第101回 釜飯仲間・おこげのお話

2017.5.31
神奈川・緑の劇場

=神奈川の農業と食べ物のこと・生産者に寄り添って30年=

6月17日(土)の、「生産者の心とともに季節を味わう“神奈川野菜の食事会”vol.2」は、この時期に収穫できる作物を可能な限り食卓に盛ってみたいと思っている。何種類になるだろう?どんな彩りになるだろう?

6月から7月末までが、神奈川では、一年で最も作物の種類が多く華やかでにぎやかで楽しい季節だと思う。

神奈川の野菜の収穫期間を大きく分けてみる。

「秋・冬野菜」は、11月一週目から3月のお彼岸まで。以後は「春の端境期」に入って5月中旬から8月一週までが「夏野菜」8月のお盆から10月末までが「秋の端境期」だ。

秋・冬野菜は、一斉に収穫が始まる。そして各作物の収穫期間は比較的長いものが多い。寒くなれば、冬野菜は畑でじっとしている。が、春の端境期中に収穫が始まる春野菜から夏野菜にかけては、次々と収穫が始まっては、終わっていく。収穫期間の短い作物が目立つ。タイミングを逃すと翌年まで食べ損なう。

春・夏野菜は「桜前線」と同様、西から出荷が始まる。ようやく神奈川での収穫が始まるころには、九州、四国方面から、すでに店頭に並んでいるものを季節に敏感な人々は利用済ということになる。桜ならば開花だ満開だと感動もあるが、生産者の喜びと利用者のそれとは、ギャップがあるのはやむをえない。

そんな中、日本で最も作付されている二つの野菜が、6月にはおそらく用意できない。大根とキャベツだ。どちらも、他の野菜では代用できない栄養素があり、健康づくりに欠かせない野菜だ。そして多様な料理方法を持っている。スーパーなどの売り場には日本のどこかで収穫された大根とキャベツがならぶから、神奈川の特定の生産者にこだわる、なんてことをしなければ、特別に不自由なわけでもない。日本列島のすばらしいところだ。

おおむね20年ほど以前には、神奈川で、減農薬、無農薬で夏場にキャベツや大根を作付していた。流通や保管が難しかった、もっともっと古い時代には、夏には夏向きの品種を作付していたのだ。

6月、丸くて、一見固くて、砲丸投げの玉のようなキャベツをYさんが産直センターに持ってきた。(こんなキャベツ売れるわけがない)と思い込んだ私は、そっくりYさんに返品した。そうしたら、「このキャベツが売れない(買わない)なら、安全だ、無農薬だなんて言わないこった。」と言われたことが忘れられない。

30年前のことだ。恥じ入った私は、「もう一度、預からせて下さい、」とキャベツを持ち帰り、事情を説明して完売した。

夏には夏の、暑さに強い品種がある。害虫にも強い品種がある。だが、夏には、冷涼な気候の高原野菜がもてはやされる昨今、わざわざ神奈川で作る必要はないではないか。ところが、地産地消で生産者とつながって暮らしている人々にとっては大問題なのだ。秋野菜がはじまる11月まで、大根もキャベツも食べずに我慢しろということか?生産者は消費者の食生活のことを思っていない!ということになる。

生産者たちは若かった。チャレンジ精神も旺盛な時期、真夏にキャベツをほとんど農薬を使わずに作った。だが、その苦労は並大抵ではなかった。大量のナメクジが集まり、そのままでは出荷できない。ナメクジと格闘した姿は「とても消費者に見せられるものじゃねえ」

9月には新鮮で型の良いサンマの産直が人気だった。だが、サンマに不可欠な大根を一緒に供給できない。サンマの漁獲期にあわせて無農薬の大根づくりにも挑んだ。だが暑さに強い、つくりやすい品種は選ばなかった。それは細くて貧弱な姿。大根おろしにすると激辛。今どき、そんな大根を作っても不人気は目に見えていた。うまい大根を無農薬で作る!ところが、いよいよ収穫、という時になって病気が発生し溶けてしまった。ほとんどがムダになった。

夏から秋にかけて、減農薬(農薬の残留検査をしても検出されないレベル)と言えるキャベツを手に入れるためには、よほど特定の生産者とつながらなければ難しいだろう。一方で、ガンをはじめとした病気克服のために夏でも安全なキャベツを求めている人々は多いに違いない。

もう一度、何ができるのか、生産者と話し合ってみたい。

(2017年5月31日記 おもろ童子)