第157回 幸せな田んぼ

2021.9.30
いしだのおじさんの田園都市生活

「なぜだらう稲が米になる寂しさよ」
10年以上前、な~に谷っ戸ん田をやっていたころに詠んだ。
俳句を嗜む当時20代の男女数名が参加しており、触発された?
句としてのできはともかく、私の実感がこもっている。
みんなで田んぼを楽しんで、春から夏、そして、収穫の秋。
ウレシイ実り、の、はずなのだが、、、
メランコリアがやってくる。

今年は、そのメランコリアが来るのが早い。
収穫が早かったせいもある。
9月中に収穫を終えた。
脱穀の日も大勢の子どもたちが参加してくれた。
「いしださぁん」の声が耳に残っている幸せ。
ハーベスターの轟音の横で掛け干しの稲束を競い合うように取って渡してくれる子たち。
機械のノズルから出てくる籾に手を伸ばしてみる子たち。
畑の中を走り回る子もいれば、音が苦手で機械から遠くにいる子もいる。
「お芋、掘ってもいいですか」というお母さんもいる。
楽しい。
楽しかった。

田んぼにいる時間が楽しい。
楽しんでくれる人が大勢いるから、楽しい。
仕事も楽しいが、田んぼにいるだけで楽しい。
楽しい、楽しい、楽しい。
楽しい田んぼは、幸せな田んぼ、だ。
みんなの田んぼは、幸せな田んぼ、だ。
マチガイない。

しかし、
あくまでも個人の感想です。
田んぼというものが、普遍的に幸せなわけではない。

田んぼが、日本と日本人にとって、(話が急に大きくなるが)
絶対に必要なものであることを否定できる人はいないはずだ。
しかし、そうなっているか?
年々、田んぼは減っているし、
米を生産する農業者も減っているし、
米の消費量も減っているし、
(この辺で農林業センサスの数字でも挙げると少しアカデミックになるのだが割愛)
幸せは難しい。
歴史的に見ても、百姓は年貢に苦しんできた。
(石田、『カムイ伝』の愛読者)

産業として田んぼを見たとき、
21世紀の今、効率的な生産ができるツールはどんどん増えている。
しかし、米価が下がっていて、収益性は低くなっている。
「1俵1万円を割り、原価割れを起こすほどの大暴落」と。

我々は収益性を追求していないから、
効率的な生産を追及していないから、
だから幸せでいられる、というパラドックス。

先日、とある研修で、別の幸せな田んぼを知った。
千葉県いすみ市の事例だ。
「学校給食のお米を全量、有機米に」をかかげ、地元産でそれを達成している。
10年前には有機米の生産がほぼ0だったのに、
2013年から「自然と共生する里づくり」の一環として、
行政主導で、
子どもたちのためにより良い物を生産しよう。
地域の自然環境にとっても良い生産方法を、と。
しかし、ここで、有機の安全性をことさらに強調はしない。
普通に化学肥料や農薬を使用する慣行農法を否定して対立を生まないように。
民間稲作研究所の技術指導を受けた。
「いすみっ子」というブランド米。
そして、農協とも協力して有機米を適正な再生産可能な価格で買い取る仕組みを作った。
参加する農家は5年間で3人から23人(2017年)になり、
野菜の有機栽培も増え、
「住みたい田舎ランキング」上位になり、移住し就農する若手も増え、
農業体験での子どもたちの笑顔もまぶしくて、
などなど、
聞いていて、「ああ、ここには幸せな田んぼがあるなぁ」
しかも、生産性を伴った幸せな田んぼだなぁ、と、思った。

振り返って、横浜市、、、
いすみ市は人口が約37,000人、横浜市は約3,725,000人。
100倍。
規模がチガウ。比較にならない。無理。
と、言ってしまえば、、、
中学校に給食が無いのもイタシカタナイ、、、
と、思われるかもしれないが、
お隣、韓国のソウル市は人口約9,776,000人!
そのソウル市では小・中・高校までの給食で「有機無償」を達成しようとしている。
有機に加えて「無償」!
そして、大都市ゆえ、農村との共生もなければそれは達成できない。
(「韓国のフードプラン」の研修も受けた。もう少し咀嚼していずれ紹介したい)

話しが、また、飛ぶけれど、
「な~に谷っ戸ん田」も幸せな田んぼだった。
過去形になってしまったのだが、先日も講演の中で紹介した。
(三鷹雑学大学で話をさせてもらった)
初めての収穫の前での記念撮影を見てもらいながら、
「こんな美味しいお米は初めて」というみんなの感想。
それは、田んぼを体験して全身で食べる経験をしたからだと、、、
20世紀のものである小さな耕耘機や田植え機で作業をする写真を映し、
これぐらいの効率性でみんなで作業をする楽しさ、
それでも一人1俵の自給ができること、も紹介。

新治は、もしかしたら、いや、もしかしなくても横浜市のなかでも特殊な環境。
そこで、細々とやっている「幸せな田んぼ」。
これからもこれを守っていきたい、と、思っている。
が、、、
いすみ市やソウル市に憧れつつ、
もっと大きなところも見ながら進みたいとも思っている。

(本日、退職願、提出 : 石田周一)

原稿をアップしてみたら、三好さんも学校給食のことに触れていた。
ね。