第38回 『社会を変えるには』(小熊英二)
2012.9.1雨の日も里山三昧
小熊英二『社会を変えるには』(2012年、講談社現代新書)
先日、「社会が変わるべき今、社会をどう変えるか?」というタイトルで、
高校生を相手に話をする機会がありました。
これは、高校生に向けた投げかけであると同時に、
私自身が今まさに考えている問題でもありました。
もちろん、この問いの背景として、
昨年生じた東日本大震災と福島第一原発事故がありました。
しかし、それ以前から、少なくとも会社を辞めた1990年代後半には、
こうした問いを強く抱えていました。
社会を変えたい。
振り返れば、そういう気持ちがあったから、
市民活動・NPOに関わるようになったのでしょう。
しかし、私には、これまで「社会を変えたい」と、
声高に主張した記憶がありません。
そういう思いを抱えたまま何もできなかった人びと、
何も変わらなかった社会をいくつか見てきたので、
言うよりも、やって見せることが大切だと思ってきたのです。
その考えは、今でも変わりませんが、
3.11以降はこれまでよりもストレートに声を上げ、
言葉にして表現した方がよいと考え直しました。
脱原発に関するデモの拡がりも、
そういう気持ちを後押ししてくれました。
「社会を変えたい」と思っている人が大勢いるならば、
その声を重ねて社会に届けたい、
その力を合わせて社会に働きかけたい。
今はその時期でしょうし、
これから、ずっとそういう時期なのだろうと思っています。
そんなことを考えているときに出版されたのが本書です。
わざわざ言うまでもありませんが、
著者の小熊英二さんは、『民主と愛国』『1968年(上下)』など、
とんでもなく分厚い本を書くことでよく知られています。
本書も新書としては517ページと厚めですが、
学生あるいは社会人向けの講義のような語り口で
丁寧にわかりやすく書かれています。
日本現代史、社会運動論、社会理論・思想などの広い範囲を、
一通り知ることができるように配慮されています。
そして、全体を通して読むと、
社会学的なものの見方・考え方を理解できるようになっています。
もちろん、これらの分野について深く理解するためには、
より専門的な研究や原典に当たる必要がありますが、
社会を考えるための見取り図を得ることができるのでお勧めです。
社会を変えようと日々動いている市民活動・NPO・NGO関係者はもちろん、
今の社会に対して考え、何かアクションを起こしたい人びとにとっては、
読んで損をしない本だと思います。
また、ぜひ若い人に読んでほしいと思っています。
現在の彼(女)らの状況を、日本社会の歴史に位置付けて、
冷静に把握した上で、考え行動してほしいからです。
この本を読んだ若い人たちと一緒に
「社会を変えるには」を考えられればと思っています。
本書の構成は次のとおりです。
第1章 日本社会はいまどこにいるのか
第2章 社会運動の変遷
第3章 戦後日本の社会運動
第4章 民主主義とは
第5章 近代自由民主主義とその限界
第6章 異なるあり方への思索
第7章 社会を変えるには
この中から、いくつか引用します。
(第1章の終わりの部分) 社会を変えたくないと思っても、変えなければならないし、すでに変わってきています。それを避けることはできません。黙っていてゆっくり沈没するか、どこかで大破綻するか、よい方向に変えるように努力するかの違いです。 課題になるのは、そうした避けられない転換のあいだに、日本社会の支払う犠牲を最小限におさえること。そしてその転換のあいだに、多くの人が自分で考え、声をあげられるようになり、積極的に社会を変える動きを活性化させることです。そこで試されているのは、日本が「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の時代へのノスタルジーを断ち切り、新しい時代へふみだすことができるか否かにほかなりません。(第6章の終わりの部分)
……日本型工業化社会が限界に来て、「ふつうの先進国」になる時代がやってきたのだと思います。
しかしそのとき、ポピュリズムに流される人が多いか、それとも市民参加や社会運動に向かう人が多いかは、これからの選択にかかわっています。(第7章の終わりに近い部分)
動くこと、活動すること、他人とともに「社会を作る」ことは、楽しいことです。すてきな社会や、すてきな家族や、すてきな政治は、待っていても、とりかえても、現れません。自分で作るしかないのです。
こうした主張に、まったく同意します。
私は大学で教えているので、どうしても学生を中心に考えてしまうのですが、
日本が「ジャパン・アズ・ナンバーワン」であったときを経験せず、
「ふつうの先進国」であることを当たり前のこととして捉える若い人たちが
ふつうに「社会を作る」ことを楽しんでほしいと願っています。
NORAは、里山とかかわる場を提供するとともに、
「社会を作る」場としてもありたい。
本書を読んで、あらためて強く思いました。
(松村正治)