第125回 こんな夜更けに

2019.2.1
いしだのおじさんの田園都市生活

・「こんな夜更けにバナナかよ」って、知ってる?
えーっ、知らなぁい。ナニ?「そんなバナナ?」
・ちがうからっ! 障害者が主人公の映画だよ。
へぇー。
・20年ほど前の実話に基づいている。
そうなんだ?ドキュメンタリーじゃなくて?
・あはは、俺、いつもドキュメンタリーばかり見ているもんね。
(「人生フルーツ」も見たけど、直近は、「ボケますからよろしくお願いします」)
地味、すぎる、よねぇ。
・でも、これは、大泉洋が主役だったりして、エンタテイメントだよ。
え、障害者が主役でエンタにしていいの?
・この主人公がなかなかのキャラなんだ。「そのわがままは命がけ!」と、ある。
うん。
・俺、元の本はだいぶ前に読んでいる。
そういえば、机の上にバナナの表紙の本があった記憶があるかも。
・ちょっと、予告編、見てみる?
うーん。(あまり乗り気でない)
・見よう。(意地になっている)
(微妙な空気の中、ネットで予告編を流す。)
・だめだ、俺、、、(半べそ)
なんで?
・見に行こうかと思っていたけど、これ、ダメだな。
どうゆうこと?
・映画館で、おじさんが涙していたら、キモいでしょ。
なんで涙?感動?
・うーん?
いいじゃん。泣けば。
・感動じゃあそう簡単に泣かないよね、俺。
そうだね。悲しくても泣かないじゃん。悔しくても、、、
・うん。俺が泣くのは、複雑な思いとか、微妙なシンパシーだよね。
相変わらず、言っていることが意味不明です。
・自分でも意味不明のときに涙腺が壊れる。
で?この映画の場合は?
・うーん。そこが説明し難いんだよね。
なんか、もったいぶっているよね。
・予告編しか見ていないのに、なんかねぇ、、、
なんかねぇ、、、
・この主人公は自由になりたくて、施設から出て一人暮らしをした人。
へぇー。
・重度障害で生活のすべてに介助が必要だから、ヘルパーやボランティアを集めて。
うん。
・でも、そこで、「お世話になっています。ありがとうございます。」じゃない。

・人生を楽しむ。我慢しない。
だから、わがまま?
・夜更けにバナナを食べたくなったら、買ってきてくれと言う。
それが、タイトルか?
・まぁ、そうだけど、、、ただ、そんなもんじゃないわがままも出てくる。

・人工呼吸器を医者に無断で操作して声が出せるようにする、とか。
それが、「命がけ」か?
・そう。
おもしろそうだね。映画。
・うん。きっとおもしろい、というか、もう評判になっている。
そうやって、ふだん障害者のことをあまり考えない私みたいな人たちが関心を持てば、、、
・私みたいな人ね。
うん。
・そうだよね。何にも知らない人が大勢映画館に行けば、それはそれで、、、
でも、石ちゃんはいろいろ知っている人。
・そう、でもないけど。でも、映画館の中でアウエーだね、きっと。
そんなこと、誰もわかんないでしょ。
・でも、そこで意識過剰になる石田周一。
へんなの。
・だって、俺は日常のほとんどの時間を障害者と過ごしている。
仕事だからでしょ。
・仕事というか、人生だよ。
でも、お母さんたちとはチガウでしょ。
・そうだね。仕事場を離れれば自由。
それを「自由」というのも、、、
・ちょっと問題あるよね。彼らに不自由を強いられているかのような、、、
いけませんねぇ。
・でも、重度の障害者のお母さんや家族は大変といえば大変だよ。
社会全体の中でアウエー感もある。
・そうなんだよね。タイヘンだよ。
でしょ。石ちゃんは甘いよ。
・うん。でもね、俺のアウエー感は、またチガウ要因もある。
ナニ?シツコイな。アウエー問題。
・映画を見れば、きっとみんなみんな感動する。
みんなみんながキライなんでしょ。
・それもあるけど、どうしても俺は裏側を考えちゃう。
ウラガワ?
・この主人公は自由になりたくて施設を出て地域での自立生活。
うん。さっきも言っていたよね。
・でも、その施設に他の人たちは残っている。圧倒的多数。彼は、いわば特別。
そうかぁ。誰もがそういう暮らしを選べるわけじゃない。
・でも、彼みたいな人がいて、それに続く人がその後どんどん出てきてはいる。
開拓者だ。
・そうだよ。障害者福祉、というか、社会に風穴をあけた。
でも、ウラガワがある。
・そう。今でも、20年前に比べれば格段にマシになったとしても、施設はある。
自由じゃない暮らし。
・そう。そして、だから、俺はある意味彼らを管理して自由を奪う側の立場。
そうかぁ。それは、アウエーだね。
・夜更けにバナナを食べるどころか、何をいつ食べるか、自分では決められないのが施設。
でも、作ってもらえるんでしょ。ちゃんと。
・そりゃそうだけど。
でも、やっぱり、好きなものを好きなときに食べたいよね。
・俺の友人の福島智さん。
ああ、盲聾の東大教授。
・彼は、「自分の財布と相談して晩飯を決めるのが自立」と言っていた。
そうか。
・病院みたいに夕方明るいうちに夕食が出てきて、夜中には腹が減るという施設も。
ああ、入院生活と似ているんだ。それが続くのはムリ。私にはムリ。
・いつも好きな暮らしをしている俺たちからしたら苦しいよね。
食いしん坊だからね。
・でも、ホント悲しいのは、そういう暮らししかしたことが無いと、不自由を感じない。
感じられない。
・バナナの彼も施設での暮らしが当たり前と思っていた。
何かキッカケが?
・アメリカの自立運動の人に出会った。
そうかぁ。やっぱり、出会いは大切。
・で、施設だけど、、、だから、俺は基本的には、そういう不自由な暮らしを提供する立場。
うん。自分の自由も無いみたいだけど、ね。
・もちろん、積極的に奪っているわけではないけど、どうしても、そうなる。
どういうこと?
・昔、関わった子でね、「集団行動です」って、独り言を言う子がいた。
何それ?なんでまた、その口真似が、、、あはは、あはは。
・そういうね、抑揚のないシャベリが特徴の子でね。ジヘイショウ。
あはは。
・笑い事じゃないんだよ、自分を抑えて周りに合わせるときに、言うんだよ。
自分を納得させようとしているわけ?
・そうだよ。例えば、みんなで宿泊していたらプログラムが時間で区切られている。
遊んでいても、ね。
・で、「集団行動です」って、独り言が出る。
エライね。
・彼は、自分で電車やバスを乗り継いでオデカケするのが好きな子でね。
自分で行けるんだ?
・そう。だから、まぁ、いい、というか、自分で移動などできない人は常に集団行動だよ。
そうかぁ?常に周りに合わせたり、ストレスかもね。
・その集団行動に合わせるときに、自分を納得させる自分へのことばなんだよね。
なるほど。
・話がずれたかも、、、
うん。
・バナナの彼の自由を獲得するためのたたかいは素晴らしいんだけど、、、
うん。
・俺としては、どーしても施設に残された人たちのほうが、そっちが気になる。
ウラガワね。感動の、、、
・そして、そこで働く職員のことも気になり、そこをどうしていくかということが、、、
でも、20年前の話でしょ。
・いや、本質的にはそんなに変わっていない。
そうかぁ。じゃ、石ちゃんがどういう仕事をするかじゃん。
・そうなんだよ。
で、今、あんまりうまく行ってはいないから、だから涙なんだ。
・(絶句)

石田周一