寄り道20 「まちの近くで里山をいかすシゴトづくり」序文

2016.1.1
雨の日も里山三昧

今月、新しいプロジェクトのキックオフ・イベントとして、「まちの近くで里山をいかすシゴトづくり」というワークショップを開催する。
新たにスタートさせるプロジェクトとは、都市近郊の里山を保全・活用することで、持続可能な共生社会の構築を試みようというもので、今年から腰を据えてじっくりと進めていくつもりだ。これから進もうとする方向を示し、その行き先へと向かおうとする有志とともに、新たな航海を始めるのだ。

そこで、今月のコラムでは、この企画の趣旨を、webサイトに掲載したもの以上に踏み込んで説明したい。

今回のワークショップは、タイトルを2つに分解すると、「まちの近くで里山を」×「里山をいかすシゴトづくり」となる。
つまり、1つは地域(エリア)を意識しているということだ。エリアとしては、都市近郊の、特にこのプロジェクトでは、多摩・三浦丘陵郡(岸由二さんが「いるか丘陵」と命名)とその周辺をイメージしている。
NORAの活動拠点は、ほぼこのエリアに含まれるし、私が幼少の頃に過ごした場所、現在の自宅や職場の大学も、ここに位置している。
また、ここを舞台に新しいシゴトづくりに挑戦する人びと、特に若手の活躍が目立つようになった(今回のワークショップの2日目には、そうした人びとにご登壇いただく)。

このエリアは、都会でも田舎でもなく、都市でも地方でもない。
このため、中途半端という印象を与えやすいが、双方の長所を両取りできる可能性もある。
たとえば、仕事をするならば都会で、暮らすならば田舎でという理想を持っている人は多いだろうが、都市近郊の「トカイナカ」では、仕事も暮らしも充実できるかもしれない。
うまく工夫すれば、ライフ・ワークをバランス良く楽しめるように思う。

2013年にベストセラーとなった『里山資本主義』では、いわゆる地方の事例が多く取り上げられていた。おそらく地方創生のヒントを、この本に求める人に多く読まれたのだろう。
つまり、里山資源が豊かにある地方に、明るい希望を与えたものと考えられる。
しかし、このエリアの里山は、量的に豊かとは言えない。
この一見不利に思える条件をどのようにクリアしていくのか、考える必要がある。

もう一つのねらいは、里山保全と地域経済をつなぎたいということだ。
NORAは、約15年前にNPOを立ち上げたときから、「里山でシゴトする!」ことをキャッチフレーズとして掲げ、これを実現しようとしていた。
かつての里山は、人びとの生活・生業と結びつき、利用されていたために適切に管理され、結果的に生態系が保全されていた。だから、この関係性を取り戻すためには、里山とかかわる仕事をつくり出すことが重要だと考えていた。
しかし、十分に戦略を練る余裕もないままに、「シゴトする」こと自体が次第に目的化してしまった。その結果、設立後7年目には、NPOとしての目的を果たすことができず、軌道修正を図ることになった。
その際、「里山でシゴトする」その手前にあり、日常のライフスタイルを見つめ直すキャッチフレーズ「里山とかかわる暮らしを」を掲げるように変更した。

この方針転換から、さらに約7年の月日が流れた。
この間、私たちは、2008年のリーマンショック、2011年の福島原発事故を経験した。
首都圏の街を見回せば、2020年の東京五輪に向けて、土木・建築業は賑わっているが、都市近郊の里山に目を向ければ、特に若手を中心に、人と里山をつなぎ、新たな仕事を創出しようとする動きが広がっているように見受けられる
NORAとしては、こうした動きの輪に加わり、あらためて「里山でシゴトする!」ことにチャレンジしたいと思っている。

ただし、今回は以前と同じ言葉を再利用するのではなく、「里山を“いかす”シゴトづくり」と表現を少しだけあらためた
ここには、「いかす」(生かす・活かす)ということを深く考えたいという気持ちが働いている。
都市近郊の里山はけっして広くなく、量的には豊かとは言えないが、近くに多くの人びとが住んでいるという特徴がある
だから、里山資源をモノとして利用するのではなく、サービスとして利用する方法を開拓していくことが求められるだろう。
こうした人びとに向けたレクリエーション・教育・医療・福祉などのサービスを、総合的に提供できるとしたら、このエリアの里山の価値は非常に高まるはずだ。

一方で、都市近郊の里山は、生物多様性の保全が求められる公共性の高い空間である。
このため、里山資源を適切に利活用するにしても、生態系をまもることは前提となる。
実際、このエリアの里山は、公園緑地として組み込まれたり、行政の指導下でボランティアによる保全活動が展開されたりしている場所が多い。
たいてい法規制の網がかかっているので、「いかす」にもハードルがあるのだ。
里山を「いかす」としたとき、生態系をまもることには問題ないが、いざ里山の資源を「活かす」となると、それが公的な財産であるかどうか、その活用によって得られる収益をどう分配すべききかどうかなど、議論すべき問題が多くなる。このため、おのずと行政の管理下では、里山資源の活用に厳しい制約が課せられやすい。
行政との協働を進めてきたNPO等には、このような問題に直面している例が少なくない。
里山保全を進める上で、行政というアクターの重要性は疑いようがないが、つねに行政の動きを前提として考えると選択肢が狭くなる。
このため、このプロジェクトでは、多様な有志のアクターが協力しながら、里山の保全と活用を進められないかと考えている。

その際、ボランティア活動を中心的に担っている高齢者が主体となるのではなく、次世代を担う若い年代の人びとがリードしていくような枠組みづくりが必要だろう。
そのためには、暮らしを支えることのできる仕事をつくるという目標を掲げることが大事だと思う。

以上のようなことを考えながら、私は今回のワークショップを企画した。
しかし、まだ、考えたいこと、考えるべきことが整理できてはいない。
本当に解決すべき課題は何か。そのために、どのようなリソースが必要なのか。
それは、どのような仕組みによって、あてがうのか・・・。
こうしたことを、登壇される方や参加される方と一緒に考えていきたい。

最後に、ワークショップの流れを簡単に説明したい。
1日目のテーマは「里山保全・森づくり活動のこれまでとこれから」。
新しいことを始めようとするとき、先におこなわれてきたことから学ぶことは重要であるこれまでの経験を継承・共有することによって、同じような失敗を避けやすいし、これからを考えるための土台を固めることができる。
この日は、およそ1990年初頭から四半世紀におよぶ里山保全・森づくり活動の経験を共有し、直面している課題を解決するための展望を描く。話題提供者3人のお話をうかがった後、参加者といっしょに意見を交換し、可能性や課題などの論点を2日目につなぎたい。

2日目のテーマは「里山資源を活かした持続可能なシゴトづくり」。
里山資源をいかすシゴトに挑戦している方、若手から話題を提供していただき、参加者とともに今後の戦略・仕組みづくりを考える。この集いをきっかけに、具体的に何を始めるのか方向性を示すことが目標だ。

この2日間が終わったとき、自分がどのような気持ちになっているのか。
まったく予想がつかないだけに、不安を覚えるよりも、楽しい気持ちでいる。

(松村正治)

雨の日も里山三昧