第二十五話 低地を流れる ~便利な土地は危険も多い~
2015.9.30水の流れは絶えずして
今年の夏は、耐えがたかったほどの暑さが8月下旬に急速に静まり、9月は各地で土砂崩れや洪水被害を多く発生させるほど雨の多い年でした。被害に遭われた方には、心よりお見舞い申し上げたいと思います。
今回は、洪水が起こりやすい低地について、お話ししたいと思います。
谷戸を出た水の流れはやがて海に。都市の中を緩やかに流れる川と水辺は、人々に安らぎや潤いをもたらしてくれます。どこかの環境コピーのようですが、実際NORAの近くを流れる大岡川の桜並木などは、はまどまに来る途中に、ちょっとよりみちをしたくなる空間だと思います。しかしこの「緩やかに流れる」と云うことが、じつは大きな危険を予期しているのです。
日本の自然環境を表現するときに、国土の約2/3を森林が占め、先進国でも有数の森林資源に恵まれた国、ということを聞いたことがあると思いますが、言い換えれば人が住める場所が1/3しかないと云うことにつながります。
もう少し詳しく見てみると、国民の82.9%が標高100m以下の土地に住んでいて、このエリアは国土に対する面積の割合は26.8%であるとい数字が、国土技術研究センターのホームページに掲載されています。
この標高100m以下の土地の多くは、丘陵・台地・低地で構成されますが、この中でも低地は地形が平坦なことや、海や舟運可能な河川に面していることから新たな市街地が形成されやすく、丘陵・台地の多い横浜では、開港以降に市街地の中心部となって来たところです。
横浜周辺の地形 青い部分は低地 海沿いの低地から都市ができはじめた
しかし、谷戸から出てきた河川の勾配が急に緩やかになる低地は洪水が起こりやすく、地盤が形成されてからの歴史が約2万年から1万年と浅いために地盤沈下の発生や、地震時の揺れが台地や丘陵に比べ揺れが大きくなる傾向にあります。
昔から低地に住んでいる人たちは、洪水との戦いがあったと云われますが、それでも洪水の起こりにくいところをちゃんと知っていて、家を建てる場所を選んでいました。
話はかつて私が仕事をしていたバングラデシュに飛びますが、ここでは雨季には国土の2/3が水の下に沈むと云われています。しかし、昔からの集落は自然堤防という、河川がつくった高まりにつくられ、雨季でも水に沈むことは滅多にありません。
乾季のバングラデシュ 濃い緑の部分が集落が形成される自然堤防
雨季のバングラデシュ 自然堤防上の集落を残して水没する
(写真は上の場所とは異なります)
日本に限らず、昔の人は、何処が危険で何処が安全かを生活の中から知っていたのです。
余談ですが、私の自宅は、標高60mの丘の上にあり、洪水の心配はないのですが、帰宅時には標高差40mを毎日登らなければならず、一汗”かいています。