第88回 芋と豆と

2015.12.31
いしだのおじさんの田園都市生活

暮れの畑って、どんな感じ?片付けとか、するわけ?

・うん。芋をやっと掘り終えて、豆もやっと脱穀を終えて、それが片付けかな。

やっと、やっと?

・そうだよ。人も時間も技術も足りていないんだよ。

ゴクロウサマです。

・どっかで大雪でも降ったら目も当てられなかったと思うよ。

降らなくてよかったね。

・実は、芋はまだ掘り終えてないところが少しある。掘り残し学園。

ナニ言ってんのぉー。

・でも、まぁ、ごく一部だから、ま、掘り終えたことにしておく。

いいかげんだねぇ。

・うん。でも暖冬で里芋の茎も枯れていないし、ま、いいか、って感じ。

残っている作物もあるんでしょ?

・もちろん。大根、白菜、ブロッコリー、キャベツ、ネギ、あと葉物と、、、

そうなんだ。

・寒くなって本格的に美味しくなるはずが、なかなか、、、

このあいだ食べた白菜、青虫がしっかり生きていた。

・そうなんだよ。アブラムシもなかなか消えないし、、、

オンダンカ、ねぇ、、、

・白菜や大根は2月まであるし、ネギは3月の終わりかな。

へぇ。

・でも、それも、ネギ坊主や白菜の花が早まるかもね。

困りますね。

・芋類は蓄えておいて、畑の収穫といっしょに販売する。1月も2月も3月も。

そうか、そうか、売らなきゃね。

・でも、そのあと売る野菜のない時季がどうしてもある。

端境期、って言うんでしょ。ま、シカタナイね。

・でも、2月植えのレタスとかチャレンジするよ。

へぇ。チャレンジ、楽しみだね。

・あと、初夏6月に収穫する玉ネギやニンニクも寒さに耐えているよ。

うん、うん。

・そうだ、麦もあった、小麦、ユメカオリ。

畑がカラッポになることは無いんだね。

・そうだよ。田んぼは稲刈りから田植えまで半年以上カラッポだけどね。

なるほど。

・畑も、例えば、芋類だけを作るならカラッポの期間もできるけど、ね。

いろいろ作っているから、常に何かあるんだね。

・うん、でも、我が社はまだまだ種類は少ない方だよ。

自給自足にはほど遠い。

・まぁ、シカタナイね。そのへんは。本格的な百姓じゃないし、ね。

大掃除とかはしないの?

・まぁ、中掃除くらいだね。

・倉庫や道具の整理と、畑の空いているところの片付けとか、少しはスッキリさせる。

うん。

・お礼肥え、っていうのがあってね。空いた畑に肥料をやっておくんだけど、、、

けど?

・まだ、そこまでは時間も無くてできていない。新年の仕事かなぁ、、、

意外と忙しいんだね。

・そうだよ。それに、実は、まだまだ、収穫物の整理がスッキリしない。

・芋の根っ子取りとか虫食い豆を拾うとか、そんなこともたくさんある。

へぇ。どんなふうにするの?

・里芋ってね、掘ると塊になっていてね、根っ子もたくさんある。

そうなんだ。塊?

・親芋、子芋、孫芋、曾孫に玄孫、、、それをばらして、根っ子を取って、皮も剥いて、、、

へぇぇ、メンドクサそう。

・いや、これがね。我が社の子たちは嫌いじゃないんだよね。黙々と根っ子取りをする。

オシャベリとかしながら?

・いや、たまにオシャベリもあるけど、基本は黙々。

ふぅん。虫食い豆を拾うのも?

・そうだね。ゴミ取りとか、、、

好きなんだ?

・好き、っていうのともチガウ気がするなぁ、、、何だろう?あれは?

マジメ?

・う~ん。それともチガウ、、、何だろう?

何だろう?

・その場に生きている、っていうか、、、目の前にあることを受け入れているというか、、、

根っ子があるから取る。ゴミがあるから拾う。

・う~ん、そうかなぁ?

そうかなぁ、ん?

・ううむ。何と言ってイイか???

ハッキリしないねぇ、あいかわらず。

・ハッキリしないんだからしょうがない。考えるよ。考え続けるよ。奴等が何なのか。

奴等じゃなくて、彼等でしょ。

・まぁ、そうだけど、、、

石ちゃんもいっしょにやるの?

・そりゃあそうだよ。

地味だねぇ。

・うん。ま、そうだね。でも、任せておいて別の仕事をするときもケッコウあるけどね。

ご隠居さん、って感じだね。

・そうかぁ?ま、みんなが黙々とやれば、俺も黙々になったりする。

平和、だけど、地味。あまりにも地味。

・うん、地味というか生産性低いよね。時間がもったいないなぁ、って思うときもあるよ。

うん。

・もっと、生産性の高い活動をしたいなぁと、資本主義的に考えることがあるよ。

そりゃ、そうだ。稼がなきゃ。

・うん。

この前はどうやって稼ぐか、って、言っていたじゃん。

・ま、ね。世間を見渡せば、短時間で大きなお金をやりとりする仕事とか、あるよね。

地球の反対側とやりとりしたり、、、

・そう、ビッグだったり、リッチだったり、グローバルだったり、そういう仕事、、、

豆粒や芋の根っ子の対極にある活動、、、

・そう、そう考えながら、黙々とアカギレ作りながらやっている。

地味、としかいいようがない。

・ジミー=コナーズ、ジミー=ペイジ。

あほ。

・でもさ、古来人はこういうことを黙々とやってきたんだろうな、って、思ったりもする。

それも、そうですね。

・米や豆や芋を食って生きてきたのはマチガイないわけだし、、、

うん。

・グローバルもイイけど、土からは離れられない、誰もが、、、

急に何言ってるの?

・土の中に宇宙がある。

ま、芋も豆も美味しいよね。

・うん。俺らは美味しいを目指して黙々だけど、生きるための黙々の状況もあるわけで、、、

そうだね。

・50年前100年前は、みんなそんな日常を送っていた。

そうだけど、、、

・目の前にあるものに黙々、、、だったんだよ。

、、、

・でも、グローバルやインターナショナルや、より遠いところに憧れる。

遠く、高く、大きく、多く、、、

・そう。

憧れもありつつ、でも、地味に芋や豆。

・そう。

生産性の高い、カッコイイ仕事、、、

・うん。

農業だって生産性を上げればいいじゃん。

・まぁ。ねぇ。はぁ。

おいおい、元気出せよ。

・ううむ。

地味でもいいじゃん。

・うん。本当の意味での「生産」は土と太陽によってこそ、だし、ね。

そうだよ。

・そう、哲学者は言っていたね。

そう、そう。

・芋と豆には普遍的な価値があるんだね。宇宙開発よりも大きな意味がある。

そうだ、そうだ。

・けれども、そこまで言うと、意味がよくわからなくなる。

なんだ、なんだ。

・そもそも意味とか価値とか、考え過ぎないほうがいい。

美味しければ、それでいい。

・と、いうか、芋は芋で、豆は豆、それでいい。

結局、よく、わからないけど。それは、それで、いいぞ!いいね!

 

(石田周一)