石田のおじさんの田園都市生活

第49回 台風の夜

2012.10.1
いしだのおじさんの田園都市生活

・中秋の名月のはずが、暴風雨。
台風だね、しょうがないね。
・月より・・・
お団子。美味がしかったよ。気分が出たよ。焼酎に合うかな?
・バカ。
・・・台風の被害が心配な地域では冗談じゃないよね。
・でしょ。
でも、俺もきょうはその作業をしてきたよ。
・何?
きのう刈ったもち米の掛け干しをロープで固定したんだ。
・へええ。
普段はしない作業だよ。ひと手間余計に頑張ったわけだよ。
・それは、ゴクロウサマ。
今年のもち米を食べるときには思い出してね。
・はいはい。
おれに、きょうの作業そのものが台風対策だったんだよ。
・そうだよね。二日続けて農作業三昧だったもんね。
ゴメン。
・別のオデカケを期待していた人たちもいたけどね。
ああ、H島ね。いや、またの機会に楽しもう、よ。
・不満が残ったかも・・・
食うためなんだよ、仕方ないだろ。
・?
先延ばしにしないで、脱穀をして、まずうるち米をきっちり取り込んだんだよ。
・でも、なんか楽しそうね。
そうだね。なんか障害というか困難があったほうがヤル気が出る、よ。
・?
WKさんの稲の脱穀もやったんだよ。
・WKさんて?
あの蜂蜜のおじさんだよ。
・田んぼもやっているの?
そうだよ。畑も田んぼも蜂も鉄砲もやっているんだよ。
・スゴイ。鉄砲も?
うん。この前は撃って来た鹿の肉をゴチソウニなったよ。
・ああ、子ども達も喜んでいたね。
贅沢だよ。子どもには。
・蜂蜜もすごく美味しいしね。
あれも、また、趣味でやっているから破格だよね。
・・ナイショでしょ?
そうそう。ネットに出したりしないようにね。
・ははは。
経費ばかりかかって、って、言っていたよ。
・趣味だから?
まぁ、そういうことかもね。でも、生き物相手だから、一筋縄じゃいかないよ。
・どんな苦労か想像もつかないけど。
うん。苦労はするけど、かわいがっているよね。
ペット?って、こと。
・・・なんとでも言えるけど・・・私のペットはミツバチが10万匹ほど、って?
・うん。スゴイスゴイ。
でも、その実態はサラリーマンだよ。
・どっちが本業だか、わからないね。
うん。いつも「俺は百姓だよ」って、言っているよ。
・いしちゃんが言うよりリアルだね。
ま、認めざるを得ない。
・でしょ。
お世話になっているからね。俺たちで脱穀をしたんだ。
・え?WKさん本人はいなかったの?
WKさんは、ね、Tさんのお手伝い。
・それも大変そうね?
いや、楽しそうに見えるよ。
・どうかなぁ?
とにかく、きょうはいろいろやってヤリキッタ感があるよ。俺としては。
・よかったね。こちらのオデカケは反故にしたけどね。
・・・
・・・
まず、昨日だよね。
・・・
俺も稲をひっくり返したのは初めてだよ。
・ひっくり返した?上と下を?
まさか。南北の向きを変えたんだ。
・何のために?
陽当たりだよ。北側がもろに湿気ていたから、南北をかけなおしたんだ。
・米を作るのは大変ね。
いやいや、こんなことは、だから、俺も初めてだから。
・そ。
谷っ戸ん田ならでは、かもしれないよ。
・天気のせいもあるでしょ。
そうだね。でも、陽当たりや湿気、風の通りも谷戸の独特のものがあるんだよ。
・で、お米も美味しい。
うん。きっと、そうだよ。早く食べたいね、新米。
・うん、楽しみ。
きょう、鳩はもう食っていたよ。
・ええー、鳩以下?私たち。
以下も、以上も、ないよ。まぁ、同格かな。
・で、南北問題で解決して、きょう脱穀したわけ?
天気を気にしながら、ね。
・午後か、午前か、なんて言っていたもんね。
午前で陽に当てて午後に脱穀と思っていたんだけど、西の空にビビりながら、やったよ。
・そう。
急ぐと機械が不満を言うし。
・?
どんどん稲の束を供給するとコキノコシが多く出るんだよ。
せかすな、ってこと。
そうだね。機械には機械の都合もある。
・帰りは風雨の中を帰ってきたけど、いつ降り始めたの?
まさに、作業を終えて、お米をしまったときにときに降ってきたんだよ。ザーって。
・ちょっとドラマチック。
あれが、もうちょい前で、稲といっしょに濡鼠になっていたら・・・
・もう、ミジメ、ミジメだったかもね。
でも、お天気仕事はそういうもんだよね。
・今、風雨がかなり強いけど、ダイジョウブ?
いやぁ、心配だね。固定した掛け干しがどうなっているか?
・確か、昨年、ひっくり返ったんだよね。
そうだよ。だから、きょう、念入りに固定したんだよ。
・明日の朝、見に行く?
うーん。行こうかな。
・百姓なら・・・
そうだね。

(いしだのおじさん)

いしだのおじさんの田園都市生活