第156回 ご隠居さん畑夢想

2021.8.31
いしだのおじさんの田園都市生活

17時30分近くなってくるとソワソワが始まる。
本来は、サクッと定時に退勤するような仕事ではない。
20分から始まる終礼が10分で終わることの方が珍しい。
が、特に秋風が吹き始めるころにはソワソワは激しくなる。
「春播き急ぐな、秋播き遅れるな」というが、そればかりでもない。

退勤して向かうのは、職場から車で30分弱、家の近くの自分の畑。
日の入りまでの限られた時間。
このところ特に日の入りが早くなっている。
9月になれば定時に退勤しても作業できる時間は無くなるだろう。
5月ごろから楽しんできた夕暮れの畑もあとわずかなのか。

日中は職場の畑で農作業をしているのに、
それも猛暑の中の作業でグッタリしているのに、
なにもまた、夕方にまでバタバタと農作業をしなくても、とも思うが、
一人で自分の畑に立ち、日の入りに向かう時間はとても心地良い。
きれいな夕焼けが見られたことも数回あった。

朝に作業をすることもある。
5時半までには起きる日常。
夜はゆっくりしたいので、というか夏場は疲れて一献でダウンなので、朝は雑事で忙しい。
掃除、洗濯、片付けなどを終えて早めに家を出れば、7時半までは作業ができる。
たまに現場直行ということもあり、そういうときは多く時間が取れる。
朝は草刈り機の騒音をちょっと遠慮して、鍬での植え溝作りや種まきをする。
菊芋、里芋、生姜、大豆など、朝に作業して、今、そこそこ育っている。
苗の植え付けは朝より夕方が良いと思っていて、そうしている。

土日の休みには時間があるが、三鷹にいるので、畑は平日なのだ。

畑から100mほどのところに鶴見川の支流谷本川が流れている。
その対岸に見える校舎は私の母校県立○ケ○高校。
自嘲気味にマルヶマル高校と呼んでいた、その理由は、
他に県立でもレベルが上の緑ヶ丘や桜ヶ丘があったから、、、
(桜ヶ丘ではなく桜丘だとあとから知るのというのも情けない、し、希望ヶ丘は別格)

高校生だった45年ほど前、ここで畑をする自分は全く想像していなかった。
周囲には今以上に農地が多かったが、農に携わるなんて考えもしなかった。

そしてこの畑は中学と高校の同窓同期の友人の家の畑。
「いや、別に、信用しているから、好きに使ってくれていいから」と言うのを、
「いやいや、俺の立場上、お役所的なところをクリアしておかないと」と、
無理を言って、いろいろと書類をそろえ判をついてもらって、
昨年5月に農業委員会の認可がおりて、認定市民菜園となった。

菜園は6区画。
私が代表である田園都市生活シェアハウスの入居者さん3人が各1区画。
私が2区画とmaaruが1区画でスタートした。
1区画あたりはおおよそ20坪。
これをしっかりと耕作するのは容易いことではない。
ちなみに、シェア畑やマイファームの1区画は2坪程度が多く、1坪というのもある。
賃料は、シェア畑やマイファームの一ヶ月分と当菜園の1区画の1年分が同じくらい。

そして、入居者さんはみな無農薬無肥料不耕起のいわゆる自然農で野菜作りを希望。
草をはやしながらの畑は、見ようによっては世間体の悪い畑だ。
しかし、友人はこれを認めてくれた。
「趣味でやるんだから、好きなようにやるのがいいんじゃない」
と、言ってくれたが、私は恐縮してしまった。
が、結果的に、私も草をはやしている。

7月8月の夕暮れは、ほとんど草刈り草取りに時間を費やした。
職場から刈り払い機を持ち帰って、いろんなところを刈る。
作物のあるところないところ、そして通路や駐車スペース。
さらに、畑の外壁周りにはえる雑草も。
作物の周囲は手鎌や素手でテデトール。
なるべくすっきりさせるつもりでやっているのだが、、、

やっぱり草の旺盛な姿が目立つと世間体が悪い、と私は思っている。
特に私の区画は道路際なので人目に付きやすい。
そこで、少しでも見栄えを良くしようとヒマワリとアサガオをまいた。
ヒマワリは8月になって10mほどに100個近くが見事に咲いてくれた。
道行く人も楽しんでくれたと思っている。
アサガオは発芽してフェンスにつるが絡んだが、花は咲かなかった。

収穫は、インゲン、トマト、ナス、ピーマン、キュウリが少しずつ。
本当に少しずつ、いや、わずかと表現した方がいいデキだった。
作物の実りが悪いのも、これまた世間体が悪い、と、思う。
お金を払った苗のリターンとしても情けないものだった。
肥料をほとんどやらなかったからだろう。

入居者さんたちに倣って自然農っぽくしてみたのだが、、、
いや、30年以上前から自然農には憧れがあったのだが、、、
うーん、厳しいなぁ、と、思い、
キャベツの植え付けでは、けっこう多めに有機ボカシを投入。
この後のブロッコリーや白菜もそうするつもりだ。
自然農ハードル高し、だなぁ、、、
来年の作付けは有機肥料と耕耘畝作り、職場でのやり方で行こう、かなぁ、、、

規模の小さい家庭菜園こそ自然農が向いている、のだろうと、思う。
そこに小さな自然循環を創ることができれば、それはそれで、ステキだ。
機械などは使わずに少しの野菜を作付ける。
できれば自然生えや直播きで作物が育つ環境を作り、ゆっくり見守る。
うまくいけば、実は効率的とも言えるようだ。

職場の畑では、トラクター耕耘、ビニールマルチ使用などが必須となっている。
反(300坪)単位の畑を自然農でというのは無理だと思っている。
作物によっては、広い畑で不耕起で作られているものもあるようだが、、、

畑の広さや栽培の目的によって農法もいろいろと異なってくるのだろうと実感している。
有機農業か自然農かを対立的に考えるのでなく、時と場合で使い分けたり、
なんならミックスしても良いとも思う。
実験的に進めていろいろ試行錯誤、、、
きっと楽しいだろう。

自分と、家族と、おすそ分けと、物々交換くらいを、
売って稼ぐことから離れて、
効率的な生産からも離れて、
小さな畑を耕さずに耕す。
畑にいること自体をゆっくりと愉しむ。
いつか、そんなふうに畑とかかわりたい。

(定年帰農? 石田周一)