第51回 「プラントオパール」植物の宝石であり化石だった
2021.4.30映像の持つ力
稲が持つ鉱物成分の応用
小さな森のある畑は、夏日と雨が続いたことで、翌週には、すっかり膝まで夏草で覆われました。
先々月のコラム書きましたが、今年の田んぼでは「プラントオパール」にも注目する。
5月に入りいよいよ田んぼは、稲の種まき「苗代づくり」が始まります。
日本各地で気温30度を超える真夏日がある4月でした。
お米づくりをしている自然農の田んぼグループでは、今年のお米の種まきを早める声も聞かれました。
わたしたちは、例年と変わらず5月の連休に苗代づくりをします。
種用に保管した種籾を、田んぼの一角に用意した苗代に蒔きます。
さて、お米の種籾を田んぼに蒔くその前に、植物の宝石「プラントオパール(植物珪酸体の総称)」について勉強。
プラントオパールと呼ばれる植物性の鉱物は、稲の歴史の解明に応用されているのです。
宮崎大学農学部の「のうがく図鑑」(※1)によると、
地層に残るプラントオパールの植物珪酸体を分析することで、イネの生態型(せいたいけい)を調べることができるのだそうです。
最近では、さらにプラントオパールに残る遺伝情報も分析できるようになりつつあるのだとか。
稲の遺伝情報から、稲が生息していた当時の気候や人の活動の様子が推測できるわけですね。
田畑での栽培の基本である、太陽、水、空気という自然条件がどうだったか、育種や伝搬という人の手による自由な交雑がもたらした品種の固定なのか、固有の環境がつくりあげた亜種なのか。
地層に残された、稲の細胞に貯められたガラス質の成分量や、遺伝情報を解析することで、当時の人がどんなふうに生きてきたか、その一端が分かるとは!
プラントオパールは化石でもありました。
夏草と冬草の入れ替わり <小さな森のある畑>
4月の夏日と降雨が何週か続いたあと、小さな森のある畑はすっかり冬草から夏草に交代です。
多年草のスギナ、ヨモギ、シロツメクサは葉が地表を覆っていたのが、ぐんと立ち上がり、力草が加わり、ひざ丈まで伸びています。
土筆はスギナへ姿を変えました。シロツメクサは所々に花が咲き始めています。
いよいよ真夏の繁茂旺盛期の始まり始まり。
この時期の柔らかい緑色をした細長い力草は緑肥にぴったり。地表の乾燥防止にもなるため、「いい草が生えているなぁ」と感謝ばかり。
冬草と夏草は成長の時期が半年ずれる事で棲みわけが出来ていますが、植物の季節行動(フェノロジー)には感心しきりです。
自生と栽培と雑草が行き交うにぎやかな畑
でも手を休めているわけにはいきません。
うかうかしていると、これから実が成熟し、いよいよいよ収穫となる、絹さや・スナップエンドウ・そら豆・イチゴが、夏草にぐるっと覆われ、栄養を成長旺盛な夏草に取られてしまいます。
だからと言って、全部抜いたり、刈ることはしません。雑草は大事な緑肥です。
草は刈りますが、根っこは残します。根が張ることで、空気が入り、わたしたちの代わりに土を耕やしてくれるからです。
草刈りのポイントは、太陽、水、空気の調整。
<太陽を届ける>
・イチゴの偽果が熟成して赤くなるためには太陽光が必要。陽を浴びるようにします。
<温度と水分の調整>
・雑草が密集して風通しが悪いと蒸れて株が弱ってしまいます。一方で夏草は、この高温多湿に強い!!
・刈り取った草は、株の周りに敷き、土壌水分の蒸発防止にします。
畑で今年初のイチゴをいただきました。
シマチシャ(沖縄のレタス)は、塔立ちしています。
野生化しているからかな、夏草の勢いに関係なく成長しています。亜熱帯生まれは強いなぁ。
うちの畑に慣れて、こんなに成長しているから、来年はシマチシャの畝をつくるかな。今年の種採りが楽しみ。
シマチシャの味は、生だと苦いけれど、油で炒めると苦みが取れ、レタス類にはない、シャキシャキした食感を楽しめます。
バラ科の果樹が、変わるがわる、開花と結実の様子をみせてくれます
プリンの成る木 (^^♪ ポポー。
グミ
こちら自然生えの南京ハゼ。日陰ができ休憩場として良かったのですが、根を張り進める力が驚くほど強いため伐根。
伐根も手作業。トンビ鍬で掘り進め南京ハゼの木を倒すことができました。相棒クンお疲れ様です。
ベランダ里山でDNAの不思議を観察
温かくなりましたので、タネ採りのため、有性生殖の観察をしているアマリリスはベランダに移動。
受粉させた後、花はしおれ、胚珠がどんどん膨らんでいます。
胚珠が角ばってきました
胚がつくられ種の完成が近づいたサインでしょうか、継ぎ目が割れ始め、黒いものが見えてきました。
受粉させた後のアマリリスの雌しべ。先端が上向きに曲がり始めました。なぜ曲がるのか?
形状を見るとスキーのジャンプ台みたいです。
さては、急勾配で勢いをつけ一気に胚珠へ花粉を送り込むのが狙いなのでしょうか。
→
花が開いたばかりの雄しべと雌しべ → 雄しべが花粉を出し始めた頃。雌しべは平たんです。
雄しべが、くしゃんと、しおれ始めました。雄しべに栄養が届かなくなったのでしょう。
胚珠で受精が成功したサインかしら??、受精卵の細胞分裂が活発になり始めたから、雄しべがしおれたのですね。あくまで想像ですが。
生殖生長の観察は面白いなぁ。
アマリリスの種採り、成功かしら?。
ただし、蒔いた種から芽が出たとして、花を咲かせるまでには5年が必要。球根は蒔いたその年に花が咲く。
種と球根で何が違うのだろう?
・球根はすでに成長するための栄養が貯められている。DNAに記録された設計図を基にして、発芽から成長、生殖まで一通り経験が済んでいる。
・種は設計図しかない状態。種と球根は、建築に例えると、新築とリノベ住宅ぐらいの差があるのかしら?
いずれにしても、5年間の飛び級なしの成長が観察できるわけか。
<球根を植える> 同じ遺伝子を持つ分身が増える(無性生殖)
<タネを蒔く> 異なる遺伝子を持つ新しい個体が出来る(有性生殖)
二通りの観察が体験できるから面白くなりそう。
疑問を解明するためには専門書が助けになりますね。グッドタイミングで、相棒クンの本棚から本を見つけました。
タンパク質の生命科学 池内俊彦著(※2)
本の帯は、「実際に生命現象で機能するのがタンパク質。酵素として生体内の化学反応を進めるなどあらゆる生命現象に関わるタンパク質をすべての面から理解することを目指す」ですもの。生き物の生命活動の不思議が、謎解きできそうです。
「人に備わる免疫機能の防御作用で言うと、外から侵入したウィルスの抗原、その抗原を中和して体を守る抗体、ともにタンパク質。」
先月号のコラムで取り上げた、椎茸が倒木を分解する仕組みを例にとっても、木を構成する成分ごとに特化した固有の酵素が関与しているから。 なるほどです。
田畑でのノラ作業って生命科学を学ぶ現場ですね。
ベランダの梅の実は、大きくなりました。
落ちてしまった(生理落果)9粒の梅は、はちみつ漬けに。
草っ原に見えて、けっこう野菜が育っています。
プランターなど、土壌の容器に制限がある環境では、どうしても一つの生き物がわっと増えて食物連鎖のバランスが崩れます。
ベランダで育つブドウの木。枝の一つだけが弱っていました。相棒クンはうちの樹木医。
これは、プランターの土の中でコガネムシの幼虫が増えて、根を食べ始めたのでは?と考え、プランターの土を掘り返すことに。
予想通り、コガネムシの幼虫がいっぱいでした。
舟にプランターの土を広げコガネムシの幼虫を取り出し
根をほどき、根が固まらないように、調整しながら土をプランターに戻します。
地道な作業の先に、ブドウをいただくことができます。
ベランダでも、ある程度の広さの区画を作り育てると、コガネムシの天敵(ハラナガツチバチ)が現れます。
幼虫がブドウの根を食べつくしてしまうほど数が増えることは起こりません。生態系ができています。
この区画を大きくしたのが、わたしたちの先人が日本の各場所でつくりだした里山がある暮らし。
食べる物を手始めに、人が生きるために必要なものを、将来に渡り得るために自然を整備する中でできた自然環境。
人が地球の生命の一員として生きていく仕組みができあがっています。
人も自然の一部。
人間は生物界の頂点に君臨し、他の生き物を食べて生きていくためのエネルギーを得ている。
地球の生態系が健全であることに努める存在なのかも。
里山は、わたしたちの足元から始まります。
(中川美帆)
<リンクの紹介>
※1 宮崎大学農学部 のうがく図鑑
「イネの細胞化石から稲作の歴史を科学する」より
http://www.miyazaki-u.ac.jp/agr/books/post-56.html
※2
タンパク質の生命科学―ポスト・ゲノム時代の主役 池内 俊彦(著)・ 中央公論新社(出版)
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