第126回 『ケアするのは誰か?』

2025.2.1
雨の日も里山三昧

本書は、フェミニズム政治理論を専門とするトロントの講演録である。
比較的薄い本なので、重厚な議論を期待する向きには物足りないかもしれない。
しかし、本書の魅力は、この「問い」(英語ではwho`s care?)に対する著者の考えよりもむしろ、この問いそのものだと思う。
社会のいたるところで「ケアをするのは誰か?」と問いかけてみると、そのように問う以前と比べ、景色が違って見えるようになるだろう。

本書では、家事や医療や介護などのケアの多くを女性たちが引き受けていること、その役割分担を当然のように受け止めている社会のあり方が政治的な問題として指摘される。
この社会を維持するために不可欠なケアは、この社会を構成する人びとの間で、いびつなかたちで分担されている。
しかし、そこに疑問を感じることは少なく、政治的なテーマとして扱われずに置かれてきた。
本書が掲げる問いには、このケアをめぐって隠されてきた問題性を引きずり出し、社会の見え方を変えてしまう破壊力がある。

もっとも、ケアをめぐる問題はジェンダーバランスだけに留まらない。
私たちが生きる環境、自然のことまで、ケアする対象を広げて考えてみると、それを担っているのが農山漁村、一次産業の従事者に偏っていること。
さらに、そうした分担を当然のこととして見なしていることも、ジェンダーと同様に問題ではないだろうか。

{執筆中}

(松村正治)

雨の日も里山三昧