第117回 泥と

2018.5.30
いしだのおじさんの田園都市生活

・いやぁ、ははは(ニンマリ)
なになに?
・ホント、田んぼやっていて良かったよ。(さらに、ニタニタ)
きもいー。不気味―。
・今日ね、子どもたちがね、田んぼに来てさ、(フニャフニャ)
ええ?
・お母さんたちとね。
ああ、あの保育の子たち?
・そう、青空、自主保育、の、野生児たち。
野菜を畑でかじる?
・そうそう!大事なお客さん。
うん。
・それでねぇ、、、

・母たちがね、「全部脱ぎなさい」って、言うんだよ。
ええーっ?
・でね、生まれたまんまの姿で、田んぼに、、、
キャーッ!
・最初はね、そろそろ歩いていたんだけど、、、
あははは、ははは!
・そのうちにもうバシャバシャ!
足だけじゃなく?
・うん、もう、全身。
泥だらけ?
・うん。泥だらけ!ぬったくったり、ね。
やー、っ、
・すげぇ、楽しそうだった。
見ていても楽しい?
・もう、俺もやりたいくらい!
ははは。
・正しい田園都市生活!圧倒的に正しい!物理的にも!思想的にも!

・肉体的にも!!!
全裸で田んぼに入るのが?正しい?
・ま、全裸は、ともかく、、、いや、つまり、自然な姿なんだよ。
なるほど、ねぇ、、、
・母たちも、裸足で田んぼを歩いて、「きもちいいー」って。
へぇー。
・週末には田植えだよ。
ちゃんと植わるの?
・そりゃあ、ちゃんと植えるよ。

・今日はね、子どもたちが泥と戯れている間、我が社の労働者たちは、ね。

・角材を引いて田面均し。
大変そうだねぇ。
・大変なんだけど、たぶん、でも、進んでやるんだよ、彼らは。
えーっ!?!
・ホントッ!
???
・俺も、進んでやっているよ。

・なんかね、足は泥の中で踏ん張り、手は角材に結んだロープを引っ張り、、、
(それが?なんですか?)
・なんかね、不思議なパワーが湧いてくるんだよ。
(理解できない)
・もう、それは、快感ですよ!
(変態だ、こいつ)
・土と、水と、人が溶け合う、解け合う!
(やれやれ)
・そうやって、田植えの準備が進んでいくんだよ。
ゴクロウサマ。
・楽しみだ。
さっきも聞いたけど、ちゃんと植わるの?
・さっきも言ったけど、そりゃあ、ちゃんと植えるよ。
遊びにならないか、心配。
・いや、子どもたちにも大事なことは伝える。
それならいいけど、、、
・そういう場として田植えがある。遊びじゃない。
でも、楽しむ、んでしょ?
・そうだよ。もちろん。
遊びじゃなく、ね。
・みんなが、頑張って、楽しんで、植われば、よし、でしょ!
ちゃんと植わらなくても?
・いや、そもそも、どこがちゃんとで、どこからがちゃんとでないか、???だぞ。
そーだけど、石ちゃん、昔からそんなに寛容だった?
・俺は、昔から寛容だよ。
そうかなぁ?
・違った、っけ?
なんか、「冥利が悪い」とかなんとか、、、
・ああ、あれ?よく覚えていたね。(めずらしいな)
段取りがどうのこうの、、、
・そう、俺の本の中に出てくるよね。(拙著、もうすぐ完売)
だったよね。
・仕事の一つ一つをきちんとやらないと、あとが苦しくなる。
うん。
・稲がちゃんと植わっていないと、草取りの田車が通りにくくなる。
稲刈りだってしにくくなるでしょ。
・やや、よく分かるね。
何回も聞いたからね。
・つまり、ちゃんと田植えをしないとあとあとに響いていく。
それを「冥利が悪い」と言う。
・「冥利」には、もっと深い意味がある。(よく読んでくれ!)

・いい加減な仕事は、稲に失礼。
うん?
・人間本位の考え方ではない。
???
・それに、自分だけでない仲間というか労働自体に対しても失礼。
はい?
・田植えというか、稲作というか、その文化に対しても失礼。

・つまり、自分本位でもない。村的な発想。思想と言ってもいい。
村、ですか?
・うん。ときに、「村社会」という言い方は批判的な響きだけど、ね。
自己犠牲的な、集団生活、、、
・うん、、、
石ちゃん、好きじゃないでしょ。集団行動。
・ちょっと、意味が違うよなぁ。
そう?
・地域を共に生きていくための、集団、というか関係性。

・個人は大事にしたうえでの村。

・シェア、だよ。
そこに結び付く?
・ま、ま、ね。
まぁ、ね。
・今日、俺に冥利という言葉を教えてくれたMさんに会ったよ。
どこで?
・田んぼ、でね。上谷本の。
ああ、話し好きのMさんね。
・そう、今日もⅯさんが代掻き中だったのに30分はしゃべったよ。
ははは。
・今日もオモシロイ話を聞かせてくれた。
どんな?
・普通の田植えでは、機械用の箱苗を1反に20枚近く使うんだけど、
へぇ。
・それを5枚以下にすることができる技術ができてきたらしい。
スゴイ!けど、それがどういいわけ?
・あの箱苗を並べたり運んだりって大変なんだよ。
枚数が減れば、ラクになる。
・そういうこと。
うん。
・でも、2割3割減らすとかとか半減なら分かるけど、4分の1以下だなんて、、、
オドロキ!
・桃ノ木!
山椒の木!
・楽に農業をしたい、って、そんな話。
まぁ、楽はいいよね。
・でもね、俺が20年前に『楽農宣言』って本を出したときはちょっと叱られた。
なんで?
・考え方が甘い、ってことだね。
でも、今ではご本人が「楽農」?
・ニュアンスが少し違うけど、ね。

・ま、20年が経ったってことだと思うよ。
ふうん。
・「おかえりなさい」って言ってもらえたよ。
そう。良かったね。。
・うん。嬉しかった、よ。

石田周一(住民票を横浜に戻した)