寄り道12 NPOにとってのプロフェッショナルとは
2013.11.1雨の日も里山三昧
先日、横浜市市民活動支援センター主催の
「プロのNPOをつくる7の講義」で話をする機会がありました。
与えられたタイトルは「組織を”リ”デザインする」。
主として、2008年におこなったNORAの改革を説明するとともに、
組織運営に関するNORA流の方針・構えを話しました。
今回のコラムでは、その時に話したことを再構成して、
NPOにとってプロフェッショナルについて考えていることをお示しします。
今からちょうど5年前の2008年、NORAは組織改革を進め、
設立当時の段階とは異なるセカンドステージに立つという決定を下しました。
その約2年前から、行政からの受託事業に頼る従来の運営方法が限界に達し、
目前の仕事に忙殺されて、組織として何を目指すのか、
その目標が達成されているのかなどを確認できないまま過ごしていました。
事務局スタッフは、この問題を承知しながらも省みる余裕がなく、
理事もまたミッションと事業内容を照らし合わせて確認することを怠っていました。
こうした問題を抱えていたところに、入札制度の見直しや、
中心スタッフの体調悪化等により受注額が低下し、経営も悪化していきました。
そこで、2年連続で大幅な赤字を出したことを契機に、
組織運営のあり方を考え直すことになりました。
それまでは少数の常勤スタッフの熱意と専門性を生かし、
とにかく突っ走ったという印象がありました。
しかし振り返ってみると、そうした体制が、
ときに独善的に事業を進めてきたようにも思えました。
このため、次の段階へと確実に足を進めるためには、
活動の規模やスピードを身の丈に合わせる必要があると認識しました。
そして、今までの活動で培った経験、人とのつながり、
さまざまな会員の知恵や技などを広く生かしながら、
あらためて里山を舞台に、NPOとして自律しながら
活動を展開していくことに決めました。
法人設立以後、比較的固定していた役員の顔ぶれを一新するとともに、
常勤スタッフも置かない決断をしました。
一方で、会員の発意でプロジェクトを立ち上げやすくして、
実質的に運営に関わる人びとの数を格段と増やし、
多くの会員が当事者意識を持ってNORAのことを考えられるように変革しました。
また、もっぱら常勤スタッフの働く事務所であったスペースは、
里山の入り口として親しめるよう「はまどま」(ヨコハマの土間)と名づけ、
多彩なイベントを開催することになりました。
このように、従来の運営体制や事業内容を全面的に再考する中で、
2008年6月から「里山と暮らしをつなぐメールマガジン」を毎月発行し、
10月にはホームページをリニューアルしました。
こうした組織のリデザインを進める上で、私が大切にしていたことは、
里山をモデルとした持続可能性と多様性です。
これについては、1年前のコラムで書いたことがあるので、ここでは詳述しません。
(→寄り道11 持続性と多様性を重視した社会へゆっくり急げ)
ただし、私が念頭に置いている持続可能性のモデルを示しておくことは、
NORAの活動を理解する助けになるかもしれません。
一般に、持続可能性をはかる指標としては、環境・経済・社会の3つがあります。
このときの社会とは、環境・経済と比べてわかりにくいかもしれませんが、
最近のはやり言葉である「ソーシャル」、平等の理念を示しています。
つまり、NORAが持続可能性を重視するとは、経済のみに傾きがちな運営に対し、
環境と社会も(を)重視するという意味があります。
したがって、事業を自己評価する場合、収益性を気にすることはもちろんですが、
環境という観点、たとえば、生物多様性や木材の有効活用なども大事ですし、
社会で力を発揮できない人びとを巻き込み、エンパワメントすることも重要です。
たとえば、ストレスの多い会社で疲れた人が、川井緑地で野外活動に励んだり、
「はまどま」に来て「同じ釜の飯を食う」経験をしたりして元気を取り戻し、
社会で力を発揮できるようになることは、非常に価値があると考えています。
講義の時には、「組織を運営するうえで大切にしていること」を列挙しました。
以下に、そのエッセンスをまとめると次のようになります。
○多様な人びとにとっての居場所・・・経済的な価値は少なくなったものの、
持続可能性と生物多様性が高い里山をモデルにした組織運営を目指しています。
あえて選択と集中をしないことで、競争社会で生きづらさを感じている人にとって
のコミュニティづくりにも努めています。
○人が育つ場/踏み台・・・NPOで食べていくことにこだわらず、NORAという
組織の拡大にもこだわりません。NORAとの交わりを通して、里山とかかわって
仕事をする人が増えればいいと考えています。実際、NORAのスタッフは、自営的な
仕事をしている人が多く、NORAから給料を得ているわけではありませんが、
里山と濃密に関わって仕事をし、生活している人が多いのです。
○自立した個人による連帯・・・「雇う-雇われる」の関係を最小化して、
対等な個人の集まりであることを自覚するようにしています。スタッフには
経済的な自立を求め、その上で、NORAで何ができるかを考えていただきます。
○個人のために利用される組織・・・NORAは、スタッフが仕事をする上で
利用できる看板であってよいと捉えています。これまでのNORAの実績、信頼、
ネットワークなどを生かして、事業を実施することを推奨しています。
言うなれば、NORAは里山と関わる暮らし・シゴトをしたい会員の中間支援を
する組織とも言えるでしょう。
○ライフワークを見つける・・・活動をライフワークとするためには、無理して
働いて続けられなくなるやり方ではなく、持続可能な方法を見つけることが大事だと
考えています。一人で抱え込まず、辛くなったらやめてよいというスタンスです。
里山とかかわる暮らしを継続し、生活の質を充実させることも大切な実践活動と
捉えています。
こうしたことを説明した上で、最後に話をしたのは、
この講座のタイトルとも関係していることで、
NPOにとってプロフェッショナルとは何か、でした。
NORAの場合、給料を得て働いているスタッフは1人もいないので、
プロ=職業という意味にとるならば、プロのNPOはいないことになるので、
この問いに答えることはできなくなります。
しかし、NPOにとってのプロフェッショナルを、
職業と切り離して考えることはできると思います。
原義上、NPOは、市場-国家-市民社会のうち、
市民社会によって支えられることを目指す組織だと言えるでしょう。
(企業は市場に、行政は国家に対応)
ここで、市民活動とは、市民が活動することに意味があるのではなく、
活動を通して市民社会をつくっていくことに価値があるはずです。
すなわち、市民活動とは、たえず市民社会をつくること、
社会的な観点を重視して市民をエンパワメントし続けることを通して、
市民活動たりえるのでしょう。
同様に、NPOは、NPOであることに意味があるのではなく、
たえず市民社会に支えられ、市民社会をつくっていくNPOに
なろうとし続けるときに、NPOたりえるのだと思います。
そして、そのような活動を自覚的に続けることが、
NPOにとってのプロフェッショナルだと考えています。
NORAがプロフェッショナルたりえているかと問われると・・・、
至らないことがいくつもあるでしょう。
そのためには、もう一段階ステージを上げる必要があると思います。
すると、次はサードステージ(第三舞台)。
鴻上尚史さんを招いて、芝居でもやりますか。
(松村正治)