第103回 釜飯仲間・おこげのお話
2017.7.28神奈川・緑の劇場
【釜飯仲間~おこげのお話】
=神奈川の農業と食べ物のこと・生産者に寄り添って30年=
7月28日金曜日付の「日本農業新聞」に興味深い記事が掲載されていました。
もっとも、興味深い記事は連日のごとく。FMヨコハマのDJ光邦(みつくに)さんも、朝の番組で、「日本農業新聞」の記事を頻繁に紹介しているとか。
JAの機関紙ではあるけれど、その内容は近年、農業に携わっていない皆さんにとっても興味を惹かれる記事が増えているのではと思います。身近な生産者の話題や、農家発の食べ物、料理の話題、文芸欄も楽しみです。そして、一般紙が報道しきれていないアメリカやヨーロッパなどとの貿易交渉による日本農業への甚大な影響についての解説記事なども多くの皆さんに読んでいただきたい内容なのですが。
今回、目をひいたのは、里山の再生を目指すNPO法人伊勢原森林里山研究会の皆さんが、地域住民、田んぼオーナー、保育園児など約70名の参加で「虫送り(虫追い)」という初夏の伝統行事を復活させた、という記事でした。伝統の復興、地域の活性化を目的に7月中旬、伊勢原市内の水田で催されました。
「虫送り」は、かつては日本全国で行われていた行事で、害虫駆除や豊作祈願を目的に七夕行事と関連させていた地域もあるとのことです。同研究会の理事長の「里山の伝統を伝える活動に全力を尽くす。」とのコメントに励まされます。
今、様々な場面で、例えば、衣食住の多様なワザであったり、考え方に、伝統を見直そう、自然を暮らしに活かそうという取組みを目に、耳にします。また、身近に、そのような実践をしている人々にも出会います。
一方では、原発再稼働に見られるような、不要不急なうえに、本当に人間の暮らしに役立つのかと思われる巨大事業も相変わらずで、自然の再生と破壊のせめぎ合いは、破壊が圧倒しているのでしょうが、それでも、30年前とは比べものにならない、“物好きな連中の趣味の領域”ではなく、確信を持った生き方の選択の輪が広がり、その輪が、次々とつながっていると思います。
農業の現場と利用者の暮らしが、大きく遠のいてしまった30年前。中間に流通の担い手が入ることが当然となり、売れることが何よりも最大で唯一の目的となった時代に、「本物の情報」などは無用とされ、「無農薬」とか「有機栽培」と表示すれば、事実がどうであれ売れる時代でもありました。
しかし、「本物の情報」について関心を持つことは、自ら判断し選択できる力を持つことでもありました。これからも、「本物の情報」を繰り返し繰り返し得るように心がけ、学び続けることが、破滅的になるかもしれない未来に向けて、最強の対抗手段だろうと思います。その峰を目指す幾筋もの道程の、重要なステージが、日本列島の自然に向き合う暮らしの中で、脈々と受け継がれてきた伝統行事であり、現実に、汗をかき、香りにふれ、風をあびる、生きた体験なのだと思います。
使用した農薬を知らせること、本当のことを知ってもらわなければ、その農薬をさらに少なくする、使わなくする、という方向への利用者と生産者の共同などはできません。
30年前、「他では“無農薬”でできているのに、なぜ私たちの生産者はできないの?!」と攻められた時代。他の人たちの批判など証拠もないのにできません。その後、表示のあいまいさ、いいかげんさが表面化して問題となり、ガイドライン、基準作りが進むようになったのです。
(2017年7月28日記 おもろ童子)