水の流れは絶えずして

第二十九話 蛇口をひねれば

2016.2.1
水の流れは絶えずして

蛇口をひねり(バルブを開ける) 田んぼに水を入れるパイプラインシステムを初めて目にしたのは就職してから数年後に地質関係の研究会で多摩ニュータウンから港北ニュータウンにかけての開発と地形改変の巡検をしていた時のことと記憶しています。当時は開発とか地下水環境保全とかに興味の中心が、生きもの環境とか農地保全とかにはあまり目が向いている時期ではなかったため、お米作りも便利になったなと思っていたぐらいでした。
それから30年あまりが過ぎ、このところ農村地区へ出かけることが多くなり、パイプ給水をよく見かけるようになりました。ある農家の方に尋ねたところ、『パイプ給水?普通じゃないの』と云われてしまい、興味に導かれながら、改めてパイプラインシステムについて少し調べることとしました。

公共事業で圃場整備が行われた農地はほぼ100%、それ以外の水田でも8割ぐらいはパイプラインが利用されていると、神戸大学農学部の河端俊典氏は説明されていました。そんなに普及が進んでいるのか。私を含め都市の住民にはあまり知られていなようですが、今では、水田のかんがい用水にパイプラインシステムを導入することは、あたり前のようです。
パイプラインの導入は、農水省を始め、各県の農政関係で圃場整備とともに積極的に普及を進めていました。この普及の背景には、資源の有効活用と農作業の省力化があるようです。いくつかの資料の共通事項を探してみると、節水効果、農業用水の安定供給、用水配分の均衡、生活排水の流入による水質悪化の防止、水口管理数の減少、給水栓の開閉だけで給水が可能、排水口の見回不要、水位調整の自動化が可能などの省力化による農作業農業経営にかかる負担軽減、用水路への転落事故の防止、用水路を地下化することによる土地の有効利用などが示されており、水管理に対する労力が8割から9割の省力化できると示されています。
一方で、デメリットに関しては、余り明確に書かれている資料が多くありませんが、それでも資料を探すと、開水路に比べて水が通る断面の余裕が小さい、漏水等不都合が発生した場合に補修が容易でないなどがあるようです。また、先ほどの河端俊典氏は、パイプラインの総延長40万キロメートル。これらと水利施設を換算すれば資産で約25兆円。これをいかに補修維持していくかを、次世代に伝えていくかが重要な課題となると指摘されており、都市部で課題になっている上下水道の維持管理費の増加に似た課題があることがわかりました。

農作業のお手伝いで行ったことのある春先の水路整備や夏場の草刈りは大変でした。いきもののためには、水田とつながる水路は重要なのだけど、こんなに作業の省力化ができるのであればと、もっと都市の住民は環境を守ると云うことを考えなければいけないと改めて考えさせてしまいました。

水の流れは絶えずして