第139回 田園ふれあいランド妄想 種まきの巻

2020.3.31
いしだのおじさんの田園都市生活

温暖化の影響で、いや気候変動、いや気候危機と表現すべきか、
桜が早く咲いた。
せっかくの花なのに、悲しい春かも、、、
(その後、というか原稿を書いている途中で、その上に雪が積もった)

「染井吉野の咲くころ」なのだが、
我が社は作業が遅れている。
3月末、ジャガイモ、カボチャ、ズッキーニ、など、、、
発芽していても良いのだがやっとこさ土におろしたという状況。
イカン、遺憾。
担当の彼は、いつも後手後手。
「幸運の女神には前髪しかない」ことをどうすれば実感させられるか?
悩む。
(その後、雪でさらに遅れた)

しかし、「春まき急ぐな、秋まき遅れるな」という表現もある。

さて、田園ふれあいランド、も春の種まき、
いろいろだ。
先日は子どもたちと種まきをシェアした。(実話)

畑の近く、谷戸の奥の森でいつも走り回っている子どもたち、
自主共同の保育グループの親子が20人くらい参加してくれた。
枝豆とつるなしインゲン。
マルチの穴の真ん中に種(豆)1粒ずつを置き、
置き終えたのを確かめたら指でチョンと押し込んでいく。
2歳、3歳の子どもたちに最適(?)の作業。
親子でワイワイ。
「Iくん、上手だねぇ」と我が社のMさんがうれしそう。
まだ、おむつをしている子が豆を指先で押し込むことに夢中になっていたのだ。
Mさんは子どもたちの名前をよく覚えていて仲良くしている。
楽しい小さな交流。

種まきを終えると、子どもたちは当番のお母さんお父さんと森歩きへ。
半分ほどのお母さんたちは畑に残って野菜の収穫。
白菜菜花、レタス、ネギなど。
ストックのサツマイモやサトイモもあわせて購入してくれた。
自分たちで収穫して計量して支払いをしてくれて、
楽しんでもらって、我々はその間に遅れていた別の仕事を進められた。
交流に加えて実利、
お互いに「ありがとう」が言い合えるいい時間だった。
「田園ふれあいランド」、いいね!

さて、4月の田んぼは、種まき、苗代づくりだ。

稲の苗は、どういう田んぼにどういう植え方をするかで、
その姿が大きく違う。

いろんなところの田植え体験を見ていると、
田植え機用のふつうの箱苗を使って手植えをしていることが多いが、
あれはイマイチだと思う。
箱苗は30センチ×60センチほどの育苗箱に150gほどの種籾をまいて育てる。
出来上がった苗は稚苗サイズで根が絡まってマット状になる。
機械の爪が掻き取って植え付けるわけだが、手作業には不向きだろう。
子どもが手にマット苗を持ってむしりながら植えている場面は、、、うん、イマイチ。
上手に掻き取れずごっそり植えてしまうシーンをよく見かける。
手植えの用の苗は稚苗でなく成苗を使うべきだ。
稚苗は播種から30日弱、ハウスなら20日程度でできるが、成苗は40日弱。
育苗箱でも育てられるが、その場合は1箱60g程度の播種だ。

最近ではヤンマーが開発した「蜜苗」というものもある。
苗箱に300gをまく、「たくさんまいて小さくかき取る技術」と謳っている。
私の師匠Mさんも導入している。
このメリットは、箱の数を1/3にして、資材(土など)を1/2、運搬の手間も1/3、
と、いうもの。
箱苗は、通常1反(10a=1000㎡=300坪)に20~25枚が必要。
1町(10反=1ha)なら200~250枚、
稲作農家を成り立たせると言われる10ha規模なら2000~2500枚となる。
な~に谷っ戸ん田では園主さんが電動の自動播種機を使っていた。
コンベア上を苗箱が移動しながら土入れ、播種、水撒き、覆土をする便利もの。
が、土や種籾を補充するのも、ハウスに運んだりするのも、人力。
ハウス内の置き場所確保だって、数が多くなれば大きな問題。
発芽したら水をまき、田植えの際には当然運搬し、田んぼでは機械にセット、、、
ベテランは両手に持てるが手は2本しかないし、けっこう重たい。
これらを半分以下にできるというなかなかの技術が「蜜苗」。
(またまたマニアックな話になってしまった)

さて、我が社では手植え用の成苗を専用の連結ポットで育てている。
通称「ポット苗」といい、通常の苗箱とほぼ同じサイズの箱に440の穴が開いている。
その穴に1から3粒ほどの種もみをまいて成苗を育てる。
みのる産業という会社の技術を導入して、流用している。
ヤンマーやKubotaに比べるとマイナーな会社だが、オモシロい会社だ。
この技術は、有機農家、特に合鴨農法を取り入れている農家が多く使っているようだ。
大きな苗を育てるのは小さな苗よりも手間はかかるが、メリットもある。
田んぼでの草の生長との競争でのリードが大きくなる。(意味わかる?)
もちろん、規模のある農家ではこれを播種機でまき、機械植えする。

グリーンでは、みのる産業を知る前に、独自に288穴のセルトレーでの育苗を考案した。
手植え用苗作りの様々な試行錯誤の末にたどり着いたものだ。
直径1センチもない穴に種籾を1粒ずつまいていくのだ。
かなり、メンドウクサイ。
が、自閉症の子などはハマる作業だ。
彼らには規則正しく並んだ穴は魅力的に見えるのだろう、きっと。
ただ、たまに発芽させた種籾の根や芽を外しながらまく子がいるので要注意だ。
彼には、籾からヒョロリと伸びているものは、排除すべき異物に見えるのだろう。
「障害特性に応じた作業を提供し、障害特性を鑑みた注意を払う」
などという表現はしないで、現場を楽しみたい。
ただ、仲間たちの個性から発想した技術は、実は結果として良い苗を作る技術だった。
(詳しくは、田植えの巻で)

セルトレー以前は、師匠のMさんに教えてもらった陸苗代での育苗をしていた。
畑に種籾をまいて育てるのだが、水やりも手間だし、うまく育てるのが難しい。
また、田植えの際の苗取り作業がたいへんで、ボランティアさんのお世話になった。
セルトレー方式ではセルトレーを畑に並べて、田植えの際はそれをベリベリはがす。
そしてそのトレーごとの苗取りだ。
この先、田んぼで手植えする際もこの技術は生きてくる。
その話は、また、田植えの巻で、、、
セルトレー方式を導入したのをMさんに見てもらったら、
「いいことを考えたね。俺も小学生の体験用に真似してみるよ」と言われた。
嬉しかった。

苗を田んぼで植える際にも様々な方法、技術がある。
簡単に言うと、坪当たりの株の数、株当たりの苗の本数をどうするか、、、
これも、田植え編で紹介しよう。

種をまくと、その後の発芽、生長が、楽しみだ。
心配でもある。
ワクワク、ドキドキ、なのだ。

石田周一