石田のおじさんの田園都市生活

第13回 100年を考える

2009.10.1
いしだのおじさんの田園都市生活

ある勉強会で、「100年後を考える」という話があった。
地域社会、あるいは日本という国を考えるときのことだ。
10年後だと、何を作るか、と発想するが、100年後では、何を残すかという発想になる。
そして、何を作るかでは意見が別れることが多いが、何を残すかでは意見の一致が多い、と。

100年という発想は、個人のふだんの生活にはなかなかない。
先祖代々の暮らしが連続している旧家などはまた違う感覚があるのだろうか?
また、地域社会でも新興住宅街と京都など古くからの町では違うだろう。
社会とか国を考えても、100年まではなかなか考えないが、大事なことであると思った。

いしだのおじさんとしては、田園都市の100年を考えてみたい。
いつからいつまでの100年を考えるか?
まずは、今を中心に50年前、50年後としてみたい。

「田園都市」といわれる横浜市青葉区。
この地域の姿はこの50年ほどで大きく変わった。
1960年という時代の節目ころから「開発」が始まり、1966年に田園都市線が通じる。
高度経済成長と機軸を一つにして、「開発」は続いた。
「開発」は、視点を変えれば「破壊」でもあった。

「田んぼ」からの視点で見たら、田園都市のこの50年は何だったのだろう。
当然だが、50年前も田んぼはあった。
いや、100年前も、いやいや1000年前も2000年前も人は米を作り食べてきた。
50年前はまだ耕地整備以前で、江戸時代とあまり変わらぬ姿だったかもしれない。
耕運機が使われ始めた頃で、まだ牛で耕す光景もあっただろう。
耕地整備以前は、ぬかる田んぼも多かったのではないか。
恩田川や谷本川の洪水もあったことだろう。
機械がないなかでの作業は辛く苦しいものだったのだろうか?
田植えや稲刈りの機械はまだなく、手作業が当たり前だったのではないか。
家族総出で働いていたことだろう。
総出で働かねばならないという意味では、やはり辛く苦しかったのだろうか?
家族が力をあわせて働いた時代は楽しかったと振り返る人も多いと聞く。

ここ数年、コンバインの姿を見ることが多くなった。
稲の刈り取りと脱穀がいっぺんにできる機械だ。
脱穀後は重油を焚く乾燥機で籾を乾燥させる。
稲刈り後の田に稲ワラが立ててあるか、刻んでまいてあるのはコンバイン作業後の姿。
最新式のものになると、1反を1人で1時間ほどで済ませてしまうようだ。
コンバインが出現する前は刈り取って結わくまでのバインダーという機械を使った。
結わいたものを架け干し(はざかけ)して、天日で乾燥させる。
(グリーンやNORAの野良仕事ははこの方式の作業をしている。ホームページなどで、ご覧あれ!)
天日で乾燥させた方が稲の株から栄養もいくし、熟成するともいう。
しかし、そのための足場を組まねばならず手間が多い。
これを一人でおこなっているHくんという若い衆がいる。
刈り取って架けるまでに1反に10時間くらいかかるそうだ。
脱穀はハーベスターという別の機械を使う。
この時間も計算すると、脱穀完了まで1反を1人でおこなうと15時間近くかかる。
バインダーとハーベスターは2台で100万円程度だが、コンバインと乾燥機はその5倍以上。
しかし、5倍のお金で労働は15分の1になると考えると、3倍オトクといえるのか?

(コンバイン、バインダー、それぞれでの稲刈り後が、
なんとなくですが、わかる画像をアップしました。
定点観察4、5

50年前は手作業しかなかっただろう。
バインダーならば数株を刈って1束に結わくのは数秒だ。
これを手作業で1分以内におこなえるのは、神業に近い熟練者だろう。
1反では500近い束を作るから、それだけで1日以上かかる。
刈って、マルって(結わいて)、足場を作って、干して、は、家族5人でも1日で1反は無理だろう。

50年の間に便利な機械ができて、米作りの労働は楽になった。
労働の辛さ苦しさはなくなったかもしれないが、共に力を合わせて働くこともなくなった。
田んぼから家族の姿が消えて、機械が跋扈するようになった。
家族で懸命に米を作り食う時代が去り、米を作っていたのでは食えなくなった。
しかし、作業がスピーディゆえ週末だけでも米作りができるともいえる。
米を作って、食って、生きるという日本人の根幹にかかわる労働は、その質を変えた。
これは、生き方そのものが変わったということなのではないか?
そして、田んぼ自体が年々減っている。

さて、しかし、50年後にも100年後にも田んぼがここにあってほしい。
名ばかりの「田園都市」にはしたくない。
どうするか?

・・・50年後のことは、またの機会に書きます。
(いしだのおじさん=石田周一)

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