第90回 それでも種をまく

2016.3.1
いしだのおじさんの田園都市生活

 

昨日はずいぶん呑んでいたね。

・メンボクない。でも、楽しいお酒だったよね。中学時代のバンド仲間。

みなさんも喜んでくれた?

・うん。美味しい料理、ありがとう。

最後に開けたお酒、福島のお酒だったね。

・先週のイベントで買ってきたんだよ。友人が作っているお酒だよ。

ペロリと呑んじゃったね。

・うん。労力と時間をかけてつくられたお酒も、呑むのはアッという間。

申し訳ないじゃない。先週は福島のことで少し真面目だったのにね。

・今週はノンダクレて?

そう。落差ある、よねぇ。

・うう。来週はまた福島有機農業ネットワークのイベントだよ。

呑み会?

・いや、そういう言い方はないでしょ。

じゃ、呑まずに帰って来る?

・いや、いや、いやぁ、、、

ほどほどにしてください、ねぇ。

・あのね、その友人はね、もともと東京の人間。20年前に福島で就農して頑張っている。

話題を変えたつもり?

・バブルのころ、父親に反対されながら脱サラして就農した。

なんで反対?

・いわゆる「いい会社」に勤めていた。普通に。

なのに脱サラ?

・うちの子だったら?

やっぱり反対かなぁ?なぜ脱サラ?

・東南アジアで仕事をしながらいろいろ疑問を感じた。経済格差とか、、、

そうかぁ、、、

・なかなか、だよね。しかも、あえて難しい地域に入った。

なにが難しい?

・いわゆる人口減少、過疎の中山間地で、田畑の生産効率は悪い。

あえてそこに行ったの?

・そうだね。詳しくはコモンズの本で読んでください。

立派な人がいるね。

・そうだよ。

石ちゃんは?

・俺の方が、コモンズで本を出したのは先輩。

売れ行きは?

・、、、そういうエゲツナイ話にしないように。

「先輩」だなんて言うから、、、

・先輩ではあるけど、彼の方がずっと立派、いい仕事をしている。尊敬できる。

福島の農業は難しいんじゃない?

・うん。でも、彼はだいぶ西の方。会津。

福島も広いんだよね。

・その前に見た映画は中通りの話。

場所によって違う?

・うん。そう感じた。原発との距離や状況によっていろいろだ。

道路一本隔てても違うって聞いたよ。

・それは賠償の問題かな。いろいろあるよね。

いろいろでよく分からない。でも、福島のことは応援したいなぁ。

・「応援」という言葉が合っているのか、は、疑問を感じるけど、、、

うん。うん?ちょっと、上から目線っぽい?

・応援する方が応援されることもある。

なんか、前も、そんな関係性の話したね。

・東京電力だからね、東京だからね、東京だよ。東京の責任だよ。

うん。でも。東京人と東京電力が同じというわけではない。

・まぁ。ね。

東京電力を使わないという選択肢も、今まではなかったし。

・今度の自由化でもすぐには東京電力を脱却できないみたいだよ。

でも、「東京の責任」というのは大げさでしょ。

・でもでも、原発への反対運動をしていた人ほど罪深さを感じている。

どうして?

・う~ん。結局阻止できなかった、からかなぁ。

で、東京電力を使い続けている、からからぁ?

・ちゃんと反対運動していなかった俺。オイテケボリ。

映画も農業の話?

・須賀川の農家の彼は「台地が穢され、自分の作った米を食いたくなかかった」という。

放射能に穢された?

・彼のお父さんは有機農業を志して誇りを持って土や作物と向き合っていた。

うん。

・ハンパな百姓の俺だけど、自分の米を食いたくなくなる恐怖や無念は少し想像できる。

うん。

・しかも、東電は今と事故前の販売価格の差額だけを補償している、という。

・穢された土地で耕作を続け、不十分な作物になることで補償が受けられる。

やめられないということ?

・そういうことになるかな?やめるのも本意ではないだろうけど。

ヒドイね。

・でも、知らなかったよね。そんなことがあることを。

うん。

・昨日、たまたま新聞にその農家さんの記事があって知った。

それで、すぐ映画に行く石ちゃんもエライ。

・ま、映画館近かったし、映画の企画者がお世話になっている弁護士さんだったから。

そうなんだ。

・初日で舞台あいさつがあるから会えるかなと思って、ね。

会えた?

・会えたよ。尊敬できる弁護士さんだよ。

そうなんだ。

東電を相手に訴訟をしている。

へぇ。

・でも、東京にいる俺たちは、むしろ東電の側の人間かもしれない。

また、そう考える?

・東京で浮かれて暮らしている。

楽しくしていちゃイケナイの?

・そんなことない。人生、楽しくいきたいよね。

でしょ。

・浮かれること自体は悪くない。けど、福島や沖縄を忘れてしまうと問題でしょ。

う~ん。

・だからせめて福島のお酒を呑んで、、、

そういう問題じゃないけど。

・沖縄のお酒も呑んで、、、

こらこら。

・できる範囲ことしかできない。やっぱり日常では忘れてしまう。

うん。

・できる範囲を広げたい。原発の再稼働には反対したいよね。

うん。

・具体的に反対を表現できていないけど。

・自分の持ち場で頑張って、自分の耕す場を耕して、何かをよくする。

何をよくする?

・世の中を。

ムズカシイでしょ。

・うん。そう簡単ではない。悪くする側になるべく加担しない、ことぐらいか?

東電?

・いや、実際は加担してしまっているなぁ、、、

・加担してしまっていることに自覚的になる。

なんだか、どんどん自虐的。なんだか、、、

・うん。元気の出る話じゃないね。ま、現場でみんなと元気を出すよ。

その現場があるからいいよね。

・そうだよ。福島では多くの人が自分の家に帰ることができない。

うん。

・自分の田畑を耕せない。

うん。

それでも種を播こう、という運動もある。

うん。

・今回、映画を見て、あらためて友人にも会って、

お酒も呑んで、、、

・あれこれ調べてみて、

うん。

・知らなかったこと、目を向けていなかったことが多いことに気付いた。

うん。

・目は向けていたけど理解していないことや気付いていないことも多い。

うん。

・ちょっと、情けないよね。

そんなぁ。石ちゃんもいろいろ忙しいんだよ。これで、、、

・まぁ、言い訳もしたくなるけど、言い訳はしないで、、、

うん。

・また、いろいろに目を向けていきたいと思ったよ。

うん。

・そして、まずは、俺は俺の場で種をまいていく。

 

(石田周一)