第170回 青葉台1967 その3 マッカチン

2022.10.29
いしだのおじさんの田園都市生活

子どものころから、おじさんは田んぼにいたよ。

オタマジャクシやカエルやザリガニと遊んでいたんだよ。
いや、遊んでもらっていたのかもね。

春先の田んぼの水たまり、黒々とザワザワとオタマジャクシのかたまり。
赤ガエルの子たちだね。
水草で覆われた田んぼや池(ときには肥溜め)の水面からちょこんと頭を出しているカエル。
トノサマガエル。
溜め池の周囲を歩くと、ドボンッ!って水に飛び込む生き物の音。
ときに、キュッ、って声がするときもある。
しばらくすると、また、陸に上がって、「ブォーブォー」と鳴き始める。
ウシガエル(食用ガエル)だよ。
あと、水から遠い雑木林の土が動いたかと思うと、茶色いヒキガエル。
たまに、道路で轢かれてしまうカエルは、たいていこれだね。
そんな姿をあれこれ思い出すことができるよ。

そして、なんといっても、ザリガニ。
「マッカチン」って、言っていたんだよ。
今の子どもたち、なんて呼んでいるのかな?
赤くて、黒くて、大きくて、強そうなヤツだけが、マッカチン。
弱そうな青いやつはアオチン。
その、マッカチンと闘うのが子ども時代のおじさんの楽しみだった。

まず、田んぼを歩いて、泥に穴をあけて巣にしているところを見つけるんだ。
そして、そこに手を入れるんだ。
気を付けないとハサミでガッと噛み付かれるよ。
そりゃあ痛いんだ。
ハサミは外も内もギザギザだからね。
そこで、うまく、ハサミの後ろに手を回して、ハサミが使えないように押さえつける。
そして、そのハサミを持って慎重に穴から引っ張り出しにかかる。
すると、マッカチンもビビビッ!ビーンッ!って逃げようとする。
力いいっぱいに、尻尾で後ずさりするんだ。

その、ビビビッ!ビーンッ!って感触に、ワクワク、ゾクゾク、するんだ。
闘い、だね。
この闘いがめっちゃ楽しかった。

うまく穴から引き出すと、泥の上に一度離す。
跳んで逃げたりしないし、走ることもないからね。
すると、
ハサミを振り上げて、後ろにひっくり返りそうになりながら、
真っ赤になって?
もともと赤いんだけど、
すごく、怒りまくるんだ。
その姿が強そうであればあるほど、嬉しかったな。

この田んぼは、おじさんが子どもときに住んでいた団地の向こうにあったんだ。
団地のすぐ裏が空き地で、その向こうに雑木林があって、その向こうが田んぼや畑。
今は、マンションや住宅地になっているけど、寺家や新治と同じような里山だったんだよ。
そして、坂を下りていくと「ヤモトノイケ」という溜め池に出るんだ。
今、そこは「もえぎ野公園」というきれいな公園なんだけど、
(11/12 夜にライトアップされるよ)
そのころはうっそうとしていたんだ。
「沼」って呼んでいる人もいたよ。

冬には厚い氷が張ってスケートができたんだ。
それを知る人はもう少なくてね、
ときどき、おじさんはそのことを話すんだけど、
自分でもなんか嘘をついているような感じにすらなるんだよ。

そのヤモトノイケも、マッカチンがたくさんいたんだよ。
タコ糸に煮干しやスルメをつけて釣ったりもしたよ。
ガシッとエサをつかんだマッカチンは、釣りあげても力強かったね。
タコ糸ごと振り回してもハサミを離さないくらい。
エサが無いときは、ザリガニの尾っぽをちぎってエサにしたこともあったな。
ちょっと残酷?
子どもたちは、ザリガニを釣りながら、やっぱり泥の中に入っていくんだね。
泥は気持ちいいし、、、
そうするとね、家に帰るころには体中が泥くさくなっているんだよね。
「ぬまくさい」とも言ったよ。
もうズボンやシャツも泥だらけで、お母さんに叱られた、、、かな?
(あんまり叱られたおぼえが無いね。二層式洗濯機で洗ってくれたね)

今、アメリカザリガニは特定外来生物として駆除の対象になりそうな状況。
子どものころのおじさんにとっては、大好きな闘いの相手だったのだが、、、
ザリガニが増えると、他の生物や農業にも悪いことが起きるらしい。
難しいこともあるね。

また、ヤモトノイケには、マッカチン以外にもいろんな生き物がいたはず。
今では少なくなったクチボソやメダカやドジョウやゲンゴロウとか、ね。
あのころ、子どもたちは、そんなことをあまり気にしていなかったように思う。
珍しいとか、いなくなってしまう、とか、思わなかったからね。

バルタン星人、って、知ってる?
ウルトラマン(初代ウルトラマンだよ)に登場する宇宙忍者。
手が巨大なザリガニのはさみみたいで、あれは、あの時代の子どもたちのアイドルだった。
両手を上げ下げしながら、
「フォッフォッフォッ、フォーフォーフォーフォー・・・」
って、真似したりしてね。

で、マッカチンとバルタン星人が子どもの中で結びつくんだよ。
おじさんと仲良しのNくんとは、よく想像をめぐらせて話をしていたんだ。
ヤモトノイケにはバルタン星人みたいな巨大なマッカチンが潜んでいるんじゃないかって。

(子どものころから妄想、、、石田周一)