら一人でする仕事を大勢でやっているんだからね。
だから、楽しい、んでしょ?
・そうそう、まったくそのとおり。
ははは。
・そーだけど、一人の仕事を10人でやったら、それは「遊び」って言われるよ。
楽しそうにやっていたら、なおのこと、ね。
・うん。仏頂面しているより笑顔がいいに決まっているけど・・・。でもね。
また、答えの出ない話になってきているね。
・カシスオレンジ、お代わりする?
いえ、もうじゅうぶん。
・カシスオレンジと焼き鳥。
ま、話を戻して・・・充実の田植え。
・うん、去年までなら田植え機は一人あたり多くて3往復くらい。
3往復って?
・30メートルほどの行って帰って、だよ。
へぇ。疲れるの?それくらいで?
・曲がって植えちゃいけないと思って、あたふたする。
田んぼに足を取られたりする?
・そうそう、そして、緊張もあって、ワケワカンナイうちに終わっちゃう。
そうだよね。
・機械の使い方が少しわかったかな、と思ったら終わりなんだよね。
初心者?
・いや、初心者ってのはいちおう免許はあるわけで・・・
そっか、免許をもらわないうちに終わっちゃうわけね。
・それでも、「私、田植えしました」って、胸張っちゃう。
悪い?
・いや、悪くはないけど・・・
よくあるシロートの田植えは手植えだよね。
・そうだよ。手植えこそ田植え、みたいな。ゴカイがあるよね。
小学生から天皇陛下まで・・・
・しかし、稲作の専業農家は手植えどころか、田んぼに足を入れることもない。
なにやっているの?
・鍬を握ったこともない、ということもある。
えーっ!ますます、よくわからない世界。
・つまり、今の農業は機械をいかにうまく使うか、なんだよ。
へぇー。
・特に田んぼは大面積をやらないと経営としては成り立たない。
ふうん。
・でっかい機械で、田んぼもでっかければ、量をこなせる。それが「業」。
手植えなんてしていられない、わけね。
・ほぼ一人で20ha以上やっている農大出の男。
林さん(FBはやし農園)の仲間?
・先輩だけどね。彼の場合。100馬力以上のトラクターに乗っている。
普通はどれくらい?
・横浜では大きくて35馬力ぐらい。
へぇ。
・で、「農作業はツライ」って。
大きくても大変?
・眠くて仕方がないんだって。快適すぎて。
あらら。そういう人は田んぼに入らない?
・そう。めったにね。ここの焼き鳥おいしいね。お銚子、もう一本。
とかなんとか、言って・・・もう・・・で、谷っ戸ん田は?
・「業」に近づくためっていうわけでもないけど、手植えもするけど、基本機械を使う。
田植え機、ですね。
・しかし、それはTさんが昔に使っていた機械。
えっ?今は?
・Tさん、今は乗用の5条植えを使っている。
我々が使わせてもらっているのは、歩行式の2条植え。
スピードが違う?
・スピードだけじゃないよ。歩くか乗るかじゃ全然違うから。
そうですか?
・ま、そんな昔の機械を今回は5人程度でやったわけ。
一人でもできる仕事を。
・でも、去年までと違って、一人一人がじっくりできた。
それは、よかった?
・Yさんは、「使い方がわかった。明日なら一人でもできる」って。
どういうこと?
・でも、来年はきっと忘れている、というか・・・
一人じゃできないだろうと・・・
・つまり仮免許ぐらいかな、ってことじゃないか?
なるほど。
・スキーだってさ、毎年行っても、一冬に1回2、3日程度じゃじゃなかなか上達しないけど、
1週間ぐらいみっちりやれば大分うまくなるじゃん。
そういう、たとえもあるね。
・田植え機も3往復ぐらいじゃ、身につかないんだよ。
じゃあ、いままでは何だったの?
・まぁ、「体験」だよね。「経験」とはチガウ。
よくわからない日本語だけど・・・
・それはともかく、今回ヒデにも体験させたかったんだけど。
やらなかったの?
・まぁ、本人がやりたそうでもなかったんで・・・
そんなこと言っていたら、いつまでたっても・・・
・そうだけどね。
いい機会だったのに・・・
・本人が大人のまねをしたいと思ってくれたらいいんだけどね。
こどもなんだよね。
・まったくだ。
待っていても大人にならない。
・そうかな?
それに来年は行かれないかもしれない。
・なんで?
○○だから。
・ええーっ。
だって、○○でしょ。
・俺の同級生のKなんて、5年生のころは耕耘機がおもちゃだったんだって。
ゲーム機なんてなかったもんね。だから、たくましい。
・まぁ、ホンモノの農家の息子だからね。
石ちゃんはニセモノ?
・まぁ、毎日やっているわけじゃないよな。鳥わさでも頼む?
もう、いい。だから、待っていないで、そのときに体験させなきゃ。
・そーだね。草取りの田車や稲刈りのバインダーはやらせてみるよ。
うん、期待している。
・で、なんで、それ取り上げちゃうの?俺のお銚子。
もう、終わりでしょ。
・お酌してくれるのかと思ったのに・・・
そんな、サービスしません。
・まだ、入っているよ、少し。大切にしなきゃ、お米なんだし・・・
いえいえ、肝臓のほうを大事にしなきゃ。ね。
・さからえないなぁ・・・
(2日後)
山梨はどうだった?
・田植え機、バッチリだったよ。
えーっ!サッソク「経験」を活かしたわけ?
・そうなんだよ。
でも、同じ田植え機?
・いや、全く同じじゃないけど、同じタイプ。歩行型2条植え。
ちゃんとできたのぉ?
・谷っ戸ん田の経験がいきちゃって、ね。農家さんに「ウマイ」と褒められた。
それはよかった。谷っ戸ん田、やっていてよかったね。
・そうだよね。それにタイミングまでがばっちりだもんね。
これで、「あいつ、そこそこいいかも」って思ってもらえれば。
うん。それでいいのだ!
(いしだのおじさん)