第二十八話 田んぼの水を考える
2016.1.1水の流れは絶えずして
新年おめでとうございます
2015年の年末、新しい年に向けて2016年は何をテーマに書こうか、と2日間も思いを巡らせていましたがなにも浮かばず(年末に限ったことでないですが)、書庫を開けてみると高橋裕さん編の『水のはなし』シリーズが思わず目に飛び込んできました。30年以上も前に出版されたていますが、水に関わる専門的な事象が一般向けにとてもわかりやすく書かれ、今読み返しても勉強になる本です。ネタ探しに見ていた目次から、いくつか掲載されている農業用水の話題が目にとまったことから、田んぼと水に関連する資料を解きはじめましたが、間もなくメダカ1つとっても、基盤整備から周辺の土地開発、自然再生へとかなり奥深いことを再認識させられました。と言うわけで、2016年は、勉強のつもりで「農業と水、それにまつわる人やいきものの関わり」について、書いていきたいと思います。
かつて、田んぼと小川はつながっていて、メダカやドジョウ、フナやコイ、ナマズなど多くの生きものが自由に行き来していました。
福島県内の水田での生きもの調査
水路や水たまりに多くのいきものが見つかりました
しかし、基盤整備などによって、田んぼにいきものが上ってこられなくなり、メダカなどのいきものが減少してしまっています。
これらのことは、既に多くの人たちから語られ、メダカが減少した原因もつぎのとおりにまとめられています。
・開発に伴う造成工事等による生息地そのものの消失
・外来魚のカダヤシとの生息地の競合やブラックバスやブルーギルなどによる食害
・農薬や生活排水などの汚染
・用水路がコンクリート壁化し、水草の減少や消失したことによる産卵場所の消失
・用水路と水田を結ぶ水路の水流や落差の増大、用排路の分離による繁殖時の水田内への進入困難
・冬季の乾田化や用水路整備にともなう溜池の消失による生息地の減少
等です。このうち、特に水田へ水を引き込む用水路と水田から水を出す排水路が分離されて作られるようになったことは、流れに逆らって(上流に向かって)泳ぐ性質があるメダカやドジョウにとって、水路の落差や流速が大きくなったことで水田に入れなくななり、個体数の減少に大きくかかわっているとされています。米の生産性や農地の管理に対する農家の労力を考えると、農地の整備を必ずしも悪者にはできませんが、生きものたちにとっては、生息が難しくなっていました。
3面コンクリート化された水路
水田との落差が大きく、メダカなどが水田に上ることができない
しかし近年では、農と自然の研究所の宇根豊さんをはじめ、多くの方の活動によって、田んぼのいきものの重要性が認識されるようになり、環境や生物の生息環境に配慮した技術が開発されるようになっています。平成26年度には農水省より「水田魚道づくりのすすめ」というパンフレットが出されています。http://www.maff.go.jp/j/nousin/kankyo/kankyo_hozen/gyodou.html
水路から水田にいきものが行き来することがでる
環境配慮型水路
この3年あまり、気仙沼市の大谷地区でお手伝いをさせていただいている「いきものの田んぼプロジェクト」の活動する水田では、東日本大地震の津波で冠水した農地の基盤整備事業が進められており、ここでも地域からの提案により環境配慮型の水路が採用されています。
大谷の工事現場 水路はしぜん護岸
今後、いきものが通れる水路が作られる予定