第111回 土の匂いの子

2017.11.29
いしだのおじさんの田園都市生活

・今日は、いーいことがあったんだ。(ニッコニコのホックホク)

ええー、なになにぃ?宝くじ、当たったとか?

・だはっ!買っていないし、、、

そうだよねー。買わないもんねぇ。買おうよ、年末ジャンボ。

・ま、買ってもいいけどぉ、、、って、そーゆー話じゃないよ。

何?いーいことって?

・ほら、(写真を見せて)子どもたちが畑に来てくれた。

ああ、芋ほり。そんなことがいいことなんだぁ、石ちゃん。純だねぇ。

・俺は、子どもたちのために畑をやっているんだよ。

そうなんだ?

・子どもたちにたくさん土に触れてほしい。泥んこになってほしい。

うん。それは、分かるけどね。

・今日来てくれた子たちはね、谷戸で共同保育をしている親子グループ。

共同保育?

・主に母子だけど、谷戸の広場に集まって保育しているんだよ。

へぇ~。おもしろそう!

・草履はいて、薄着で、鼻水垂らして、いいぞいいぞ、って感じだよ。

うん。う~ん???

・で、ちゅうちょなく土をかき分けて芋を掘ってくれた。

楽しそうだった?

・うん。さらに、ネギを引っこ抜いたり、ブロッコリーとったり。

へぇ~。盛り上がった?

・一人の子が猛然と泣きだして、ママを叩いてね。ネギのお金を自分で渡したかったって。

どういうこと?

・みんな、自分で抜いたネギを持って帰りたい、って言うから、代金をいただいた。

うん。即席のお店だ。

・まさに直売だよね。そうしたら、お母さんたちが子どもにお金を持たせたんだけど、、、

ああ、持たせなかったお母さんもいたんだ。

・いや、そのお母さんは、子どもがネギを折ったからって恐縮していたんだね。

そうなんだ。

・で、俺は「いいんだよ、失敗する権利があるんだよ、子どもには」って話して、ね。

折れてもネギは食べられるしね。

・でも、それも含めて支払うって言うから、受け取ったら、子どもが泣き出した。

可愛いね。

・可愛かったよー。「どんどん自己主張していいぞ、泣いていいぞ」って、声かけた。

変なおじさん。

・泣くのは子どもの仕事だからね。仕事の邪魔しちゃあいけない。

畑がニギヤカだったんだね。

・我が社の利用者たちも嬉しそうだったよ。ちゃんと声かけたり、ネギの抜き方を教えたり。

へぇ~、交流だ。怖がる子はいなかった?

・なんか自然な感じだったよ。通じるものがあるような。

よかったね。どうして、今日来たの?

・一昨日の「にいはる里山秋祭り」で一人のお母さんと会ったんだよ。

お客さん?

・そう。無農薬で新鮮な地元野菜がウレシイってたくさん買ってくれた。

いいお客さん。

・もちろん、買ってくれるのはありがたいけど、それ以上にね、、、

・子どもに野菜をたくさん食べさせたいっていう愛情が伝わってきて、ウレシかった。

子どもも幸せだね。

・そしたら、「いつも畑のそば通っています」って話になって。

近くなんだ。

・挨拶はしていたんだね。自転車で通りかかるから。自転車親子がよく通っているんだよ。

なるほど、、、

・もともと谷戸で共同保育をしているのは知っていて気にしていたんだけど、、、

けど?

・なかなか挨拶以上の話はできないでしょ。

変なおじさんだからね。

・でも、いつかは畑に来てもらいたいって思っていた。ずっと。

思いが通じたんだね。

・そう、また、その保育を指導しているおばさんは30年前からの知り合いで、、、

誰?

・鎌倉山崎の谷戸の青空保育の相川さん。『土の匂いの子』(コモンズ)という本がある。

つながってるんだね。

・そのお母さんに「相川さん、知ってるんだよ」って話したら、とんとんと話が進んでね。

へぇ~。

・たまたま今日が月イチで相川さんの来る日で、相川さんが母たちを連れて来た。

早い!

・立ち話で30年来の付き合いって話とか、谷戸の活動の課題の話も出て、、、

ふぅ~ん。

・もともと俺も相川さんも『待ちの子育て』(農山漁村文化協会)という本から始まっている。

何?

・ま、いわゆる泥んこ保育。俺、その本を読んで、静岡までその保育園に何度も行ったんだ。

へぇ~、現場に飛び込んだんだ。

・楽しかったよ。元気な子どもたちがとびかかってきてね。いっしょに田の草取りしたり。

若かったんだ。

・そう、そのころの足はオフロードバイク、ホンダXL250、キックスタート、ああ懐かしい。

いつの話?

・大学出て、公立の学校から私立の学校に勤めを変えたころ。田んぼを始める前、、、

なんだか、よく分かんない、けど、、、。まだ髪の毛もあったころだ。

・あそこで子どもたちと田の草取りをした体験も今につながっているんだなぁ、、、

本から始まるんだね。

・大塚さんと仲良くなれたのも本から始まっているし、、、

そうかぁ、、、

・今度は新治で子どもたちと田んぼができるかも。

うん。

・で、少しおしゃべりして、じゃ、それなら、って、もう、親子で収穫体験しよう!って。

フットワーク軽いね。

・そうだよ。今後も、ワクワクだね。

いやー。やっぱ、いいことだったんだね。

・そうだよー。宝くじ以上だよ!

つながる、って、いいねぇー。

・そう。しかも、現場でつながった。新治の谷戸で。

そーだねー。一回もSNSとか使っていない。

・ま、今後は使うけど、、、メール連絡とかね。

お祭りから始まったんだね。

・うん。今回、我が社はお祭り初参加で、交流センターで野菜を売るのも初めてだった。

石ちゃん、ずっと新治に関わっているのにね。

・そう、それも、髪の毛があったころにさかのぼるけど、、、聞く?

ええーっ、どーしよーかなー、、、

・20代の後半、新治の近くに住んでいて、毎朝、トレイルランをしていた。

ゴクロウサマ、です。トライアスロン?

・そう、健康のためなら死んでもいい。

バカ。

・と、いうか、田植えのあとに子どもたちとホタルを見に行っていた。

それはいいかも、、、

・いろいろ新治には思いがある。

30年越しの思いだね。

・ま、でもね、そのときどきの流れもあるし、地元の人のかかわりは俺の比じゃない。

そうかぁ、、、で、お祭りはどうだったの?

・うん。なんか、ほのぼのと牧歌的な楽しさだった。

へぇ~。良かったねー。イミフメイだけど、、、

・初めて新治を訪れた同僚がね、「なんか、トトロの世界みたいだね」って。

それが「牧歌的」ってこと?

・うん。表現としてはビミョーだけど、なんか何かに包まれている、というか、、、

ますますイミフメイだけど。

・新治には、森があって、田んぼや畑があって、川があって、、、

そろっているんだね。それはトトロっぽいかも、ね。

・そして人がいて、、、

うん。

・お祭りでは、米や野菜があって、パン、クッキー、ケーキがあって、谷戸鍋があって、、、

食べ物がそろっている。

・いや、サツマイモの鉄板焼きもあったけど、食べ物は足りなかったという意見もあったよ。

そう?

・焼きそばやフランクフルトとか焼き鳥とかクレープとか、、、

でも、それじゃあ街場のお祭りみたいじゃん。

・そうだね、やっぱ地産地消がいいよね。

うん。

・楽しかったのは、あの雰囲気のおかげだと思うから。そこは大事にしたいね。

部外者にはよくわからないフンイキかも?

・いや、別に「ウチワ」というわけでもないけど、新治が好きで集う人たちの雰囲気だね。

どんな人たち?

・森や田んぼや川のボランティアはやっぱリタイア世代が中心だけど、、、

だけど?

・この自主保育や他にもプレイパークの仲間たちとか、ちゃんと若手もいる。

それはいいねぇー。

・多世代が集えていることがいい雰囲気につながっていると思ったよ。

ふ~ぅん。楽しくて良かったね。で、売れたの?

・野菜をね、コンテナのまま、並べて売ったんだよ。前から、やりたかったんだ。

・里芋が3種類、それぞれ親と子を分けて、6個のコンテナ。

・広いスペースがあったから、ほかの野菜もあれこれ並べて見てもらえるようにした。

何種類?

・大根、キャベツ、ブロッコリー、ネギ、サツマイモ、冬瓜などなど。

それは、お客さんも楽しいかも、ね。

・うん。里芋が3種類あれば、それぞれどんな芋かと会話も進む。

3種類は?普通のやつと、京芋と?

・セレベス、赤目芋。

ああ、あのこの間の豚汁で溶けちゃったやつだ。

・そうそう。だから、普通の土垂はネットリ、京芋はホクホク、赤目はトロトロって表現した。

伝わったかなぁ?

・ま、京芋は知っている人が結構いたね。

へぇ~。みんなスゴイね。レベル高い。

・「俺も作っているけど」って言いながら買ってくれた人もいたよ。

作っているのに買う?

・そんなにたくさん作っているわけでもないんでしょ、きっと。

そうか。

・なんか、俺、思ったけど、菜園をやっている人は野菜をたくさん買うんじゃないかって、、、

ああ、石ちゃんもよく買ってくるもんね。

・菜園をやると野菜をたくさん食べるようになる。

そうだね。

・で、自分のところで足りないと、お気に入りの直売所で買う。

うん。

・さらに、ほかでも直売所があるとついついのぞいて、自分が作っていないものを買う。

買って食べてみて、気に入ったら自分で作ろうかと考える。

・そうそう、だから作っているのに、またどんどん買って、どんどん食べる。

そんなもんかなぁ。

・ははは。

石ちゃん、いい秋だね。

・うん。明日の休みは都内で過ごすよ。

 

石田周一

いしだのおじさんの田園都市生活