第101回 森に入る

2017.1.31
いしだのおじさんの田園都市生活

 

今日の昼間は妙にあったかかったねぇ。

・生ぬるい風が吹いていた。先週の月曜と大違い。

先週はどうだったっけ?

・先週の月曜は氷点下。朝6時半の車の温度計は-3℃。8時になっても上がらず。

よく覚えているね。

・毎週月曜の午前に収穫納品があるんだよ。

そうなんだ。

・先週は野菜が凍っていて、苦労したから、覚えている。

へぇ。

・ネギを抜いたら、凍った土がいっしょに引っこ抜けた。

へぇえー。大丈夫なの?

・今日も土の中のほうは凍っていたよ。4月上旬並みとか言っていたけど、、、

そうなんだぁ、、、

・本当は前日に天気を確認して、夕方に収穫すべきなんだけど、、、

日曜日だからしょうがないよね。

・本当の百姓は曜日じゃなくて天候で休みを取るんだと思うけど、、、

そうは言ってもね、、、

・今は「働き方改革」の時代だからね。

いきなりそういう話ですか?

・気になるんだよね。我が社も人材不足だから、、、

「人材不足」って、言い方がちょっと上から目線に聞こえる。

・ううん。そうかも。応募者不足?来てくれない?

悲しいね。

・楽しい仕事なんだけどね。

オジサンが楽しんでいるから、若者に不評なんでしょ。

・ま、そうだな。だから、少しでも条件を良くしたいんじゃん。

そうだよ。給料安過ぎでしょ。

・そこか。そうだけど、そこを変える力は我々にはあまりないんだよね。

世の中を変えなきゃならない。

・まずは、職場の上のほうの意識をなんとか、とは思っている。

あんまり逆らうとよくないんじゃない?

・ま、ほどほどにしておくけど、最近のニュースでも気になった。

どんなこと?

・ドイツでは有給100%消化が法律になっている、とかなんとか。

ホントかなぁ?

・ま、ニュースの事例は自動車会社のサラリーマンだったけど、、、

百姓はどうなの?百姓は?

・そうだよなぁ。ドイツは職人、マイスターの国だからね。

個人商店や職人とかはどうなんだろうね。

・今度、調べてみるか?けど、そういう話をしているわけでもない。

そっか。

・我が社も有給100%にすればいい。

ありえない!

・プレミアムフライデーも、ありえない!

ありえない!

・ありえないんだけど、それくらいの高い志を持ちたい。

働かないことが、高い志なんですか?

・いや、、、も、もちろん、そういうことでもないけど、、、

ははは。

・ま、今日も楽しくお仕事しましたよ。

収穫して、納品して、、、

・そうだね。ずいぶんと畑は淋しくなってきているけど、、、

もう野菜が無い?

・そうだねぇ。

あるのは?

・ネギと大根とブロッコリーとキャベツと白菜が少々。あと、芋のストック、、、

けっこう、あるじゃん。

・うん、でも、緑が無くなってきて土がたくさん見えている。

でも、また春が来れば、、、

・そうだね。それに、麦は青々としているよ。

そうそう、この間のパン、美味しかった!

・試作品だけどね。美味かったね。なんというか、麦の甘さを感じたね。

ふだん、あんまりパン食べないくせに、、、

・そう。だから、俺の感想はあんまりあてにならないよ、って言っておいて、、、

で?

・ちょうど小麦の専門家に会ったので食べてもらった。

ああ、あの人?、、、会った、って、呑んだんでしょ。

・そう、農水省のYさん。勉強会だよ、勉強会。

アレは偶然ですか?呑み会とパンの試作?

・ははは。偶然か?必然か?ははは。愚問はやめたまえ。

何を言っているんだか、、、

・でも、Yさんにも認めてもらえた。

それは、良かった!

・でも、俺は麦より米!

ムリに張り合わなくてもいいでしょ。

・そうだけど、、、

国産小麦がどんどん出てきて良かったんでしょ。

・そうだけど、、、逆に言えば、今までずっと麦は外国産が常識だった。

今でも、基本、そうでしょ。

・ま、ね。米がそうならないことを願っているよ。

「この米、国産だよ。珍しいね」とか、、、

・やだやだ。そんなの。

やだね。でも、我が家のパンやパスタも国産は珍しい。

・でも、来年は国産というか我が社産をたくさん食べられる。

それは、素直に楽しみですねぇ。

・作る我々も、楽しく作るよ。

どうぞ、どうぞ。楽しんでください。

・今日はね、午前は収穫と出荷に追われていたけど、午後はまた違う作業をした。

へぇ。

・森の中に入っていってね、落ち葉かきだよ。

へぇ。

・谷っ戸ん田でヒデといっしょに落ち葉かきしたのを思い出したよ。

そんなこともあったねぇ。

・今ごろヤツは都心でコンクリートに囲まれているんだなぁ、なんて思いながら、、、

石ちゃんは森の中で、、、

・ヒデから見たら遊んでいるように見えるかもね、なんて考えたり、、、

谷っ戸ん田で遊んだのと同じことしているんだもんね。

・そう。でも、これが大事なことだって、いつかは分かるはず。

だといいね。

・うん。畑の奥に入っていくと森があるということはウレシイよ。

・我が社の新人くんがね、活躍してくれて、森からの許可が出た。

森さん?

・ははは。森さんっていう人がいるわけじゃないけど、そういうことにしておこう。

・とにかく、森に入って落ち葉を集めた。た~くさん。

新人くんのおかげ?

・そう。おかげ。もともと森の活動に参加している。

いい人材が来てくれたってこと?

・そうだよなぁ。NORAのおかげです。

良かったね。本人も楽しんでやってる?

・うん。そのはずだよ。

それは良かった。で、お給料は?

・いや、そこは、聞かないでほしい。

ダメじゃん。お休みは?

・そこも、聞かないでほしいのであります。

ダメダメじゃん。なんとかしなきゃ。

・そうだよなぁ。

ナントカシナサイ!

・はい。

、、、でも、まずは、今日が楽しかったら、まずは、、、ですね。

・森さんの仕事は次の計画もあるよ。

へぇ。

・次は薪だよ。

なんか、前から言っていたよね。

・落ち葉で堆肥を作って、麦を育てて、そうしたら薪で、、、

パンを焼く!

・そういうことっ!

いけそう?

・まだ、なんとも、、、でも、やってみんべー、だよ。

森と畑とつながるといいね。

・そう、循環、だよ。森は海の恋人。

・有名だよ。知らない?気仙沼。

今は海は関係ないでしょ。

・そうだけどね。人生は恋と革命。だし、、、なんて言おうか?

ううん。浮かんでこない。森はパンの恋人?

・もうちょっとセンスのあるぱくりをしたいね。

森の恵みでパンを焼く循環?

・うん。気のきいたセリフ、考えよう。

ガンバレ!

・そして、パンを食べるお客さんに森に来てもらう。

・そんなことを妄想しているんだよ。

妄想ですか?、、、美味しいパンをよろしく!

 

(石田周一)