第91回 耕す春

2016.3.31
いしだのおじさんの田園都市生活

いろいろあった3月でした。

・余裕がない、よね。

やっと、暖かくなってきた。

・暖冬だったはずだけど、、、

えー、全然「ダン」じゃなかったよ。寒いよ。

・でも、もう春、そこに見えてきている。

桜?

・俺、コブシが好き。モクレンだったかも。

コブシとモクレンの違いは?

・椿と山茶花の違いもあるよね。すぐわからなくなる。どっちがどっちだぁ、、、

桜もずいぶん咲いてきた。

・俺の通勤途中には河津桜の大きいのが2本あって、もうずいぶん前に満開だった。

ふん。

・今日、10日ほど前にまいた南瓜が発芽していた。

へぇ。良かったね。

・うれしいもんだよ。種をまいて芽が出るというのは。

うん。

・いっしょにまいた利用者Aくんも笑顔だった。ちょっとひきつった笑顔だけどね。

どうして?

・いろんな生きづらさを抱えているんだよ。静かに小さく微笑んでくれれば、それでいい。

うん。

・そして、南瓜がしっかり育っていってくれれば、また、笑顔になれる。

頑張らなきゃ。

・そう。去年の南瓜はあまりよくなかった。(同類の)ズッキーニは良かったんだけど。

そのへん、ちゃんと要因を分析しているの?

・記録をつけてPDCAしているよ。

そう?

・やっとチームワークになってきたんで、カイゼンカイゼンだよ。

じゃ、期待していいのかな?

・この間、初めて土壌分析、してみたんだよ。

ドジョウ?

・柳川鍋じゃないよ。

わかっています。それくらい。

・じゃあ、土壌って何よ?

それは、、、ニョロニョロ、、、

・ははは。でもね、俺も実はよくわかってはいない、というか、ぜんぜんニョロニョロ。

、、、

・NPKとか言ってね、窒素、リン酸、カリ、って植物を育てる肥料の要素、、、

大事なことじゃない、ですか。

・そうなんだ。でも、人はときとして大事なことをあえて知ろうとしない。

そんなもんですか?

・それは、ともかく、今回はpHを分析した。そーしたら、見事に酸性で、、、

酸性だといけないんですか?

・酸性には賛成できない。

たはっ。

・ま、弱酸性でpHが6とかならいいらしい、けど、4.5とか出ちゃって、、、

あらら、たいへん。

・去年のキャベツとかが途中で生長止まって赤くなっちゃたのは、酸のせいだった。

今ごろ分かった?

・うん。化学は苦手。科学的なことも苦手。

、、、

・と、いうか、今まで20年以上耕してきてキットで分析なんて初めて、実は、、、

なんか、、、ため息出ますね。そんなんでいいんですか?

・堆肥をたっぷり入れていればそれでいいと思っていたし、実際、それでできていた。

はぁ、、、

・今回、苦土石灰をけっこう撒いた。これも初めてのこと。

効き目、あった?

・まぁ、pHは確実に上がったね、直後はね。とりあえず。

また、時間がたてば戻ったりする?

・かもね。今後の野菜の生長を見ながら分析も続けるよ。

分析は大変?

・いや、簡単。キットも数千円。

案ずるよりなんとか?

・いや、案じていなかったんだよ、大事な土壌のことを、、、

同情の余地なし、ですね。

・たはっ。

「南瓜の種をまきました」って、歌があったね。そういえば、、、

・うん。なんかの始まりって感じだよね。

もうすぐ入学式だし、、、

・俺も新年度。いろいろ新しいことを始める、ことになった。

エライね。いい歳なのに、、、

・うん。えらいこっちゃだよ。ダイジョウブかなぁ。

心配なんですか?

・そりゃあ、そうだよ。心配だし、メンドウクサイ。

やるからには胸を張ってやったら。

・そうだよな。テンション上げていかなきゃイカンよね。いい歳だけど、、、

ワクワクする!ってくらいの気持ちでやんなきゃ。

・ワクワクを自分で作らなきゃね。

4月はいろいろスタートするけど、意気揚々の人もいれば、意気消沈もあるよね。

・希望の学校や就職先に行ける人はいいけれど、そうでない人もいる。

うちの子たちはどうだろう?

・なんか楽しそうだからいいんじゃないですか?

入ったところ、というか、入れたところが希望のところ。

・実際に行ってみなきゃわからないしね。

行ってみて、順応するというか、自分でよくしていければいい。

・社会に出る人や会社に入る人、組織の中で異動する人もいろいろだよね。

同じ場所にいる人でも、周囲の環境が変わる人もいる。

・最近の若いもんは、、、いや、こんな言い方イカンな。

あー、やだ、おっさん、加齢臭。

・でも、うちの子たちも異文化に飛び込んでいくのは苦手だよね。

そんなもん、誰だって苦手じゃん。

・そうか、そうだな。

でしょ。

・俺は、福祉の世界に初めて接したときカルチャーショックだった。

それは、そうだろうねぇ。

・お坊っちゃんだったから、、、

それは、どうか、よくわからない。というか、気持ち悪いボッチャン。

・失礼な。

社会的には障害者が異質だけど、その集団に飛び込んだ石ちゃんこそが異質だった。

・そうだったかも。俺は迷える青年だった。けど、現場で頑張っている人たちは、、、

迷いがなかった。

・そういうことになるかなぁ、、、いや、迷っている暇などなかったのかも、、、

今でも石ちゃんは迷いがあるんでしょ、なんにしても。

・う~ん。そうだなぁ、、、オッサン、50半ばで迷いありだな。

迷いながら新しいチャレンジの春だ。

・俺のことはともかく、新しい職員が仕事に多様性を加えてくれることを期待しているよ。

うん。

・たぶん、時代が違うから俺のときほどじゃないだろうけど、彼らも異質だよ。

本人にとっては、カルチャーショック。

・そこで化学反応が起きて、多様で豊かな場ができていく。

と、いいけれど、、、

・それが「耕す」ということだよ。耕す春だよ。

 

石田周一

 

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