寄り道26 個人事業主ネットワークとしてのNORA

2016.12.1
雨の日も里山三昧

「松村さんは、どのくらいNORAの活動をやっているの?」と聞かれることがある。
この質問の真意は、おそらく、松村は理事長という肩書きだけど、
ただ名前を貸しているだけなのか(そういう大学教員は多そうだ)、
それとも、実施的に運営にかかわっているのかを知りたいということだろう。

活動することの意味を、「はまどま」で事務仕事をすることや、
川井緑地そのほかの現場に出かけて、保全活動をおこなったり、
イベント・講座などのスタッフとして働くことに限定すれば、月に2日程度である。
その意味では、大して活動に参加していない。
しかし、自分の感覚からすると、
全体の仕事量の40%くらいはNORAの活動に充てているように感じる。
事務局宛てメールのチェック、サイト、SNSの更新・チェック、メルマガの編集・発行、
プロジェクト全体の進行管理、スタッフ会議の運営、担当プロジェクトの企画・調整、
現行事業の評価とビジョンの提案、外部団体等とのネットワーク化、
助成金・補助金獲得のための書類作成、総会資料・活動報告書等の作成、
NORA理事長として委嘱された社会的活動、取材対応、依頼原稿の執筆など。
つまり、ほかの法人であれば、事務局長が務める業務を多く担当している。

しかし、NORAの場合、事務局長を置いていない、というより事務局を置かず、
事務局機能をスタッフが分担するかたちとなっている。
それで、いくつかの事務仕事を引き受けるので、
実質的には事務局長のような役割を担っているのだが、
形式的には事務局(長)を置かない運営スタイルを採っている。
これには明確な意図があって、法人運営の中心となる位置を空けることによって、
ギャップをコアスタッフが埋めないといけない環境をつくり出しているのだ。
組織が大きくなれば、法人経営者と事業担当者を分けるべきだろうが、
予算規模が1,000万円にも満たない団体なのだから、
法人全体の運営管理に必要な事務はスタッフで分担すればいいし、
個別事業の運営管理は担当スタッフが事務を引き受ければいいと考えている。
この方針には、経営効率を優先し、スタッフの専門化を進めることに対し、
私が違和感を覚えていることも反映している。
つまり、「里山とかかわる暮らし」を求めるならば、
効率よりも公平、あるいは多様性を、専門性よりも全体性を志向すべきだと思っている
(すでに、こうした組織経営の考え方については述べたことがある→マネジメント時代に問われるNPOの存在理由、横浜市市民活動支援センター『animato』8号所収)。

NORAという組織は、私にとって自己であり他者である。
NORAの活動が評価されて、私も認められることがあるし、
声を掛けていただけることもある。
一方、自分を表現する際に、NORAを適当に使うこともある。
NORAとの間にwin-winの関係を築こうとしているようにも思う。

その際、いつも意識しているのは、NORAは制度に過ぎないということだ。
NORAのために健康を害したり、追い詰められたりするのは馬鹿らしい。
もちろん、NORAの仕事を担うとき、ときには重荷に感じることもあるが、
苦しくなったら、スタッフに相談して、下ろさせてもらうようにしている。
引き受けた仕事が重荷になるのか、やり甲斐と受け止められるのか、
一概に言えるものではないが、本当に困ったときには投げ出せばいいと考えている。
私がこのように自分勝手だから、ほかのスタッフも同様であるべきだし、
実際、NORAの話し合いで、このことは確かめ合っている。

NORAには、「NORA人(のらびと)」というジャーゴンがある。
これは、NORAに所属する人のことではなく、
里山とかかわる仕事や暮らしを実践する/志向する個人を指している。
すなわち、NORA人が集うネットワーク活動が
NORAという法人組織を舞台に展開しているという感じである。
いわば、個人事業主のゆるやかなネットワークのようなものなので、
実際、どういう組織なのかわかりにくいという声をいただくこともある
(その質問に答えられるように、いつもNORAの組織図を持ち歩いている)。

あらためて、このようなNORAの運営方針と自分の考えを述べるのは、
これからますます、個人にフォーカスを当てて活動を展開したいという思いからだ。
来年2月に開催する「里山とかかわる仕事と暮らしフォーラム(仮)」は、
そうした思いから現在企画を組み立てているイベントである。

NPOは、あるビジョンを掲げた旗の下に集う有志の集団だ。
NPOの存在意義とは、個人のやる気を活かし、個人の思いを大事にし、
個人の願いを叶え、個人の苦しみを癒し、個人の痛みを和らげ、
個人の悩みを解消するためにあるはずだろう。
だから、NORAとしての方向性に迷うときは、
個人一人ひとりの生き方、働き方に寄りそうことを軸にする。
憲法改正に関連して個人の自由を尊重することの是非が問われ、
ブラック企業・ブラックバイトに関するニュースが多かった2016年の年末に、
このことを宣言しておきたい。

(松村正治)

雨の日も里山三昧