雨の日も里山三昧

寄り道7 NORAの10年をふりかえる(1)

2011.12.1
雨の日も里山三昧

来年1月22日(日)、NORA10周年記念イベントを、
フォーラム南太田で開催します。
当日は、10年間の活動内容を紹介するとともに、
これまでの成果と課題を確認し、
3人の招待ゲストの方々と意見を交換しながら、
これからの展望を示したいと思っています。
ゲストとしてお招きするのは、
十文字修さん(循環の島研究室[新潟県佐渡市])、
寺川裕子さん(里山倶楽部[大阪府河南町])、
相川明子さん(青空自主保育なかよし会山崎・谷戸の会、[神奈川県鎌倉市])。
身近な地域の里山/谷戸の自然と文化を守りながら、
現代の生き方・暮らし方を見つめなおす活動を長く続けられてきた方々です。
その志の高さ、懐の深さ、発想の豊かさに、
NORAはたえず刺激を受けながら活動を続けてきました。
いずれ劣らぬ魅力的な3人にお越しいただくことになったので、
来月の記念イベントが実りあるものとなるように準備しています。
そこで、今回と次回のコラムでは、記念イベントに向けて、
これまでの10年間の活動内容をふりかえることにしました。
(なお、NORA設立までの経緯については、
ウェブサイトに「NORA設立の経緯」として概略をまとめてあります。)

NORAは、1980~90年代に横浜市内において、
里山保全活動をおこなってきたメンバーが集まって、
2000年に団体を設立し、2001年に法人化しました。
設立当初は、おもに森林・樹林地と人びとをつなぐ
コーディネーターとしての仕事を、自治体から多く受託していました。
たとえば、2001年度から始まった
「かながわボランタリー活動推進基金21」にいち早く協働事業を提案し、
市民による里山の保全と活用のシステムづくり」(2001~05年度)を実施しました。
この事業では、神奈川県内にある「手入れが必要な緑地」と
「手入れにかかわりたい人びと」をつなぎ、
ボランティアの力で緑地管理をしていく仕組みづくりをおこないました。
1990年代半ば頃から個々のメンバーは、
これと同様の仕事をしてきた経験があったので、
NORAは設立当初から、県との協働事業に着手することができたのです。

しかし、すでにこの当時から、
市民ボランティアと緑地をつなぐ事業には、
次のような課題があると認識されていました。

1.無償ボランティアを前提としているため、
保全活動への参加者が高齢者層に偏りやすい。
2.保全活動に伴って出てくる樹木等のバイオマスを
有効に活用できず、多くを林内に放置するしかない。
3.市民による里山管理では、作業自体が目的化されやすく、
目標があいまいな場合は、生物多様性を高めているとも限らない。
4.「弁当と怪我は自分持ち」というキャッチフレーズのもと、
団体としてのリスク管理がおろそかになりやすい。

これらのうち、特にNORAの初期は課題の1と2をリンクさせ、
里山資源を有効に活用しながら収益を出すことができれば、
そこに仕事が生みだすことができ、
若者を引きつけることができるのではないかと考えました。
この発想は、県との協働事業のサブタイトル、
「ボランティアによる里山保全モデル事業
・資源活用の仕組みづくり・里山経済圏の確立」によく現れています。
しかし、里山の資源が経済的な価値を失って、
人びとが手を入れなくなったという時代の流れに抗うことは難しかったです。
それでも、この里山資源の活用という課題に対しては、
その後も取り組み続けています。
たとえば、横浜市の「環境まちづくり協働事業」に
「大きな木プロジェクト」(2004~06年度)を提案して採択され、
大きな広葉樹の伐採研修の後、美術館・職人・アーティストとの
コラボレーションによって、樹木の活用法の開拓に努めました。
また、環境省が2005年度に公募した「エコ・コミュニティ事業」
(NPO等が地方公共団体と連携して行う循環型社会の形成に向けた取組)に
竹資源活用のための流通ルートづくり事業」を提案して採択され、
竹のリサイクルに向けた情報を整理しました。
けれども、いずれも試験的に実施して終了し、事業化には至りませんでした。

こうした経験から最近では、
里山の木材資源を商品としてお金を生み出す仕組みを考えるよりも、
資源を有効に生かして社会に豊かなサービスが生まれることを示し、
寄附金等を増やせないだろうかと考えています。
たとえば、2008年度の「ヨコハマ市民まち普請事業」に提案した
森に隣接した旭高校外周道路のコミュニティ空間化」では、
NORAの活動場所である川井緑地から出る木材を活用して、
緑地と高校との間にある外周道路を整備し、
快適なコミュニティ空間をつくりました。
また、今年度は横浜市の「みどりの夢かなえます事業」に
「森づくり団体の製材お助け作業」を提案し採択されました。
これは、間伐材の処理に困っている森づくり団体からの求めに応じ、
移動型の製材機を現地に運び込んで、製材作業の指導や実施をおこなうもので、
里山の資源を有効に活用しようとする試みは続けています。

次に、市民による里山管理の現場では作業自体が目的化しやすく、
活動の目的・目標があいまいな団体が少なくないという課題についてです。
市民による里山ボランティア活動に多くの参加者がかかわるようになり、
グループ内での作業方針をめぐる問題が生じたり、
地域社会とトラブルを抱えたりする例が目立つようになりました。
これらは、関係者の間で合意形成に基づく計画が
つくられていないことなどが、こうした問題の要因になっていました。
特に最近の里山では、生物多様性という観点から保全することが
社会的に求められるようになっていることから、
木を伐ったり草を刈ったりという管理作業にも、
目標を立てて進めていくことが、次第に必要となってきています。
しかし、そうした社会的ニーズとかかわりなく、
活動を進めている団体も少なくないと思います。
こうした現状に対してNORAでは、
2007年度に三井物産環境基金から助成を受け、
「森づくりの舵取り技術(管理計画作成技術)を身に付ける
~市民による森づくり管理計画コーディネーター養成講座と
ガイドブックの作成」を実施しました。
この事業では、森づくりの管理計画を調整する
コーディネーターに必要なスキルを身に付ける連続講座を開催し、
そこでのフィードバックを踏まえて、ガイドブックを作成しました。
その成果が、昨年発行した『ミルマップ・ワークショップ!
~みんなで描く森づくりプラン』という小冊子です。
この中で、身近な「みどり」について多様な価値観を持つ人びとが
相互理解を図りながら合意形成に努め、適切な役割分担と連携によって
森づくりプランを描いていく方法を提示しました。
ここには、これまでに取り組んだ横浜市における森づくり管理計画実習の
経験なども取り入れられており、この領域の課題に対する
NORAからの1つの応答というかたちになっています。
さいわい、日本造園学会や日本緑化工学会の学会等で紹介される機会があり、
学問の世界からも注目される取り組みとなりました。

最後に、活動団体のリスク管理という課題についてです。
里山保全活動では、チェーンソーや刈り払い機を使用することが多く、
万が一事故が発生した場合、ひどい怪我となる可能性は高いと言えます。
にもかかわらず、里山ボランティアの現場では、
リスク管理があまり意識されていない例が見られます。
プロの現場と違って、安全教育が義務づけられていないので、
ホームセンターで安いチェーンソーを購入し、
技術的な指導を受けないまま、安易に使用するという例が見られます。
しかし、この問題に対して行政は、積極的な対策を講じていません。
里山保全活動において、動力の使用は勧めていないというばかりで、
多くのボランティアが使用している現状に対応していません。

NORAとしては、危険だから取り組まないという姿勢ではなく、
安全に配慮した活動を広めていきたいと考え、
これまで安全な伐倒技術を身に付ける講座等を実施してきました。
今年からは、さらにこのメッセージを積極的に打ち出していくため、
森づくりボランティアに山道具の安全使用をすすめるプロジェクトを
始めることにしました。
具体的には、チェーンソーで有名な株式会社スチール社の製品に関し、
販売店である株式会社シンコーと契約を交わし、
販売サブ店として販売、サービス業務を始めることになりました。
品質の良いチェーンソーを紹介し、販売時にはきちんと使用方法を説明し、
アフターサービスもおこなうという内容です。
また、購入者を対象として、安全に山仕事ができるように
現場での研修事業も計画しています。
森づくりを楽しむためには、
まずは安全に気を配ることが大事だと考えてのことです。

以上、NORAの10年間の活動のうち、
特に森林関連で取り組んできた内容をまとめました。
NORAの5つの活動分野(ヤマ、ノラ、ムラ、ハレ、イキモノ)のうち、
「ヤマ」にかかわる活動です。
次回のコラムでは、それ以外の活動、
特に「ノラ」「ムラ」にかかわる活動をまとめる予定です。

(松村正治)

雨の日も里山三昧