第128回 田んぼ、シェア

2019.5.1
いしだのおじさんの田園都市生活

・今日は、種籾播きをしたよ。子どもたちと。
子どもたち?
・畑に遊びに来てくれる子どもたちだよ。
ああ、あの泥ん子ちゃんたち?
・そう。
種籾播きは難しくない?
・そりゃあ、簡単ではないけど、でも、みんなでできたよ。
そうなんだ。
・この写真を見てごらん。
うん。なんか下向いて一生懸命やっているけど、これほとんど大人じゃん。
・いや、子どももいるでしょ。
一人だけ、あとは後ろで遊んでるじゃん。何?このブルーシートの山?
・堆肥。
堆肥って、あの、何だったっけ?結局。根本。
・ま、あの、乗馬場でもらってくるヤツだよ。主には、、、
お馬さんの、アレだよね。
・アレはアレだよ。もとはと言えば、草だよ。草。
何を言っているのか、、、そんな山を登ったり、滑り降りたり、、、
・楽しそうだろ。見ているこっちも楽しくなる。
そうかなぁ。
・でもね。小学生3年生の子はトレーの土つめをなんかもう一所懸命でさ。
可愛いね。
・そうすると、そばで見ていた幼稚園児の妹もやる気を出してね。
頑張るんだ。
・うん。ま、ね。お兄ちゃんを押しのけるような勢い。
面白いね。
・子どもは働くのと遊ぶのとの境界が無い。
いいよねぇ。
・でも、お母さんたちも、種籾播きを楽しんでいた。連休の一日。
仕事じゃないからね。
・俺にとっては、仕事。俺には連休が無い。
ご苦労様です。でも、半分遊んでいるようにも見える。
・俺にも仕事と遊びの境界が無い?か?
どうかな?
・子どもたちが来てくれると、ワクワクだよね。
石ちゃんがワクワク?
・いや、もちろん、利用者さんたちもだよ。
そうなんだ。
・M店長は、「おいおいケガするなよう」って、ニコニコ声かけていたし。
へぇー。
・子どもたちが転げまわっているからね。
うん。
・松ちゃんは、「カワイイ」って、不気味に笑っているし。
いいね。不気味でも、交流があって。
・うん。畑という場、農という活動だからだよね。
施設のクリーニング工場では、そうはいかないもんね。
・でも、工場にも連休のバイトさんが来てくれて、それなりの交流もあるんだよ。
そうなんだ。
・まぁ、しかし工場だから、子どもたちを遊ばせる環境ではないけどね。
うん。で?種まきはうまく行ったの?
・2時間弱で440穴トレー8枚、播いてもらったよ。
440穴?
・ミノル産業という会社のポット育苗用のトレーだよ。成苗を育てる。

・独特の方法で、有機農法や合鴨田んぼでよく使われているタイプ。
へぇー。
・我々の場合は手植えするときにやりやすいから使っている。
そうなんだ。
・1本ずつ植えるときに、ポットになっているとスムーズ。成苗1本植え。
なるほど。でも、種まきは大変そう。
・うん。種籾を1個か2個ずつ、直径1㎝もない穴に入れていく。
うわぁ。
・でも、みんなでやると楽しい、って、今日の母たちも言っていたよ。
そうかもね。一人じゃできないね。
・うん。それに、今日はせいぜい10枚弱だからね。1反分の半分くらい。
1反で20枚くらい?それを一人でやるとなると、楽しくはできないよね。
・うん。そういう人は聞いたことが無いけど。
えっ、じゃあ、どうするの?
・ちゃんと、機械があるんだよ。人じゃなくて、機械がそれをするんだよ。
だよね。
・機械はバテないし、相当なスピード。不平不満も口にしない。
うん?
・ところで、田んぼ1反あれば、米は400㎏はとれて、4人家族の自給ならできる。
計算上は、でしょ。
・そう、ここ数年我が社300㎏弱、、、全国平均の統計では530㎏。
それはプロでしょ。
・我が社は素人の上、田んぼの条件も良くない。日当たりも水も。
それでも300㎏は少ないよね。
・ごめん。
頑張ってくれるみなさんに謝らなきゃ。
・だね。ところで、今の日本人の平均消費量はは60㎏と言われている。
そうなんだ。そんなに食べていない気もするけど、、、
・シェアハウスで、6人で暮らしたとして360㎏ならば、1反あれば。
1反の田んぼを6人でできるの?
・林くんは一人で10反以上やっているんだから、、、という比較にはならないよな。
プロだし、機械使っているし、、、
・機械なしで1反は、、、きついこともあるけど、やってやれない面積ではない。
昔の人はやっていたんだもんね。
・我が社の地主さんは、小さな機械だけで5反以上やっていた。
根性がチガウでしょ。
・だから、根性でなく、楽しんでできればいいんだよね。
「楽しい」の感じ方も人によってチガウだろうけど、、、
・楽しんで作ってご飯を食うには1反で十分でも、仕事でメシを食うはぜんぜんまた別。
そりゃあ、趣味と仕事じゃあ、そりゃあ、チガウでしょ。
・米の平均反収は530㎏(8.8俵)、平均単価は1俵15,700円。
1反売り上げが139,000円弱ってことか。喰えないな、これじゃ。
・100倍の10町(10㏊)やって、やっと売り上げで1380万円。
100倍!
・利益率が仮に5割として、約700万円。サラリーマンの1人分。
そんなにできるの?100倍とか、、、
・それは、機械を揃えたり、いろんな技術を導入してのことだよね。
そもそも10町の土地が想像できない。
・100m ×1000m か。

・普通の1反を20m×50mとして、これが道の左右にあって1㎞ 続いている。
我が家から駅までの距離。想像できないけど。まぁ、北海道ならアリウルか?
・いやいや、こういう話をしたかったわけでもないけど。
でも、ちゃんと調べたらオモシロいかも。統計で米農家の現状。
・うん。少しばかり田んぼをやっているけど、ほとんどをお世話になっているからね。
作ってくれる人のことを想像しないとね。
・いいこと言うじゃん。
でしょ。
・俺たちのやっていることも想像してみて。
ま、ね。
・で、いつかはシェアハウスのお米を自給したい。
石ちゃんばかりがそんなこと思っていても、ダメじゃん。
・これがね。今度の入居者のR子さんも「やっぱり自給にアコガレる」って。
それは、よかったね。いい人が入居してくれて。
・そうだよ。
いいね。夢があって。
・いつか、実現させますよ。
どうやって?
・まずは、今年の米作りを子どもたちと楽しむよ。楽しみをシェアするんだ。

(石田周一)