寄り道59 プロボノと参加型デザインツールで団体紹介資料を作ってみた:a-con×NORA+Canvaプロジェクト

2022.12.1
雨の日も里山三昧

先日、NORAからのメッセージ15枚のスライドにまとめてリリースした。
タイトルは「Find My Satoyama」

自然に関心はあってもきっかけがない、行動に移せないという人に向けて、自分の里山を探してみましょうとお誘いするとともに、「里山とかかわる暮らし」をすすめるNORAの活動について紹介している。
このスライド制作プロジェクトはとても刺激的だったので、ここであらためてプロセスを振り返り、学んだことを整理してみる。

プロジェクトチームは、a-con(NPOコミュニケーション支援機構)によるNPO支援プロジェクトの一つとして7月初旬にキックオフし、4ヶ月近くかけて10月下旬に成果品を完成させて終了した。
今回のプロジェクトに参加してくださったプロボノの方々は5名。
プロボノとは仕事上のスキルや経験をボランティア活動に生かしてくれる方々だが、今回は広告代理店にお勤めのTさんがプロジェクトリーダーを引き受けてくださり、介護現場で働きグラフィックレコーディングが得意なNさん、メーカー勤務で兵庫県在住のKさん、a-conのスタッフ経験もある八丈島在住のSさん、横浜市内で子ども向けに自然体験活動をおこなっているOさんが参加、NORAからは私のほかにデザイナーのSさんが加わった。

プロボノメンバーは、Oさんを除き、里山については聞いたことがあっても、その価値については深く考えたことがなかった方がほとんどだった。
しかし、今回のメッセージを届けたい先は、自然保護や里山保全にドップリ浸かったディープ層ではなかったので、むしろ、かかわりの浅さを強みとして生かせたと思う。
今回制作するスライドのターゲットとプロボノメンバーは重なるので、これまで里山について考えたことがない人に対してどうすれば興味を持ってもらえるのかという課題に当事者として考え、熱心に取り組んでいただいた。
たとえば、話を聞くだけでは実感できないことがあるからとNORAの定例活動に参加して、その体験をもとに一人の参加者の視点からNORAの魅力を表現してくださった。
その視点の取り方や表現方法はNORAのスタッフにはないもので、私の目には新鮮に映り、物事を多視点で捉えることの重要性に気づくことができた。

また、今回のプロジェクトでは、目標を掲げて計画を立て、その方針を抱えながら粘り強く話し合いを重ね、一つひとつタスクをこなしてゴールにたどり着くことができた。
これまでの経験や持っているスキルもバラバラなメンバーであり、また、それぞれが仕事を抱えながらの取り組みだったので、このプロジェクトの進行を管理するのは大変だったと思う。
それでも、プロジェクトリーダーのTさんは、工程表を横目で見ながら、話し合いやすい和やかな雰囲気を作り出し、メンバーの多様性を生かすように議論の発散/収束の強弱を付けて、プロジェクトをしっかりとゴールまで導いてくださった。
このしなやかで強い牽引力は、ミーティングを重ねるたびに、それも完成が近づくにつれてますます発揮されるので、感心しきりであった。
もちろん、ほかのメンバーも、それぞれの個性を生かしていただき、Nさんは活動体験を通した実感の大切さを教えてくださるとともに目を見張る素晴らしいグラフィックレコーディングで場を盛り上げ、Kさんはフラットな視点から里山を見つめて見えること感じられることを率直に伝えてくださり、SさんはNORAが大事にしている視点や価値を理解しようと努めながら与えられたタスクに心を込めて取り組んでいただき、Oさんはご自身の活動経験をもとにNORAメンバーが表現できていなかった部分を補ってくださった。

約4ヶ月の間に8回のミーティングをおこない、終盤は話し合いが夜遅くまで及ぶこともあったが、毎回、メンバーの真摯に取り組む姿勢や成果物を良くしようとする忌憚のない意見に心が動かされた。
今回に限らないが、プロボノの方々と一緒にプロジェクトに取り組むと、世の中捨てたものではないと強く感じる。
これは成果品を作ることに勝るとも劣らない財産となる。

ところで、今回はプロボノとの協働プロジェクトであったことのほかに、Canvaというクラウド型のデザインツールを使ったという特徴があった。
そもそも、このプロジェクトを始めることになったのは、私がa-conのオンラインイベントでCanvaの使い勝手が良くなったことを知り、これをNPO支援に活かしたいと考えたa-con代表の加形拓也さんと、
試しに使ってみたくなった私がそのときにやりましょう!と盛り上がったからであった。
つまり、最初からこのプロジェクトではCanvaを使うことが決まっていたのである。
特に今回は、小さなNPO向けに数多くのデザインを提供しており、NPO界におけるCanvaの伝道師的な役割も果たしている林田全弘さん(NPOのためのデザイン)がアドバイザー役としてスポット的に参加してくださることにもなり、バックアップ体制が充実していた。
このため、今回のプロボノメンバーの中には、里山よりもCanvaに関心があり、実際に自分でも使ってみたくて参加したという方がいらっしゃった。
しかし、この参加動機の多様性は、プロジェクトにとってマイナスではなくプラス要因として働いたと考えている。

CanvaがNPOにとってありがたいのは、年間10万円ほどかかるサービス(Canva for Teamsを10人で利用した場合)がCanva for NPOに申し込むと無料で受けられることだ。
申込み方法は簡単で、登記簿謄本や履歴事項全部証明書が手元にあれば、ネット上で手続きができて、しかもすぐに承認される。
また、Canvaにはさまざまなテンプレートや素材が揃っているので、ノンデザイナーであっても、そこそこ格好良くデザインできる。
さらに、今回のようにチームでデザインするときには、参加型デザインツールとしての機能が十分に発揮される。
Canva for Teams というアプリの名前の通り、Googleのドキュメントやスプレッドシートと似たような感覚で、手分けをしながら一つの作品に取りかかるには打って付けであった。

Canvaの歴史は比較的新しく、2013年にオーストラリアで生まれた。
Canvaのミッションは「全ての人がどこからでもデザインで輝けるようにすること」で、今回制作したスライドだけでなく、チラシ、名刺、動画、ロゴ、バナーなど、さまざまなデザインを簡単に作成できる。
私は2年前にCanvaでロゴを作ったことがあったけれど、そのときはあまり使えないという印象を抱いた。
しかし、その後、凄まじい勢いでアップデートを重ね、日本語フォントも一気に増え、参加型デザインツールとしての機能が飛躍的に充実した。
成長するウェブサービスでは、2年前のことが昔話になってしまう。
オンラインでワークショップを開きながら、参加型でデザインするには格好のツールである。
このツールを無料で使えるならば、使わない手はない。
少なくとも一度は試してみる価値はあるだろう。

a-con×NORA+Canvaプロジェクトが終わり、プロジェクト期間中の熱も引いて冷静に振り返ってみたが、キックオフからゴールまでのプロセスが、あらためて愛おしく感じられる。
もっとも、短期のプロジェクトとはだいたいそのようなもので、良かったこと、楽しかったことばかりが思い出され、記憶に刻まれる。
それは、賑やかな歓声に包まれた祝祭の後のようだ。

しかし、このプロジェクトメンバーとして、ただプロセスに自己満足していてはいけない。
このプロセスを、さらに意義あるものにするのは、これからである。
今回は、スライド「Find My Satoyama」をSNS等で広報・周知することにより、NORAウェブサイト内の参加ページへの流入を20%増やすという目標を掲げている。
参加してくださったメンバーの労力やお気持ちを生かすために、この目標達成に向けて動いていきたい。

今回のプロジェクトでお世話になった皆さんへの感謝を込めて。

(松村正治)

雨の日も里山三昧