第43回 釜飯仲間・おこげのお話
2012.6.1神奈川・緑の劇場
《食事会の始まりのころ。》
2012年5月10日。NORAの「神奈川野菜の食事会」は66回を数えました。ほぼ毎月1回。特別ゲストを招いて月に2回開いたのを回数に入れていたり、逆に特別な企画はカウントしなかったり。ただ、初めての食事会から5年半の月日が流れました。わずか5年なのに、私たちの食・農・そして暮らしを巡る有様は大きく変化しています。
初めての時のメンバーは誰だったのか?
今は福祉施設の職員として、農作業に取り組むM君がいたことは確かです。若くて一人暮らしのM君は、急速に農と農的な暮らし方への関心を深めていたころだったのでしょう。神奈川の旬の野菜を”料理”して自分で食べることにも意欲を示してくれて、「実際に一緒に作って食べよう!」という話になりました。そして、気の合う仲間とワイワイ言いながら食べる方が楽しい、仲間を募るのも普通の流れでした。
たぶん、第一回のメンバーだったと思われるSさんがいたことは、食事会を続けていくことにおおいに勇気づけられました。彼女は、独特の雰囲気で「あー、ご飯が待っていてくれるなんて、幸せ!」こんなに喜ばれたら、次は何を作ろうと思ってしまいます。人にもよるでしょうが、自分のために一生懸命料理を作るよりも、喜んでくれる人がいればこそ、という人が多いのではないでしょうか?
当時は、まだ、NORAの事務所で、「はまどま」には、なっていませんでしたが、同じビルの五階に、Mくん、Sさんを始め、NORAと関わりの深いメンバーが何人も暮らしていました。彼ら、彼女らは、残業も多く帰宅が遅く、外食中心の食生活で、野菜の摂取は少ない様子でした。そこで、月に一回でも野菜いっぱいの食事を用意して帰宅を待つことになったのです。いつもは人通りのほとんどない暗い道に、食事会の時には、入り口に灯りをつけるようにしました。最初の食事会は12月でしたから、寒い夜に暖かい灯り、立ち込める湯気、おいしい香り。そして「おかえり!」「ただいま!」と呼びかわし、笑顔の食事会となりました。
疲れ切った表情で帰ってきて、とても喜んでくれたのがSさんだったのです。
《食事会は試食会・炊き出しから始まった。》
頭で考えることと、現実に進行することは違うものです。「笑顔」は、66回の食事会をすべて彩って、参加された皆さんの心にも大きな、大切な記憶になってくれているのではないでしょうか?
そして、参加された皆さんの「笑顔」こそが、今まで食事会を続ける原動力になってきました。
ですから、なぜ「神奈川野菜の食事会」なのか、たまには立ち返らないと、と思います。
神奈川で20年~30年、土づくりを心がけ、なるべく農薬や化学肥料に頼らなない農法を続けてきた生産者たちと、彼らの作物の味を知ってもらいたいというのが、そもそもの食事会の目的でした。
もう一つは、『専門的』な知識ではなくとも、暮らしに密着した、判断する力を持てる知識(味覚を始めとした体験も大切)の共有です。
おおむね、2000年ごろまでは、農畜産水産業の専門家や関係者と一般の市民との間で、食べ物に関する情報の乖離は広がる一方だったのでは、と思います。
農業の専門家、それは生産者を筆頭に、農業改良普及委員などの指導的な立場の方々、農業試験場などの研究者の皆さん、農協の、特に営農担当の皆さん、県や市など行政関係者、そして、市場関係や量販店、生協の農産担当などなど。いわゆる農業を知っているであろう部署と、一般市民との情報の乖離。
例えば、『旬』がわからない。身近な農業の様子がわからない。作物の畑での姿がわからない。わからなくても困らなかったし、関心も無かったのでしょうが。
しかしやがて、安全なものは食べたい、できればそれを安く手に入れたい、そしておいしいほうがいい。しかし、表示は信用できるのか、何を信じたら良いのか。
情報の基本は、誰が、どこで、どんな方法で、作物を育てているのか?から、まず始めたいと思うのは、次に、その生産者は、どんな思いで、なぜその栽培方法を選び、なぜその作物を育てるのか?につながるからです。これらを知ることは、面倒なことではなく、むしろ日々の食事を心豊かにしてくれるものなのです。
「作物を売ってるんじゃない。自分を売っているのと同じことだ。」という生産者の思いを知って手にする作物の味は、きっと違って感じることでしょう。
少なくともこれからの世代には、「安全です」という表示を誰かに頼り求めるよりも、「安全か否か、それがどの程度かを判断できる情報と知識」が必要なのではないか。
私たちを取り巻く食と農は、行きつくところまで行ってしまった感があります。原発事故とその後の状況は、各々の知識と判断力、そして選択を迫っています。
以下は、5月10日の食事会の様子です。ご覧のとおり、会場が狭いために、NORAの会員と会員紹介の皆さんへのご案内とさせていただいていますが、この食事会と、参加した皆さんを軸に、コラムを書きすすめたいと思います。
https://nora-yokohama.org/mura/archives/2012/05/15-1834.html