寄り道66 頭の中の棚卸し
2024.1.1雨の日も里山三昧
先月、急な山道を歩いているとき、右足ふくらはぎの肉離れを起こした。
肉離れ初めてのことで、何の前ぶれもなかったし、斜面地で里山保全作業することは珍しくないので、なぜけがをしたのか納得がいかなかった。
もっとも、けがや事故の多くは、こんなふうに突然襲われるものかもしれない。
けがをした理由、その最大の要因は、年をとったことだろう。
年を重ねて、さまざまな機能が衰えていくことは、生物として自然ななりゆきだから、逆らおうとは考えずに受け入れたい。
だから、自分の身体が動くうちに、頭の中で考えていることを1つでも具体的に実現したいと思う。
そのためには、価値観や方向性を共有できる人とつながって、力を合わせてかたちにしたいので、今回のコラムは、自分の頭にあるものを棚卸しする機会とする。
まず、現在かかわっている活動を、思いつくままに書き出してみる。
NPO法人よこはま里山研究所(NORA)は、「里山とかかわる暮らし」をすすめ、里山の自然と文化をいかし、人びとの暮らしの質を豊かにしようとしている。
私は団体を統括する理事長という立場にあるが、実際には事務局長的な役割を担っている部分が大きい。
月1で開催するスタッフ会議(運営連絡協議会)の議題整理、会議運営、議事録作成。
月1で発行しているメールマガジンの編集、配信。コラムの執筆。
NORAに連絡してくださった方の個人情報の整理、会員情報の登録・更新。
法人全体の会計データの管理、税理士さんとの相談。
ウェブサイトの管理、SNSの運用。専門家との相談。
企業や学校など外部からの問合せに対する対応。
組織的な課題の検討、新しい活動や制度などの企画。助成金・補助金の申請。
ほかに、担当プロジェクトの運営など。
NORAでは、活動拠点「はまどま」(横浜市緑区宿町)を「街なかの里山の入口」として、自立的な運営を目ざす活動をすすめているが、コロナ禍の中断もあって道半ばである。
また、スタッフの高齢化も徐々に進んでいるので、「はまどま」の活用を手がかりに人びとが緩やかにつながり、NORAの実績やネットワークを多くの人に生かして欲しいと願っている。
モリダスは、NORAからスピンアウトし、多摩で里山保全にかかわっているメンバーと2018年5月に立ち上げた団体で、森づくりや里山保全をすすめる人材育成を目的としている。
私はこの団体でも代表を務めているが、ここでも事務局長的に動いている。
スタッフ会議の運営事務、ウェブサイトやSNSなど広報、会計データの管理、
助成金の申請と報告書の作成など、バックオフィス全般を担当している。
また、モリダスではNORAと違って、主催事業のほぼすべての企画運営を担っている。
モリダスとして、これまで5年間にわたし活動を実施してきたが、従来通りの人材育成のやり方には限界を感じている。
今後は、各地で人材育成に取り組んでいる実践者と連携しながら、目的の実現に向けて一から考え直したいと思っている。
NORAの担当プロジェクト「城山里山サポーター」では、高齢化が進む小松・城北地区(相模原市緑区旧城山町)の農地管理・里山保全に、地区外から有志が協力する仕組みづくりをすすめている。
当初は、地域団体である小松コスモス会、「小松・城北」里山をまもる会の活動を直接的に応援しようと考えていたが、活動の進め方に違いあることがわかったので、現在は、サポーターも自主的な活動場所を見つけて、里山再生活動に取り組もうとしている。
このプロジェクトでは、イベントの運営の他、事務作業として、事業計画と予算の検討、資金調達、広報(サイト「城山コネクト」の管理を含む)、連絡調整などをおこなっている。
Life Lab Tamaは、恵泉女学園大学につながりのあるメンバーで2021年7月に立ち上げた団体で、アグロエコロジーの考え方と米国のLife Labの教育実践を参考にしながら、多摩地域を起点に持続可能なコミュニティづくりをすすめている。
Life Lab Tamaでは副代表・事務局長という立場で、団体の運営事務全般を担当している。
また、鎌倉街道小野路宿ふるさとの森(町田市小野路町)として指定されている谷戸景観を守るため、田んぼで米を作り、月2回は雑木林・竹林に手を入れる活動をおこなっている。
2023年3月に恵泉女学園大学が学生募集停止を決めたことから、現在は大学が地域と連携しながら取り組んできた活動実績やネットワークについて責任を持って継承するために、法人化に向けて動いている。
未来の街路花壇を考える会も恵泉つながりの団体で、持続可能なコミュニティガーデンを広げることを目的としている。宿根草や多年草を生かしたり、自生する植物の種を採って花壇や庭園で育てたりするコミュニティをつくろうとしている。
科研費の研究プロジェクトとして始まったため、研究費がなくなって以降の活動は停滞気味であるが、個人的にはもっと活動に力を入れたいと思っている。
この団体では特に役職がないものの、組織運営について考えて動かす役割を担っている。
一般社団法人時代アジアピースアカデミー(NPA; New Era Asia Peace Academy)は、社会課題を扱う市民民向け講座を開催して、多様な個人・地域・海外を結ぶ新しい時代の学びのネットワーク。これも恵泉の関係者から誘われて参加しているが、ここでは法人の運営に直接的にはかかわっていない。
NPAでは、環境をテーマにした講座の企画・コーディネートを担当しており、1期3か月(隔週開催で全6回)の講座を1年間に3期分開催する。2021年3月から3年間続けてきたので、これまで約50人のゲストを迎えたことになる。
さいわい、企画内容やゲストの人選については任せてもらえているので、私が話を聞いて見たい人をお招きできるのがありがたい。
最近は、「環境運動のパブリックヒストリー」と題して、環境運動の経験を記録し、その歴史を誰ひとり取り残さない環境づくりに生かす活動として講座を企画運営している。
カネミ油症被害者支援センター(YSC)は、カネミ油症の被害者を支援する団体で、コロナ前からかかわっていたが、運営委員になったのは大学を辞めた2020年からである。
YSCでは、被害者支援をすすめるには、この食品公害の経験を広く伝える必要があると考え、ウェブサイトの管理、SNSによる情報発信など、広報関係の活動を引き受けている。
近年、カネミ油症に関しては被害者運動の中心が私と同世代の2世に移りつつあるため、YSCの活動にかかわることが公害経験の継承についておのずと考える機会になっている。
NPO法人森づくりフォーラムでは、運営委員・理事を務めている。
また、この法人が受託する事業(公益社団法人国土緑化推進機構に関連する事業が多い)のうち、調査研究や執筆などを個人事業の仕事として引き受けている。
近年は、そうした仕事を通じて、企業やNPO等が協働して森づくりをおこなう仕組みづくりについて考える機会が増えている。
NPO法人樹木・環境ネットワーク(聚)では、町田市からの受託事業として、「まちだみどり活用ネットワーク」の事務局運営を担当している。
このネットワークは、町田市内の公園・緑地・里山・農地など、さまざまなみどりを活用していくため、事業者・NPO・農業者・行政などが連携し、2023年4月に設立した。
2023-25年度の3年間は、町田市が事務局運営にお金を出すものの、その後は自走することが求められているので、今年度からネットワークを広げつつ、自主事業の開発や資金調達方法の検討など、そのための仕込みを徐々におこなっている。
里地里山×まちづくりラボ(里まちラボ)は、横浜国立大学の佐藤峰さんに誘われて連携研究員として参加しているプロジェクトで、神奈川県県西地域の高齢化や獣害などの地域課題の解決をめざすものである。2023年度は、小田原市・南足柄市の移住者や二拠点居住者にインタビュー調査をおこなったり、ワークショップに参加したりして、里山ビジネスを手がかりに課題解決に取り組む可能性と課題を考える機会となっている。
自治体等から委嘱されて委員を務めているものがいくつかある。このうち、横浜市ではよこはま夢ファンド(市民活動推進基金)とヨコハマ市民まち普請事業それぞれを扱う委員を務めている。
前者は、ふるさと納税制度を活用し、横浜市内にNPOを指定して寄付できる制度であるが、ちょうど大きな見直しの時期に当たっているので、公共性とは何かという本質的なテーマについて、担当する行政職員の方やほかの委員の方と議論するよい機会となっている。
また、この助成制度に関連して、NPOの組織基盤の支援にも直接かかわることができ、中間支援や伴走支援のあり方について考える機会をいただいている。
後者は、まちづくりをすすめるハード整備に対して最大500万円を補助する制度であり、2回の公開コンテストを審査するために、おのずと緊張感を持って取り組むことになる。
まだ審査にかかわって3年目だが、採択された拠点づくりの提案にお金がついて、実際に運営されているのを目の当たりにすると、責任の重さを痛感する。
提案事業が具現化されたことは喜ばしいことであるけれども、それにかかわる人の運命を大きく揺らがすことにもなっている。
だから、採択された提案事業に対しては、ひとごとではいられない感じがする。
そうしたリアルな感情が湧き起こることもまた、大事な学びであるけれども。
これらのほかに、軽めのサークル的な活動として、環境NPO運営スタッフ懇談会がある。
これは、環境NPOの運営スタッフが、月に1回オンラインで集まり、自分の経験について率直に語り合い、自主的に学び合う場であるが、コロナ禍の2000年夏に始まり、3年以上続けてきた。
同様に軽めの活動として、南房総でまちづくりをすすめている人たちと2~3週間に1回くらいの頻度で、LINEでの読書会に参加している。この読書会では、地域活性化の現状や課題などが取りあげられることが少なく、意外にも人文系の古典的な名著を多く読んでいる。
2023年度は大学での非常勤講師を、恵泉女学園大学で「環境社会学」「現代社会論」の2コマ、立教大学大学院で「社会学特殊研究」、上智大学で「環境の社会学」、法政大学で「都市の環境問題」を1コマずつ担当している。
2024年度は、上智大学の授業が隔年なのでなくなるが、代わりに国立の大学院で授業を担当することが決まっている。
ベーシックインカムを得るために大学の非常勤講師を辞められないが、講義することよりも学生たちと対話をしたいので、大人数を相手にする授業はあまりやりたくはない。
講義形式の授業を担当する場合、学生に書いてもらうコメントをもとに講義内容を補足したり、自分の意見を述べたりする時間が多くして、私自身が考える時間を増やすようにしている。
こうした活動をルーティン的にすすめながら、その合間に調査研究に取り組んでいる。
現在頭を悩ませているのが、シリーズ環境社会学講座(新泉社)第4巻の編集である。
私が怠けているせいもあって計画通りに進んでおらず、挽回しなければならない。
コミュニティをテーマにした科研費プロジェクト(代表:宮内泰介さん)に参加しているが、私の調査研究はあまり進んでいない。
そんな状況でありながらも、西表島の環境/開発史、多摩ニュータウンの住民運動史、カネミ油症被害者のライフヒストリーをまとめるといった長年の宿題に先に取り組みたいと思っている。
以上、現在取り組んでいることを書き出してみたが、あらためて、これらを眺めて気づいたこと、特にこれからやりたいこと、やめたいことを整理してみよう。
私の調査研究や社会実践の中核的な目的は何かと考えてみると、それは自分が自分を生きること、人びとがそれぞれの自分を生きることをすすめることにある。
つまり、自由になるための学びであり、リベラルアーツ教育ともいえる。
私が大学の教壇に立ち、NPAの講座を企画コーディネートするのは、まさにこの目的に合致しているからであるが、ほかの活動にかかわる理由も同様である。
私は活動を展開するプロセスを通して、自分や仲間、活動の対象者が自由になるための学びがあると考えている。
たしかに、自由になるための学びの場を作りだせていないケースも少なくない。
しかしそれでも、私たちが生きる現代社会には、まだまだ自由になるための学びが足りないと思っているので、機会をとらえて、そうした学びの場をつくっていきたい。
つぎに、自由になるための学びの場には、何が必要なのだろうか。
私は、それが対話だと思っている。
それは、他者との対話、自然との対話、そして、自分との対話である。
自分が自由になるためには、自分を理解することが必要である。
そのためには、他者との違いを理解することが必要である。
さらに、人間よりも自然の方が圧倒的に優越しており、人間は自然の恵みや循環の仕組みをうまく生かすことで、生かされることを理解する必要がある。
そして、他者との対話、自然との対話を通して学びのポテンシャルを高めるには、多様な他者、多様な自然とふれ合う機会が重要だと信じている。
私が里山保全運動にかかわっているのは、生態系の保全それ自体に価値を置いているからではなく、究極的には私たちが豊かに生きるためである。
私たちが自由に生きるために、どのような社会をつくり、どのように自然と付き合うのがよいのだろうか。
この私が抱える切実な問いに対して、実践を通して一緒に考えてくれる人と連帯したい。
しかし、これから先に進んでいくには、私はもう手一杯である。
バックオフィス業務にかけている時間や手間が大きすぎる。
この部分については、外部の専門家等のアドバイスをいただきながら、2024年にはICTの活用や分担などによって、私のコアにかかわる仕事に集中できるようにしたい。
また、いくつもの組織にかかわっていることで効率化を図れないこともあるので、一部にはM&A的な発想も必要かもしれない。
最後に、NORAの2023年活動報告の表紙に書いたメッセージを転載する。
これは、私個人の気持ちであり、今後の方向性を表現していると思うからである。
ロシアのウクライナ侵攻が長期化するなか、イスラエルによるガザ侵攻も始まり、毎日多くの命と暮らしが犠牲となっています。コロナ禍が落ち着いてきたものの、とても穏やかな気持ちではいられません。また、原油高・物価高によって、多くの人びとの仕事や暮らしが厳しい状況に追いこまれています。このような状況でも、NORAは「里山とかかわる暮らし」を提案し、実践し続けています。「はまどま」では、2023年6月から2代目コーディネーターが入り、居場所づくり、担い手づくりをすすめています。多様な人びととともに、多様な自然と日常的に関わることは、他人との対話、自然との対話、そして自分との対話を促します。平和をつくるためには、もっと世界に対話が必要だと信じています。
ここに書いた自分の信念をもとに、小さくても構わないので、納得できるかたちの社会と自然をつくりだしたい。
(松村正治)