第160回 世界中にコモンズを

2021.12.30
いしだのおじさんの田園都市生活

大江さんを偲ぶ会が、12月18日におこなわれた。
大江さんが亡くなって1年。
当初、6月ごろにおこなうという意見もあったが、1年かけて準備して良かった。
会場に50人弱、リモート参加が200名ほど。
会場には福島、北海道、愛知などから来られていた方もあった。
これだけ多くの方を集めるのはさすが大江さん。

13時から18時過ぎまで、充実した時間だった。
3つのテーマ別セッションは、内容が濃く、どうしたって45分の設定時間をオーバーする。
・「有機農業のチカラ」に込められた想いを継承・発展させていくために
・大江さんと歩き、語り、考えたアジアと世界…市民社会の役割と私たちの課題
・ジャーナリスト&出版社経営者として、大江正章さんが歩んだ道
(ご覧になりたい方は、YouTubeを検索してください)

これとは別に、リモートによる参加型で、自己紹介タイム、グループ別セッション、
そして、大江さんとの思い出を語るというコーナーがあった。
石田も、3分間の時間をいただき、大江さんとの思い出を語らせてもらった。

打ち合わせでは、「1分でいいですよ」と言っていた。
私のような浅学が貴重な時間をもらってはいけないという思いだった。
本当に1分で語るつもりだったが、それで、ちょうど3分だった。
もちろん、何をしゃべるかは数日前から考えていた。
が、最終的には会場で、セッションの様々な発言を聴きながら、簡単なメモをおこした。

大江さんが、私に与えてくれたキーワードは「農マライゼーション」だった。
私の仕事である障害者福祉の原則である「ノーマライゼーション」をもじったものである。
暮らしに(人生に)農があることがアタリマエ、ということ。
『有機農業大全』(有機農業学会・2019)にこのタイトルでコラムを書かせてもらった。
「石田さんらしくて、学会らしくない、いい文章」と褒めてもらった。

そして、大江さんは「コモンズ」
コモンズは大江さんが創った出版社の社名。
その社名に込めた思いがホームページにある。
抜粋する。
「出版社でのテーマは環境・農・食・アジア・自治。ぼくは、それらを貫く概念は商品化の「私」でも管理の「公」でもなく、人びとと人びとが結び合う「共」であると確信していた。そのとき、自然にコモンズという言葉が浮かんだのだ。」
「地域で生活していくなかでの共同性」
「たくさんの仲間たちと、地域と地球の環境を守り育てながら、それを共有財産としていく開かれた場」

大江さんは、仕事を通じてまさにその思想を生き、多くの本を編集出版した。
そして、仕事は本の編集出版にとどまらなかった。
多くの市民活動へ参加し、取材や講演もおこない、そこで様々に人々を結び付けた。
まさに大江さん自身が「コモンズ」だったのだ。
そして、私が受け継ぎ目指すのは「コモンズ」だ。

私はスピーチにもうひとつのテーマ「耕す」を加えた。
「市民が耕す」「都市を耕す」だ。
これは、明峯哲夫さんから受け継いだものだ。
「市民が耕す農研究会」で明峯さんから大江さんを紹介され結びついた経緯がある。
『街人たちの楽農宣言』(1996年)で共編著者となり、コモンズ最初の本となった。
もともとのここでの「市民」は「農家」と対比させての表現だ。
「市民菜園」レベルとプロとの規模や技術や耕す目的と資格・資質の違いを言っている。
だが、私は別の意味を少し加えた。
「市民が耕す」と言ったとき、その「市民」に障害者は含まれているだろうか。
一般社会の多くの場面で障害者はそこに参加できない状況が未だに多い。
だからノーマライゼーションという思想が生まれた。
「耕す」ということにおいても、ノーマライゼーションが必要と考えた。
そして、障害者の福祉農園だからこそそこに市民が参加できること、も、考えた。
福祉農園を開かれた場にして地域住民(市民)が参加できる場にしていくこと。
グリーンでは多くの学生や地域の方々が田んぼに参加してくれた。
今、幸陽園農耕班の新治の畑も子どもたちが走り回っている。

「都市を耕す」には、また、多くの意味が込められているのだろう。
「都市を滅ぼせ」とまで言った農の人もいた。
都市と農村を対比させることも多くあり、ときに対立させることもある。
しかし、明峯さんは「都市生活者にこそ農を」と言っていた。
偲ぶ会では私の前に練馬白石農園の白石好孝さんのスピーチがあった。
(偲ぶ会の翌日には白石農園とLa毛利を訪問する機会があった)
白石さんの体験農園や横浜の栽培収穫体験ファームがまさに都市住民の耕す場だ。
我がシェアハウスでは、認定市民菜園を利用して耕している。
都市で暮らす人たち、都市で暮らさざるをえない人たちにこそ、農が必要。
いや、全ての人に「耕す」暮らしが必要なのだ。
大江さんの著書『地域の力』に「市民皆農」という章がある。
これらの意味を含めて、「市民が耕す」「都市を耕す」は私のライフワークだ。

スピーチでは、勝手に、「横浜代表」、「障害者福祉代表」と名乗り、
明峯さんと大江さんから受け継いだテーマを語った。
「市民が耕す」「都市を耕す」を実践し「コモンズ」を創り出す。
「ノーマライゼーション」はしばしば理念であると誤解される。
それは、思想から始まった理念であったが、
障害者福祉の現場では、いや社会において「原則」でなければならない。
「コモンズ」」もこれからの社会の原則にしていきたい。

(石田周一)