第98回 稲が米になる

2016.10.31
いしだのおじさんの田園都市生活

・「なぜだらう稲が米になる淋しさは」という句を詠んだことがある。

あららら。文学青年気取り?

・まぁね。ときには気取らせてくれよ。

気取っても、たいしたことないけどね。新米は美味しい。嬉しい。

・そうなんだけど、、、でも、なんか淋しい。

なんででしょうか?

・いろいろ、、、

いろいろ?

・だから、「なんでだらう」と、いろいろについては想像に任せているわけで、、、

よく分かんない、というか、説明不足じゃないですか?

・文学に向かって、説明不足とは、、、

ははは。お米がおいしければそれでいい。

・俺が持って帰ってくれば、家計も助かるし、、、

その言い方は文学的じゃない。

・ははは。

、、、

・じゃあ、もう、文学は止めて実務的な話で、、、

・我々のお米は1㎏600円で売ることにした。

それって?高いの?

・この間、茨木の障害者施設でもらってきたお米は1㎏300円だった。

じゃあ倍じゃん。

・うん。でも、福祉施設だからと安売りはしたくない。

その気持ちはわからんでもないけど、、、

・家がいつも買っているのは?

あれは、2,000円くらい。

・それって、5㎏でしょ。

そうかそうか。1㎏がいくらなんて意識したことがないなぁ、、、

・かなり、オオザッパですねぇ。

ははは。

・青葉区のH農園のお米は700円、福島のA農園は900円。

へぇ。

・どちらも無農薬有機栽培天日干し。

いろいろですね。そんなに味が違うのかなぁ

・魚沼産有機栽培では1㎏1500円以上もあるねぇ。

いやはや、、、

・逆にアメリカなどの超大規模栽培では超コスト削減で100円以下でもペイできるらしい。

TPP、怖いですね。

・そうだよ、外食なんかで知らないうちに外国のコメを食ってしまうかもしれない。

そのうち、国産米が「珍しい」とか言われちゃうかもね。

やだやだ。

・そこでだ。我が社のお米はメダカが泳ぎ蛍が飛ぶ谷戸で栽培している。

それはステキだけど、、、それがお米の質と関係するのかなぁ?

・少し文学的かもね。

文学で値段が決まっても困るけど、、、

・無農薬でほぼ無化学肥料。

それは安心かもしれないけど、、、ほぼ、ってなんですか?

・育苗には買ってきた土を使っちゃったんで、、、少し化学肥料が入っている。

少しならいいわけ?

・田んぼには、、、

・えっと。そういえば田んぼにもケイ酸をまいたんだった。あれは化学肥料なのかなぁ?

よく、分かっていないんじゃない。

・ま、無農薬であることはマチガイない。

それは、まぁ、良かった。

・草取り、頑張った。

ゴクロウサマ。

・農薬を使うかどうかは、ま、基本は除草剤のことだよ。

そうなんだ。

・田植えのあとに一回だけ除草剤を使えば、すんごく手間が省けて楽になる。

へぇ。

・ほぼ草取りをしなくてもすむ。

それって、大きいね。

・大きいよ。

逆に何かデメリット、ってあるんですか?

・それは、、、

・環境に良くない。

曖昧ですね。

・そうだね。うん。そうだ、草取りをすることができなくなる、って、どう?

それ、デメリットって言わないでしょ、普通は、、、

・でも、草取りも場合によっては楽しいよ。

大勢でワイワイやるとか、達成感を味わうとか、でしょ。

・俺は、水と土と人が解け合う、なんて言っているんだけどね。

そして、どうせ、プシュッ、とかでしょ。

・そうそう、よく分かってるじゃん。

まぁ、ごく一部のモノズキだけだよね。

・そんなことないよー。田んぼが好きな人はたくさんいるよ。

田んぼが好きはわかるけど、草取りが好きも少し分かるけど、、、

・分かればいい、分かれば、、、

でも、ちょっとなら楽しめるかもしれないけど、、、ウントコサあったらツライでしょ。

・そうだね。過ぎたるは、、、だよね。

楽しいと思えるラインも人によってチガウしね。

・そうこうしているうちに、田んぼの季節は終わってしまった。

稲が米になってしまった。

・そうだよ。

美味しい。

・美味しいのはいいけど、、、

まだ、なんかある?

・玄米を持ってきたじゃん。

うん。

・玄米から糠を取り除いたら白米じゃん。

うん。

・じゃあ、玄米は何から何を取り除いたもの?

穂?

・いや、稲を穂から外したら何になる?

あれは、、、なんだ?

・籾、だよ。

モミガラ?

・いや、モミガラは籾をすって玄米を取り出したガラじゃん。

ああ、そうか!白米の前が玄米でその前が籾か。そのまた前が穂か。

・穂が出ることを出穂(でほ)って書いてシュッスイと読む。

ふうん。

・で、出穂すると花が咲く。

そうか前に見たね。

・そのころまでに稲は株別れ(分げつ)しながら育ってくる。

うん。

・苗が株になって花を咲かせる。

稲も苦労しているよね。

・苗は種から種籾から始まっている。

成長につれて名前が変わっている。出世魚みたいだね。

・そうかもね。ま、籾ってどういうものかなんて、実際に関わるまでは考えなかった。

みんな、知らないでしょ。

・今は米を味わいながら、稲が育ってきた日々を思い出せる。

それは贅沢かもしれないね。

・利用者さんたちの頑張りや成長も思い出す。

よかったね。

・うん。ところで、脱穀や籾摺りには、それぞれに機械があるんだよ。

精米機なら家にもある。

・あれは、何合っていう単位じゃん。3合くらいに数分かかるよね。

そうだっけ。

・我々は農協のコイン精米機を使っている。10㎏が2分くらいかな。

へぇ。

・そして、籾摺り機も脱穀機も貰い物なんだ。

それはよかった。有り難い。

・感謝しながら使うよ。

そうだね。

・でも、1年に一度しか使わないからしまっておくのも大変だよ。

そうだね。倉庫が必要ですね。

・そういう機械も一年に一度しか使われないから、またしまわれちゃって淋しいよね。

機械の気持ちまで考えるんだ。なんだかなぁ。

・今、田んぼは切り株からひこばえが伸びて、まだ緑がある。

ふうん。

・でも、霜が何度か降りたら、緑が無くなってしまう。

淋しいね、確かに、、、

・淋しいよ。考えただけで淋しい。秋って、やっぱり淋しい。

秋と冬にも何か楽しいことを考えたらいいんじゃない。

・そうだね。考えるよ。そうそうパン用の小麦の栽培なんて話も出ているよ。

いいじゃん。

・うん。淋しいなんて言っていないで、楽しまなきゃね。

 

(石田周一)