第72回 福をもたらす芋

2023.2.1
映像の持つ力

芋がケセランパセラン?!

私たちの、小さな森のある畑で、福芋を見つけました♡

お正月が明け、今年初めてのノラ(野良)仕事。
黒大豆を手箕を使い選別した後、グミの木を見上げると・・

あれは何?、上空に伸びたグミの枝に、光沢のある薄い布地のような毛がひらひら、はためいています。

 

毛の分量や質感や、はためく動きからみて、鳥の羽ではなさそうです。
相棒クンに見てもらうと、正体は「ガガイモ」でした。
乾燥したガガイモの実が裂け、中から整列した綿毛の端が飛び出していたのです。

 

枝からガガイモの実を外し、綿毛を取り出してみると、途端に、平面だった綿毛が、ふわんと球状に広がりました。

 

きゃぁ。かわいい。
綿毛の下には気球のように種が吊り下がっています。
この実の中から、球体の綿毛が出てくるなんて想像できない。

 

球状に広がった種をひとつ、そっと空に向けて放り投げると、ふんわり畑の上空をただよいます。
下降し始めたかなと思うと、また空中をふんわりと移動します。
何かのきっかけで、上に押し上げる空気の流れが起きたのでしょうね。

 

一粒のガガイモの種の飛行は、ふんわり浮き上がり下がりを繰り返し、なかなかの滞空時間です。
最後は、ナツメの枝にひっかかり飛行は終わり。

畑の空中は、昆虫や鳥だけでなく、こうして小さな種も浮遊して、なんと賑やかなことでしょう。

 

渦、渦がふんわり飛行を可能にする仕組みの鍵

さて、この小さな種が長い時間にわたり空中を移動することを可能にしているのは、どんな仕組みがあるのでしょう。

綿毛ばかりに気をとられていましたから、種を観察します。
ガガイモの種は平らでぺらぺら、雫のような形。
種も浮力を妨げない形状をしています。

綿毛は、雫のとがった種の先端から、何本もの綿毛が放射状に広がりふんわりした球体をつくります。

 

調べてみました。
流体力学によると、ガガイモの種の空中移動を可能にしている仕組みは、多くの隙間を持つ綿毛の構造がポイントになっているようです。

タンポポの綿毛を調べた研究によると(2018年の報告)、
・綿毛の周辺を流れる空気が独特の渦輪をつくりだすことが分かった。
・そして、渦の周辺で、綿毛を通じて上向きに流れる空気の摩擦が、渦に継続的な回転をつくりだし(低気圧性の渦)、綿毛を上方に吸い上げている。
というのです。(※1)

なんと!
畑や田んぼで、植物をみていると、その生を全うし次世代をのこす効率的な仕組みに驚かされます。

自然界にはわたしたちが知らない科学がいったいどれだけあるのでしょうか。

生態系の中で、他の生き物から捕食されなく、あまねく命をいただける存在は人間だけ。
これは好き勝手なことができる特権ではなく、霊長類の長である人間は、生態系を健やかにする役割をもつ生態系全体の奉仕者ということを示しているのでしょう。

 

お百姓しごとは科学がいっぱい

お百姓しごとが基本にある、自然を観察し学んだ先人たちの暮らしは科学でいっぱいだった。
自然の知恵をとりいれ暮らしを助け、どれ程わたしたちの命の源である生態系を多様にしてきたことでしょう。
現代の暮らしは、この先人たちの貯金で生きながらえているのかしら。

田んぼでなく、ベランダのバケツ稲栽培も、始めるとそこに生態系があらわれます。
機会があったらぜひ始めてみてくださいね。

 

「ガガイモの綿毛」は、植物系のケセランパセラン。
ケセランパセランは、福をもたらすものとして珍重された伝承もあるとか。

ありがたいことに、福芋の発見とともに、相棒クンが始めた、わたしたちの小さな森のある畑は十四年目を迎えました。

(中川美帆)

 

(※1 参考文献)
Nature Japanのサイト・記事
タンポポの種が遠くへ飛ぶしくみ

日本流体力学学会のサイト・論文
渦輪による物質輸送の特性

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