第34回 故郷を耕す その3
2011.7.1いしだのおじさんの田園都市生活
彼は都会育ち。
小学3年生。
初めて田園都市を訪れた。
緑も多いが坂の多い町に面くらったようだ。
な~に谷っ戸ん田では、
谷戸の尾根から下る道に驚く。
初対面の人たちにキンチョウする。
(なんだよ。俺がついているじゃないか)
その俺が、子どもたちに「イシチャン」と呼ばれるからか、
また、少しキンチョウが増した彼だが、
山羊のメイちゃんに若葉をやりながら場に馴染んでいく。
今日は子どもたちが多い。
「3キョウダイ」と呼ばれている姉兄弟、
谷戸育ちの優くん、
mちゃんは「農業大好き」女の子。
小学低学年と幼稚園児がニギヤカ。
数週間前、母と並んで田植えをしていた子らも、
今日の草取りはすぐに飽きて、泥遊び。
うん、それはそれでいいよ。
ここでは、大人といっしょに「シゴト」もできるし、
子どもにしかできない「アソビ」も思い切り楽しめる。
谷戸の自然と農の奥深さを体感してくれたら、
それでいいんだよ。
子どもが遊ぶ傍らで(?)、大人たちは田にハイツクバル。
田の草取りは庭のそれとはチガウ。
「草取り」というより「草かき、草埋め」だ。
両手を熊手にして、稲株のまわりをかいて、
手に寄せた草を泥の中に埋める。
腰をかがめて身体のキツイ作業だが、
自分の食べる米を自分で作る楽しみ、
仲間とともに作業をするヨロコビがある。
そして、谷戸という空間。
午後は谷戸を出て別の田んぼへデカンショ。
整備された田は谷っ戸ん田に較べると味気なくも感じる。
が、子どもたちは作業する大人を尻目に遊びだす。
アスファルトにチョークでナニヤラ画いたり、
オイカケッコが始まるころには都会の少年ももう仲間だ。
そこへ、イシチャンが蛙をゲットして、
またまた盛り上がる子どもら。
50歳になろうかというオジサンが、
子ども以上に目を輝かして蛙を追う。
子どものころと本質的に変わっていない。
そんな姿を子どもたちの前で見せている。
この子達が成長していく時代はどういう時代だろう。
私の子ども時代は緑が「開発」にさらされた日々だった。
(第7回 私の田園都市生活)
そして、その「喪失感」があるから今がある。
この子達の時代はよりキビシイものかもしれない。
子どもたちよ。
故郷を耕せ!
故郷に耕されろ!
いつか自分の興味を優先して、
野良に背を向けるときも来るだろう。
しかし、蛙を追った日をどこかで憶えていてくれ。
故郷は君たちのためにある。
(いしだのおじさん)