第69回 学生への推薦図書~10人の著作から

2016.5.1
雨の日も里山三昧

勤務先の大学図書館から、学生に読んで欲しい図書を推薦して欲しいと依頼があった。
もう3ヶ月ほど前のことだったので忘れていたのだが、
先日、図書館に入ったときに、教職員による推薦図書を紹介するコーナーがあって、
そこに私が挙げた本がいくつか並べられていたのを見て思い出した。

1)渡辺一史
(1)『こんな夜更けにバナナかよ―筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち』(文藝春秋、2003年→2011年)
(2)『北の無人駅から』(北海道新聞社、2011年)
寡作だが誠実な作品を出す北海道在住のノンフィクション作家。(1)在宅自立生活を送る重度の身体障害者に寄りそい、(2)北海道の小さな開拓史を丁寧にすくい取る。こんな作品が書けたらいいなぁと素直に思う。
 

2)小坂井敏昌
(1)『民族という虚構』(東京大学出版会→筑摩書房; 増補版、2002年→2011年)
(2)『責任という虚構』(東京大学出版会、2008年)
(1)「民族」とは何か?(2)「責任」とは何だろうか?虚構と現実を結びつけている社会的・心理的仕組みを解き明かし、「常識を疑う」という問いの重要性を鮮やかに示す。
 

3)小熊英二
(1)『社会を変えるには』(講談社、2012年)→コラム>第38回
(2)『生きて帰ってきた男―ある日本兵の戦争と戦後』(岩波書店、2015年)
(3)『単一民族神話の起源―「日本人」の自画像の系譜』(新曜社、1995年)

今、国内でもっとも読まれている社会学者の著作から3作を選んだ。(1)社会運動、(2)個人史、(3)知識人の言説に焦点を当て、日本社会を問う。『<民主>と<愛国>』『1968』など厚い本が多いけれど、記述は平易で読みやすい。
  

4)見田宗介
(1)『現代社会の理論―情報化・消費化社会の現在と未来』(岩波書店、1996年)→コラム>第17回
(2)『定本 見田宗介著作集Ⅰ―現代社会の理論』(岩波書店、2011年)

(1)は現代社会を明晰に分析して、すでに古典となった名著。(2)には(1)の増補版にくわえ、「現代社会はどこに向かうか」が収められている。見田社会学の面白さに目覚めたら、見田宗介=真木悠介の15巻からなる著作集(岩波書店)が待っている。
 

5)石牟礼道子
『苦海浄土』(講談社、1969年→2004年; 新装版)
『苦海浄土(池澤夏樹=個人編集 世界文学全集第3集)』(河出書房新社 、2011年)

公害病を代表する水俣病をあつかった古典。患者さんが乗り移ったかのように、作家・石牟礼道子がもだえながら紡ぎ出す言葉の鋭さ、深さ、美しさ。読みやすいとは言えないが、世界的文学によって誘われる世界を体験してほしい。
 

6)宮本常一
『忘れられた日本人』(岩波書店、1984年)

生涯にわたり日本各地を歩き、フィールドワークを続けた民俗学の巨人。非常に多作なので、とりあえずの1冊を選んだ。『私の日本地図』『あるくみるきく双書』などのシリーズも楽しいし、50冊に及ぶ著作集(未来社)もある。

7)内山節
『共同体の基礎理論―自然と人間の基層から (シリーズ地域の再生2)』(農山漁村文化協会、2011年)→コラム>第56回
『内山節著作集15―増補 共同体の基礎理論』(農山漁村文化協会、2011年; 増補版)

かつて、人びとは関係性が濃密な村落共同体を嫌がり、都会の自由に憧れた。しかし、今はコミュニティ、絆が大事だという。私たちは新たな共同性をつくれるのか。人と自然の関係性を、やさしい言葉で深く考える内山哲学の1冊。15冊の著作集(農山漁村文化協会)もある。
 

8)守山弘
『自然を守るとはどういうことか』(農山漁村文化協会、1988年)→コラム>第1回

自然を守るとは、人間が手を加えないことなのか?人と自然を切り分けて自然を保護する考え方に対して、人と自然の関係を結びなおす守り方を主張。日本の里山、雑木林の価値を復権させた自然保護思想における古典。

9)マイケル・ポーラン
『雑食動物のジレンマ』(東洋経済新報社、2006年=2009年)→コラム>第47回

著者は、食や農に関して鋭く問題を指摘し続けるアメリカの著名なジャーナリスト。雑食動物たる人間は、何を食べるべきなのか?という問いに答えるために、食の流れを大地から食卓まで追跡取材したベストセラー。彼の著作からは目を離せない。
 

10)矢部宏治
『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』(集英社インターナショナル、2014年)→コラム>第61回

このタイトルのような疑問を持っているならば、ぜひ読むべき。本書は、多くの史料に基づいて止められない理由を説明し、さらに現状を打開するための代替案を示している。日本が米国に負けた「敗戦国」であることの意味をよく理解できるだろう。

(松村正治)

雨の日も里山三昧