第37回 『シビック・アグリカルチャー』(トーマス・ライソン)
2012.8.1雨の日も里山三昧
トーマス・ライソン『シビック・アグリカルチャー』(2012年、農林統計出版)
「シビック・アグリカルチャー」とは耳慣れない言葉だと思いますが、
副題の「食と農を地域にとりもどす」がこの本のメッセージを伝えています。
本書は、アメリカの農業とフードシステム(食の生産、加工、流通、
消費等の仕組み)が産業化とグローバル化を進めてきた一方で、
1990年代から一部の地域では、そうした流れの逆を行く
ローカル化の動きが現れてきたことを受けて書かれました。
そして、この地域に根ざした農業と食料生産の再生を、
著者は「シビック・アグリカルチャー」と名づけました。
具体的には、ファーマーズ・マーケット、CSA(地域に支えられた農業)、
レストランが支援する農業、直売所、市民農園などを含む動きを指します。
ここで、シビック=市民的という言葉が用いられているのは、
これが単に新鮮で安全で地元産という消費者の要求を満たすだけでなく、
雇用機会の創出、アントレプレナーシップ(起業家精神)の奨励、
地域アイデンティティの強化といった点も含んだ用語だからです。
そして、巨大アグリビジネス企業によって生産、加工、販売される商品に対して、
オルタナティブを提供するという意味があります。
本書は、先にシビック・アグリカルチャーを定義した上で、
前半では、過去数十年の間にアメリカの農と食が劇的に変化したこと、
つまり、小規模な家族経営による農場が大幅に減る一方で、
企業的な経営体によって大量の食料が供給されるようになったことが
わかりやすく描かれています。
後半では、おもに1990年代から2000年代前半までの
(原書は2004年に刊行されています)
シビック・アグリカルチャーの動向が紹介されています。
訳者による解説もあり、この分野を概観するには便利な本です。
これは、アメリカを舞台にした話ですが、
かなり似た状況が日本でも生じているように思います。
小規模農家が減り、企業的な経営体が生き残るとともに、
食と農が地域から確実に遠くなっています。
一方で、地元産の農産物を見直す動きが拡がり、
直売所、ファーマーズ・マーケットなども増えています。
NORAも、国内のこうした動きと歩調を合わせるように
「里山とかかわる暮らしを」というキャッチフレーズを掲げ、
毎週、NORA野菜市を、毎月、神奈川野菜の食事会を開き、
顔の見える関係性を大切にして、
食と農を地域に取り戻す活動をおこなっています。
本書を読むと、NORAの活動は、グローバル化に対して
世界中で生じているローカル化の運動と連携することのできる
性質のものであると感じられます。
日本では、こうした動きを含む地産地消という言葉がありますが、
これには市民的(シビック)という意味が
あまり意識されていないように思います。
NORAは、新鮮で安全な地元農産物を消費するという
消費者の要求を満たすだけの水準にとどまらず、
地域に生きる者として、食と農を私たちの手に取り戻すために、
活動していこうと考えています。
そのためには、本書に書かれているような海外の動きも意識し、
視野を広く持ちつつ、特定の場所にこだわっていこうと思っています。
(松村正治)