第99回 やってみんべー
2016.11.30いしだのおじさんの田園都市生活
雪が降ったね。
・つい先週のことだけど、忘れていたよ。
すぐ消えたからね。
・降っただけじゃなくて、積もったね。
11月の初雪は54年ぶりだって。
・11月の積雪は観測史上初だって。「50年に一度」とも言えなくなった、ね。
ね。
・子どもの頃は雪が好きだったなぁ、って、同僚と話していた。
ふうん。
・小学生のお子さんがルンルン!だって。田植えでどろんこになった子だよ。
それは良かった。
・「昭和の小学生は雪でも半ズボンだったよ」って、話をした。
石ちゃん?
・腿を真っ赤にして雪だるま作っていたよ、俺。
ははは。
・ああ、懐かしい!田園都市生活!
転んだ人や、車のスリップとかニュースで見たけど、何か困ったことあった?
・転ばなかったし、スリップもしなかった。
畑のこと、聞いてるんだけど、、、
・ははは。畑も目に見えてすぐに困ったことは無いけど、、、雪化粧はキレイだった。
それは良かった。
・いや、良くはないな。この時季の雪は。いや、雪そのものが基本的には畑には良くない。
畑に入れなくなるもんね。積もったら、、、
・そうだよ。でも、今回はすぐに消えてくれたから、まぁ。
入れたか?
・ちょっとぬかったけどね。寒さが苦手な作物は多いんだよ。
例えば?
・いや、葉物類は寒くなると美味しくなる。
甘くなるよね。
・そう、身を守るために糖分を作るんだ。
賢いんだね。
・いや、まぁ、ホンノーでしょ、ホンノー。
そうか?
・でも、大根とかでもあんまり寒いと傷むし、サトイモなんかもね。
ふうん。
・サトイモ、ジャガイモは茎の部分が寒さで死んでいたよ。
そうなんだ?
・収穫適期ってことだね。
雪が降らなければ、もう少し生長した?
・そうかもしれないね。
急いで収穫するの?
・うん。サトイモは寒さで傷む、ジャガイモはそれほどでもないから後回しかな。
そうなんだ。
・サツマイモもやっと先々週掘り終えたばかりだよ。
やることが遅いんじゃないですか?
・小麦の種まきとかやっていたからね。忙しいんだよ。雪降る前にやっつけて良かった。
へぇ。
・その前は出稼ぎもあったし、、、(草刈り=効率いい稼ぎ仕事)
そうだったねぇ。
・人手も時間も足りないんだよ。小麦の種まきのバタバタも面白かったけど、、、
?
・大勢でわさわさ肥料をまいて、トラクターは俺がやったんだけど、、、
へぇ。
・斜面でこけそうになったりしてね。
やだ。危ない。
・トラクターもいいヤツだと簡単にはこけないような機能があるけど、、、
石ちゃんのところはいいヤツじゃない。
・安く買った中古だよ。ま、とにかく耕耘をして、種まきの溝もトラクターでつけて、、、
? 聞いていてもいまいちわからない。
・ま。それで、種まきは歩行型のローラー播種機。
それも、なんだかよくわからないけど、、、
・ま、グランドに白線を引くやつを想像してくれたらいいかも、、、
簡単に種がまけるんだ。
・ま、手でイチイチまくよりは楽だし早いよね。
なるほど。
・でも、Aくんが3往復ぐらいでリタイヤして、ジロジロファイブの出番になった。
あはは。マッチョなJさん?
・Aくんも頑張ったんだけどね。溝を避けて足を広げて歩いくのもキビシイんだよ。
そうか。でも、ジロジロファイブなら大丈夫?
・いやぁ、奴の存在は大きいよ。人間離れしている。
それで、種まきが終わった?
・なんとかね、もう今は芽が出そろったよ。
いいねぇ!
・やっぱり、芽が出るっていいもんだよ。希望を感じる。
そうなんだ。
・でも、人手が足りない。
足りないのに小麦プロジェクトですか?
・まぁ、アップアップしながらやるのも楽しいんだよ。自転車操業。
オツカレサマ。いい歳なのに、、、
・そうだよね。小麦、3反は無茶かもね。
どうすんの?
・誰かに助けてもらう。
誰?
・これから考える。
はぁ?
・先週は実習の某K学園高校の子たちに大豆こぎと芋用のアナッポリをしてもらった。
それで、なんとか間に合ったなんて、テキトーすぎる。
・でも、そうやって回っているんだよ。
なんか、心配ですね。天候にも左右されるし。
・そうかもね。でも、案ずるより、、、という方針だよ。
やってみれば、何とかなる?
・そう、やってみんべー、だよ。やってんべー学園。
何?それ?
・こころみ学園は、もともとは「やってんべー学園」だったんだって。
は?
・こころみ、って、なんかキリスト教っぽいよね。食堂に最後の晩餐のレプリカがあった。
話、それた。
・先々週が収穫祭だった。ずいぶん行っていないなぁ、、、
行きたいね。行ってみんべー。
・うん。俺の人生に多大な影響を与えたんだからね。やってみんべーの精神は大事。
(拙著『耕して育つ』の「物語との出会い」)
そう?かなぁ、、、?
・「やってみんべー」の逆は何だか分かる?
えー?やらないでみんべー?
・そんなのないよ、、、「転ばぬ先の杖」、だよ。
そうか?でも、それも大事でしょ。
・何かをするのに慎重に進めることや、保険をかけておくことも大事だけどね。
チャレンジ精神を無くしちゃいけないかもね。
・無謀なチャレンジで周囲に迷惑をかけるのもマズイよな。
小麦プロジェクトは?そうなるかも、じゃん。
・まあね。迷惑をかけることが結果的にいいことになる場合もある。
迷惑を恐れていては何もチャレンジできない。(ドラマ「男たちの旅路、車輪の一歩」)
・まぁ、迷惑をかけながらも、助けてもらいながらも、成果があれば、、、ね。
今現在でも人手が足りないんでしょ。
・仕事があって、人手が足りないことは悪いことじゃない。
人を増やせばいいんだもんね。増やせるの?
・そこが問題だ。俺らのギョーカイは人気がない。
困ったね。
・困ることから前進することもある。
前向き、ですね。
・ヤケクソ、とも言う。
ははは。
・ともかく、小麦が発芽して、まけば芽が出るのはアタリマエだけど、今は前向きだよ。
パン用の小麦、って言っていたよね。
・そう、県の推奨品種、ゆめかおり。
パンは?誰が焼くの?
・法人内にパン屋が数軒ある。国産小麦で焼いていてそれなりに人気がある。
そうだったね。美味しいよね。
・ま、俺は、パンより米、田んぼをね、ホントは何とかしたいんだけど、、、
人手が足りないとか言いながら、田んぼも増やしたいんでしょ。
・そうだね。小麦をやることで田んぼにもプラスになるようにしたい。
二兎を追うものナントヤラなんじゃないですか?
・うーむ。それを言われるとねぇ、、、
ねぇ。
・先日の勉強会では、林地の整備のためにも薪でパンを焼くのがいいと聞いてきた。
前から、そんなこと言ってたよね。
・谷っ戸ん田ではバームクーヘンやピザをやったよね。
餅つきも薪でやっていた。
・味噌づくりも。新治には大釜があるから、うん、ま、去年の味噌はガスでやったけど、、、
ガスがあれば薪は使わないかも。
・でも、火を見るのは楽しいし、、、利用者さんに山に入って薪を運んでほしい。
ふうん。
・いいトレーニングになる。それこそこころみ学園で学んだことだ。
そうなんだ。
・麦畑は施設のすぐ横だから、みんなが見る。
見られる。
・見られることを大事にしたい。
すぐに行けるっていうのもいいよね。
・そう。車で移動しなくてもいいのは理想的だよ。
よかったね。
・それに富士山が見える。
それはそれは。
・ステキでしょ。
ステキな田園都市生活。
・そう。
自画自賛。
・ははは。
(石田周一)