寄り道24 里山倶楽部の事例調査レポート

2016.10.1
雨の日も里山三昧

今回のコラムは、8月末に実施したNPO法人里山倶楽部への事例調査レポートで替えさせていただきたい。

まずは、この調査の目的から説明しよう。
林野庁は、1997年から3年ごとに、全国の森づくり活動団体を対象としたアンケート調査を実施している(→過去のデータ・分析結果)。昨年度は、その調査年に当たっていたが、これまでとは違って林野庁が実施するのではなく、NPO法人森づくりフォーラムが林野庁の補助事業として実施した。私は、この調査事業について検討する委員会のメンバーとして、調査対象・方法、質問項目、分析方法などについて意見を述べてきた。調査結果については、今年3月に開かれたイベントで公表され、いまはウェブサイトにもアップされている(→平成27年度調査集計結果)。多くの団体が共通して抱えている課題としては、これまでも指摘されてきたことではあるが、活動資金、世代交代、指導者養成、安全管理、材の活用などが挙げられた。

今年は、2015年調査の結果を受けて、森づくり団体の共通課題を解決するのに参考になりそうな先進的な全国約10団体を対象に、ヒアリング調査を実施することになっている。私は、これらの団体の中からNPO法人里山倶楽部の事例調査を自ら進んで引き受けた。

もう10年近く前のことになるが、NORAが財務的に危機的な状況にあったとき、私はNPO法人里山倶楽部の事務局・寺川裕子さんに相談に乗っていただいたことがある。新たな運営の仕組みを考える上で、「好きなことして、そこそこ儲けて、いい里山をつくる」と言うコンセプトを掲げる里山倶楽部の運営方法が参考になると思ったのだ。寺川さんにはお忙しい中、無理を言って時間を作っていただき、新大阪駅内の喫茶店でお話を伺ったのだが、そのときNORAの進むべき方向が私の心の内で定まったと言える。
寺川さんは、NPO法人として最低限こなすべきポイントを押さえつつ、会員個人が何かをやりたいと思う主体性・内発性を存分に発揮できるように、つまり市民活動の長所を最大限活かすようにと、ゆるやかにいい加減に団体を束ねている。その明確な、柔らかいNPOマネジメントの考え方・方法は、当時どうしようかと迷っていた私には非常にありがたかった。このような個人的な経験があったので、今年の調査団体の候補に里山倶楽部が挙がったとき、まっ先に手を挙げて、自分が行きたいと希望したのである。


里山倶楽部には、前身団体の南河内水と緑の会の頃から数えると四半世紀を超える長い歴史があるので、その全貌を短時間の調査で把握することはできない。今回は、他団体にも参考になりそうな事業を中心に質問し、お答えいただいた。

1.材の活用

里山倶楽部では、保全活動の際に伐採した広葉樹を乾燥させて、薪として販売している。ネットでも販売しているが、口コミによる宣伝活動が大きいとのこと。配送するか現場まで取りに来るかは選べる。購入者は薪ストーブの利用者が多く、キノコ栽培用のほだ木として需要もある。針葉樹は販売せずに、もっぱら自家消費に回しているそうだ。
一方、炭は最近あまり売っていないという。かつては盛んに炭焼きをおこなって年に何トンもの木炭を生産していた。しかし、炭焼きの主担当者が体調不良でリタイアしたことや、また、薪と比べると需要も低いことから、現在は年に1回炭焼きをおこなっている。ほかに、資源の活用という点では、採取したツルや木の実、枝葉などを、リースにして道の駅で販売したり、あべのハルカスでの展示材料として納入したりしている。
里山材の活用という点では、シンプルに薪として販売することが、もっとも可能性がありそうだ。

(木質バイオマス)

里山倶楽部のバイオマスエネルギー事業部は、2005年度~2010年度にNEDOとの共同研究事業として、万博公園内で木質バイオマス有効活用システム実証試験をおこなった。これは、公園内で発生する間伐材や剪定枝など木質バイオマスを活用するために、薪焚きボイラーとスターリングエンジンを組み合わせて、お湯と電気をつくろうというプロジェクトだ。その後、この事業は万博公園から委託されるようになり、公園内の剪定枝は燃やされて足湯として利用されている。
最新の事業年度における里山倶楽部の会計規模は約3,000万円だが、このうちバイオマス事業部が約1,000万円であり、全体に占める割合は大きい。しかし、ほとんどが受託事業収入であり、支出金額も下げにくいようで利益は大きくないという。

2.技術・安全指導

里山保全活動には、チェーンソー・刈払機を使うことがある。しかし、こうした動力機械を使用する場合、普通のボランティア保険が適用外となるように、怪我を負うリスクは高い。このため、ボランティア活動とはいっても、安全管理は必須である。
そこで、里山倶楽部では、森創り技術者 安全技能講習(通称:もりあん)を定期的に開催している。現場で、チェーンソーによる伐木、刈払機での草刈りなどをおこなっているので、必要な技術・技能の習得できる講習会を開いている。
労働安全衛生法によれば、労働者がチェンソーを使用して伐木などをおこなう場合は、前もって特別教育を修了しておくように雇用者側に義務付けられている。ボランティアでも、この特別教育に位置づけられる講習会を、林材業労災防止協会の都道府県支部や機械メーカーの教習所などで受講することが多い。しかし、こうした講習会は、仕事として動力機械を使用することが想定されているので、ボランティアのニーズにはあまり合っていない。里山倶楽部では、現場のニーズに応えるために、刈払機講習(1日)とチェーンソーによる伐木講習(2日間)を開催し、受講者には特別安全講習としての修了証を出している。こうしたことを、他の教育機関に委ねるのではなく、労務局とも相談しながら、自前で開催されているところが素晴らしい。

3.クラウドファンディング

寺川さんは狙った補助金・助成金を、ほぼ80%の高確率でゲットしているらしい。そのコツについても伺いたかったが、今回は、最近取り組まれたクラウドファンディングについてお尋ねした。
里山倶楽部では、「若者や子ども達が集う“森の天空広場”に安全な水を!」とフィールドに水道を引くために、FAAVO大阪で資金調達を試み、見事に目標金額をクリアした。
なぜ、この一見地味な事業費を集めようとした理由は、ほとんどの助成金は、汎用性の高いものや私有財産になるものは対象外だからとのこと。そこで、試しにという気持ちもあって、クラウドファンディングに挑戦されたのだが、FAAVOでは手数料を20%引かれるとのこと。これは高いように感じるが、どうすれば寄附を集められるかについて、文章の書き方や写真の載せ方など、いろいろとノウハウを授けてもらえるので良かったという。
それでは、誰が寄附したのかと調べてみると、ほとんどが知り合いの知り合いまでで、ネットで見て初めて里山倶楽部を知って寄附したという人は、100人中2人に過ぎなかった。ただし、このことは想定内だったようで、知り合いにクラウドファンディングに挑戦していることを知らせるために、ネット上での宣伝だけではなく、チラシを作成して撒いたとのこと。関係者に「寄附してください」と面と向かって言うのは恥ずかしいが、「今、クラウドファンディングに挑戦しているので応援してください」とは言いやすいようだ。
このように、里山倶楽部が初めて試みた資金調達の試みから、いろいろな知見が得られる。気になることがあったら、何でも試しにやってみて、そこから考えることが重要だ。

4.世代交代

里山倶楽部もNORAと同様に、里山保全を担う若手の発掘、育成に取り組んでいる。
昨年の春期・秋期、今年の春期の3回実施したのは「森の若者応援講座」で、森や里山を志向する若者を対象に、基本的な知識や技術を伝え、その後、おためしアルバイトや起業トライアルの機会を与えるという内容だ。チラシ記載にキーワードとして、半農(林)半X、副業型自伐林業、I・J・Uターン、いなか暮らし、森で起業、パラレルキャリアとあり、近年増加しているとみられる地域に根ざした生き方を志向する若者をターゲットにしていることがわかる。この講座を受けて、現在、里山倶楽部でアルバイトをしている若者もおり、一定の成果を挙げているようである。
この講座の担当講師は全員、里山倶楽部の何らかの事業を主宰しているスタッフである。こうした講座を外部から講師を招くのではなく、内部のスタッフで実施するところに、自分たちの生き方に対するプライドを感じる。外部から著名な講師を招いて華やかな講座を開くこともできるはずだが、そのような方法は選ばず、自分たちの生き方を見せて、感じてくれた若者と一緒に、これからの社会をつくっていこうとする気概を感じた。
また、今年3月には「街のそばで…里山ライフスタイルの提案―遠くへ移住しなくてもできる、森のしごと、アート、音楽、暮らし」というイベントを実施した。これも、ターゲットは「森の若者応援講座」と同じである。
このイベントでは、「街のそば」「里山ライフスタイルの提案」「森のしごと」などがキーワードとなっているが、まさにNORAが現在取り組んでいることと重なっている。NORAのキャッチコピーは「里山とかかわる暮らしを」であり、最近力を入れているのは「まちの近くで里山をいかすシゴトづくり」だ。しかも、途中にあるコンサートでは、NORAの会員でもあるアーティストのchojiさんが出演した。場所が大阪と横浜で異なるだけで、ねらいは同じ方角を向いている。あらためて、里山倶楽部と連携を図り、情報を交換・共有しながら、プロジェクトを進めていくべきだと思った。
世代交代を話題にしているとき、寺川さんから勧められたのが年代別ワークショップである。里山倶楽部が取り組んでいることについて、世代を分けずに20-30代から意見を聞いても、上の年代が一緒にいる場では出てこない。しかし、年代別に話をしてもらうと、「何をやっているか分からない」「ダサい」というような本音が聞けるという。たしかに、若者が育つ場をつくりたいと思っても、まず生の声を聞き、彼ら/彼女らがどう成長したいのかを知ることが重要だ。大学で教えていても、学生たちの本音を聞き出せる場をつくるのは難しい。しかし、さすがに寺川さんは、いろいろな経験をされているので、引き出しが多い。このワークショップのコツだけでも、その裏には相当の試行錯誤があったことがうかがわれる。


今回は、半日たっぷり時間をいただいて、ここに書けないことも含めて、いろいろと教えていただいた。こうした聞き取りの調査結果は、これからまとめて最終的には林野庁に報告することになるのだが、おそらくあまり活用されないだろう。なぜなら、里山倶楽部と同程度の水準で、思い悩み考えていない限り、このような経験は活きないものだからだ。そうすると、このデータをもっとも活かせるのは、きっとNORAだろうと思う。

(松村正治)

雨の日も里山三昧