第1回 映像の持つ力~地域に根差す暮らしが面白い
2016.12.1映像の持つ力
自然と共に生きてきた人々の足跡を求めて
「なぜ、おばぁちゃんが隅に置いやられているの?」
小学校への道すがら、縁石ブロックに腰掛けた、おばぁちゃんの寂しげな背中をみて小学生のわたしは、どうしようもなく悲しくなりました。着物を羽織ったおばぁちゃんには、子供ごころに何か豊かさを感じ、それは同時に敬いの気持ちを伴うものでした。「でも、こんなに尊敬に満ちた人が隅に置いやられている。どうして?」ほんの通りすがりの出来事でしたが痛ましい気持ちに苛まれました。
このとき、おばぁさんから感じた豊かさや自然に芽生えた尊敬の念は、その地域に根ざす自然と共に暮らしてきた人が持つ生きる力を感じたのかも知れません。現在、NORAのはまどまシアターで上映している民族文化映像研究所(略して民映研)の映像は、まさに、自然と共に生きてきた人が持つ生きる力に満ちた人々の記録です。
地域に根ざす暮らしには、今を生きるヒントがあるのでは、知らないのはもったいない、わたしたちの生活に取り入れませんか。 そんな素朴な思いから上映会を続けています。
墓場に持っていかれるだけだった、地域に根ざす暮らしの姿
民映研の映像記録は1970年代から始まります。当時の時代背景は、1964年の東京オリンピック開催に象徴される高度成長期、環境を壊しても経済成長を優先する環境危機遭遇の時代。
わたしが民映研に在籍していたときに聞いた当時のスタッフの話しですが、オリンピックを撮影するような同業者からは、地域に残る生活の記録‥そんなの撮って何が面白いんだ?といった目を向けられたとか。
スタッフの多くは都会出身のシティボーイ。地域に根ざした暮らしは、どれも初めて見るものばかり。人々や暮らしに魅了され、どんどん記録活動に引き込まれて行ったそうです。墓場に持っていかれるだけになっていた人の生きる姿。何とか記録だけでも残せないか、後々専門家の資料や、現代を生きる手がかりにれば、こういったスタッフ各自の思いが組み合わさり、制作を重ねながら、制作する機会に恵まれ120本余りに及ぶ作品群がつくられました。
竹さえあれば生きてゆける。稲わらが欲しくてお米をつくる。
『からむしと麻』
『竹縄のさと』
思い起こすと、この8年ほど通算して民映研の作品群を観ていますが、竹や稲が出てこない作品はあったでしょうか・・・? 2016年度に上映した作品はどうでしょう。豊年祭、アイヌの結婚式といった行事。藍染・大島紬・からむしや麻、薩摩の紙すきといった手仕事の技術。
どれも道具の材料としての使用に留まらず、お米づくりの技術そのものが、藍の畑づくりに応用されているなど、技術革新の様子も興味深いです。地域に眠る理に叶った暮らしにあるもの。来月は具体的に取り上げたいと思います。
(2016年11月30日記 中川美帆)
★ はまどまシアター、次回上映のお知らせ。
12月25日(日)クリスマス。アイヌの『イヨマンテ-熊おくり』を上映します。