第103回 なぜ、耕すのか? その1

2017.3.31
いしだのおじさんの田園都市生活

もう4月だね。新年度。

・焦るぜ。

なんか、この前も言っていたよね。しかも、焦っていないし。

・やっとジャガイモを植え付けたんだよ。

遅い?

・2月の初めからホームセンターに種芋が並んでいたからね。

へぇ。じゃあ、2月に植え終わっている人もいるんだ。

・そうだね。きっと。まだ発芽は見ていないけどね。

どこの話?

・よその人さまの畑。

え?

・あちこちの畑を気にして見ているんだよ。通りがかりに。

そうなんだ。それで、出遅れて差がつくと気になるんだ?

・まぁ、そうでもないけど、、、

そう言って、実は気にしているんでしょ、デオクレデオクレ。

・実はスガシカオの「プログレス」が頭に鳴り響く、なんてね。

ははは。で? 早い方がいい、ってことあるわけ?

・早く食べたい。

それはわかるけど、、、

・でも、早すぎて遅霜にあたると被害もある。

へぇ。

・物事には、野菜には、適期というものがある。適地というものもある。

気候や土が大事なんだろうとは思うけど、、、

・しかし、よその畑で葉が茂っているのに、まだ芽が出たばかりとかは気になるよね。

そうだね。となりの芝生、ですね。

・「春まき急ぐな、秋まき遅れるな」とも言うよ。

へぇ、なんでぇ?

・例えば、野菜の生長に気温15度の日が15日必要だとするじゃん。

そうなんだ?

・いや、それも野菜によってチガウけどね。例え話で、、、

・そうだとすると、春から夏は心配ないけど、秋から冬は、ね。

そうか、そうか。

・でも、また、気温30度だと病気や虫にやられるとしたら?

・暑くなる前に大きくなって体力があったほうが、やられにくいでしょ。

なるほど。いろいろあるんだね。

・枝豆もまいたんだけど、枝豆なんか、暑くなり始めのころに高値で売れるからね。

それに合わせて作るんだ?

・それほどの技術も欲もないけど、ちょっとは考えるよ。

楽しみだね?

・初夏の枝豆はホントの枝豆じゃない、って

その話は何度も聞いている。

・そう、枝豆は大豆の早取りだけどね、大豆は6月末から7月にまくんだ。

7月はもう枝豆を食べたい!

・7月まきの大豆の枝豆を食べるのは9月末ごろ。中秋の名月は豆名月ともいう。

へぇ。でも、言葉も変わるし、枝豆の旬も変わるかもね。

・ていうか、もう変わってしまったんだよね。品種改良でね。

暑くなってきたら、やっぱビールに枝豆!

・そう思うよね。

ビール好きのセリフを言ってあげただけだけど、、、

・ありがと。でも、それって人間も品種改良されているんじゃないか?

まぁまぁ、、、

・だから、意地になって「ホントの枝豆」とかなんとか言っている。

年寄りによくあるパターン。

・そう、品種改良されていない。このあいだは、タイヤを燃やした話をした。

何?それ?ダメでしょ。

・いや、俺じゃないし、今の話じゃないけど。

ああ、年寄りの昔話。

・お茶畑とかに防霜ファンがなかったころ、遅霜を防ぐためにやっていたんだって。

へぇ、想像すると怖いね。

・でも、生産者にとっては死活問題だよ。遅霜で新芽がやられたら大打撃。

それはわかるけど、、、

・たぶん、必死でタイヤを燃やしていたころは、今ほど環境意識も無くて、、、

うん。

・ダイオキシンなんて言葉もまだあまり世間に出回っていなくて、、、

とにかく茶畑を守りたくて、ですか?

・今ではサーモスタットで防霜ファンが回る。

テクノロジーよ、ありがとう、ん?

・でも、そうなると茶畑への愛情が薄れる、かも?

・必死に茶畑を守る必要がなくなる。

???

・聞いてんの?

またまた、分からないことを言い出すから、、、

・問題の核心を語っているつもりなんだけど、、、

テクノロジーがあった方が、畑は守られるんでしょ。

・そうだね。

じゃあ、それでいいでしょ。テクノロジーに頼ると愛情が薄れる?

・そうだね。

でも、畑を守りたいわけでしょ?

・そうだね。

だったら、ベストな結果が出る方法がイチバンでしょ?それが愛情でしょ?

・そうだね。

必死にやっても失敗するかもしれない方法よりも、安心のテクノロジーでしょ?

・そうだね。

それでも、昔のほうが良かった、って、もう、年寄りのタワゴトだよね。

・そうだね。

そうだね、しか言ってないじゃん!

・そうだね。

怒るよ!いくらおとなしい私でも!

・さて、俺は「そうだね」を何回言ったでしょう?

オイオイ、、、

・?

・まぁ、ね、おっしゃる通り、なんですよ。

でしょ?

・畑で物を作る、ということが、結果、それを売って稼ぐことなら、ね、、、

そうでしょ?

・うん。うーん。

ま、石ちゃんは、ホントの農業じゃないからね。

・いや、農業にもいろいろあるから、、、

いろいろねぇ、、、都合のいい言い方。

・結果が良ければ、それは、もちろんいいことだよ。

でしょ?

・でも、努力した結果と、テクノ頼みの結果では?

結果は、結果でしょ。

・そうだけど、、、そうだな、でも、結果よりも過程に意味があるんだよ。

それは、半分、趣味の世界なんじゃないですか?

・「趣味」ねぇ、、、

情緒的というか、お楽しみ、というか、、、

・うん。まぁ、楽しくやりたいとはいつも思っているけど、、、

そんなこと言っていられない農家さんも多いでしょ?

・そうだね。

そうでしょ?あ、また、言ったな、そうだね、って。

・でもね、楽しいと言えるように努力することも大事だよ。

だから!ちゃんと稼げることが「楽しい」なんでしょ?

・それは、あまりに現実的というか、、、

話自体がかみあっていないかも?

・そうだね。

、、、

・なぜ、我々は耕すのか?という問題はとても大事なんだ。

今度は、哲学ですか?

・そんな立派じゃない。けれど、本質的な問題。

稼ぐため、って、言っちゃうと、話は終わっちゃう?

・いや、稼ぐことを排除しちゃいけない。

バランスですか?

・そう!だね。耕すこと自体が楽しいということと稼ぎのバランスかな、、、

話は続きそうですね。

・うん。続けられるといいなぁ。

いつか、どこかで、ね。

・はい。サトイモも植えなきゃならないから、まずは、畑に行きます。

春ですね。

 

(石田周一)